【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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三章

56話 とおとい

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 近頃、皇子二人がよく一緒にいる。
 それは学園の人間にとって、とくに貴族出身の魔術師候補たちにとっては異様な光景だった。

 皇太子ピングと第二皇子アトヴァル。
 二人の皇子は母親の身分差や本人たちの能力の差のせいで、関係が歪になってしまっていることは周知の事実だったからだ。

 皇子たちが不仲だったからこそ「居残り殿下」だの「出来損ない皇太子」だのとピングを嘲笑できていた有象無象は、優秀なアトヴァルが隣に立つだけで少なくなっていった。
 ピングは、これまでになく快適な学園生活を送ることができている。

 そして今、皇子二人に目の前に並ばれたティーグレは、紫の瞳を丸くした。

「弁当、ですか?」

 授業と授業の合間の移動時間。
 行き交う生徒たちでざわつく教室で、ティーグレが問いかけてくる。ピングは椅子に座りながら頷いた。

「そうなんだ。リョウイチの故郷ではそういうのがあるらしい。な、アトヴァル」
「外で食べるものらしいんだが、オニギリ?というものが入っていて……ワクワクする食べ物らしい」

 この後別の教室に移動予定のアトヴァルは、立ったまま教科書を握る手に力を込めた。
 照れているのか、質問しなければならないことを恥じているのか。珍しく自信なさげに節目がちで、頬は薄く染まっている。

 一番に相談を受けられて機嫌の良かったピングだが、アトヴァルが知らないものをピングが知っているわけがない。

 そこでピングは閃いた。
 リョウイチに詳しいティーグレなら、「ベントウ」というものも、その中に入っているものもよく知っているのではないかと。

「アトヴァルはそれをリョウイチに作ってやりたいと……ティーグレ!?」

 ピングは驚いて椅子を鳴らしてしまった。
 隣に座っているティーグレが、顔面を覆って反り返っている。椅子の背もたれの強度の限界に挑戦するかのように、思いっきりだ。

「やば……推しがとおとい……むり……」

 しかも、何やらモゴモゴとくぐもった声で呟いている。ピングは恐る恐る覗き込んだ。

「大丈夫か」
「だいじょばない」

 プルプル震えているティーグレは、言葉通り大丈夫ではなさそうだ。
 アトヴァルは冷ややかな淡青色の目でティーグレを見下ろし、静かに息を吐いた。

「いつもの発作ですか」
「いつもより酷くないか?」
「待ってほんと……予定にないボーナスイベほんと……なんて? 手作り弁当? 待ってかわいい……」

 完全に人との会話が不可能になっている。
 こうなってしまったティーグレははっきり言って使い物にならない。幼い頃からの付き合いで皇子たちはそれをよく分かっていた。

 ピングは頬杖をつき、アトヴァルを見上げる。

「他の者にアドバイスをもらうか。誰なら知っているだろうか」
「そうですね、ローボはさまざまな国の知識がありそうですが」
「いえ、俺が教えます。ザ・弁当を作りましょう」

 諦めようとした瞬間、ガバッとティーグレが背中を伸ばした。ピングとアトヴァルの肩が同時に跳ねる。

 改めてティーグレを見ると、とても冷静な真顔で親指を立てていた。アトヴァルに弁当を教える役目を誰にも渡さないという気迫を感じる。

「発作が収まった……のか?」
「では頼もうか」

 アトヴァルはもう達観した目をしている。さすが、幼い時から異様な愛をぶつけられていた男は違う。
 ピングはなんだかんだと仲の良さそうな美形同士のやりとりを、嫉妬だけでもない複雑な気持ちで眺めた。

 と、いうやりとりをしたのが昨日。
 そして今日。
 授業は休みの日だが、学園内にある調理実習室を借りてピングとアトヴァルは唸り声をあげていた。
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