【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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三章

62話 魔術演武

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 炎を纏った狼が華麗に舞う。
 獣の咆哮が轟き、巨大な熊が目の前の獲物を引き裂く。
 雷鳴と共に走る白い虎は、背を向ける影に食いつき地面に引き倒した。

 円形の舞台には砂塵が立ち込めている。それでも観客たちは目を細めてなんとか見ようと試みた。

 流星祭最終日、祭り中一番の見せ物である魔術演武の真っ最中だ。

 優秀な生徒3人が魔獣と戦う様子を、皆が大興奮で見守る。
 皇族のみが座れる特等席で、ピングは手に汗を握っていた。隣にいるアトヴァルも食い入るように見ている。

「……っと、ちゃんと見てもらわな意味ないやんなー」

 鼻歌まじりにローボの褐色の指が天に魔法陣を描けば、一瞬で観客たちの視界は晴れる。

 競技場の地面には、多様な魔獣たちが虫の息で倒れていた。立っているのは3体だけだ。
 巨大な熊の隣に立つオルソは足元を見下ろして凛々しい眉を顰める。

「手応えがないな」
「まぁ、見せ物だからな。不必要なくらい派手な魔術でそこそこの敵を倒すのが目的って言っただろ?」

 ティーグレは自ら風の魔術を纏って空高く飛び上がる。観客から歓声が上がると、片目を閉じて手を振った。
 そしてその手を地面に向け、呪文を唱える。

「ローボとオルソは避けろよー!」
「えー? 嫌やでー」
「どうせなら受け切らせていただきます」
「いや、そういうんじゃねぇからなこれ!」

 軽口を叩きあいながら、ティーグレは雷の雨を舞台上に降らせた。
 観客席に被害が及ばないように範囲を円形に制御している。器用なものだとピングは感心した。
 あっという間に、残っていた三体も地面に体をつく。

 舞台上にいたローボとオルソはというと、それぞれの使い魔が代わりに雷を受け切ったようだ。
 本人たちはきちんとその後ろに避けていて、ピングはホッと胸を撫で下ろした。

「すごいな3人とも……」
「はい。見事な魔術です。ローボは魔術同士の組み合わせが上手く、魅せる事に長けている。オルソは実戦向けで確実に仕留めていた。見せ物としてはあの巨大な熊がそもそも目立ちますし」
「ティーグレは勢いがすごいな! 派手な上に威力がこう……すごくて! すごいな! 格好良かったな!」
「……そうですね。本人にもそう伝えてください」

 口元をほのかに緩めたアトヴァルに、幼児を見るような温かい目をされる。
 一人一人の魔術を分析して見ていたアトヴァルに対して、純粋に楽しんで見ていたピングはへらりと笑った。

 上手い表現もできず、言語力の無さが少し恥ずかしい。自分の大雑把な見方が浮き彫りになってしまった。

「あ、あの。とにかく3人とも頑張ったな!」
「大盛況ですね」

 観客席から投げかけられる賞賛の声を浴びながら、三者三様の反応をしていた。

 オルソは丁寧に腰を下り、ローボは楽しげに両手をブンブン振っている。
 片手を上げて会場を見回していたティーグレは、皇族専用の席の方向を見て止まった。

「あ! こっちを向いたぞ! ティーグレー!」

 ピングが嬉々として大きく手を振ると、ティーグレの手も左右に動いた。大勢の中でも自分に応えてくれたのが嬉しくて、ピングは破顔する。

 更に、ティーグレは手を口元に当ててキスを投げてくる。
 ピングの頬に熱が昇るのとほぼ同時に、背後の席から黄色い声が上がって飛び上がりそうになる。

「あ、あいつはほんとに……!」

 何故、自分に向けてだと思ってしまったのかとピングは頭を抱えて俯いた。
 もしかしたら、この後ろにティーグレの意中の人がいるのかもしれない。
 大騒ぎしている女性観客たちを振り返りながら、ピングはしょんぼりと眉を落とす。

 だが、ポンポンとアトヴァルに肩を叩かれて背筋を伸ばした。

「す、すまない。皇族としてここに座ってるのに」
「今のは皇太子殿下に向けてですよ」
「え、そ、そうだろうか」
「間違いなく」

 至極真面目な声と表情てアトヴァルが断言してくれる。素直なピングは、それで気持ちをあっさりと持ち直した。
 ティーグレは親しい友人を特別扱いしてくれたに違いないのだと。

 実は、似たような会話を後ろの席の女性たちもしていることを2人は知らない。
 皆、自分にだと思うことで気持ちを高めていたのだった。
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