【三月書籍化予定!】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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三章

エピローグ

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 晴天を白い虎が翔ける。
 心地良い風が羽毛のように柔らかい手触りの金髪を揺らして、ピングは目を細めた。
 ティーグレはピングの背後で難なく虎を操り、細い肩に顎を置く。

「まさか皇帝に挨拶にいくことになるとは」
「将来を決めた人ができたらすぐに教えろと言われていたからな」

 ピングは虎の周りを自由に泳ぐペンギンを撫でながら、背中の温もりに体を預けた。

 二人が心を通わせてすぐ、ピングは言いつけ通りに皇帝と皇后に手紙を送った。
 するとその日のうちにピングとティーグレの元に、

『次の休日、二人揃って顔を見せなさい』

 と、皇帝から返事が来たのだ。
 魔術で転送されてきた手紙を見たティーグレの狼狽ぶりを思い出すと、ピングはついニヤニヤとしてしまう。なかなか見ない顔だった。

 ティーグレにとってはなんの前触れもなくやってきた皇帝からの連絡だったのだから、当然だ。
 数日経った今ではピングの言葉に目尻を下げる余裕も出てきて、その時の可愛げはどこにもない。

「ピング、将来を決めてくれたのか」
「当たり前だろう。お前のいない未来なんて考えられない」
「かわいい」

 ティーグレは腰に回してくれていた腕に力を込め、後頭部に口付けてくる。ピングは心がむず痒くて、頬を桃色に染めながらも唇を尖らせた。

「お前は最近、それしか言わないな」
「かわいいから仕方ない。あー良い匂い」

 金髪に顔を埋めて深呼吸している恋人がたまに心配になるが、元々こういうやつだったと気を取り直す。
 ピングはティーグレに好きにさせながら、ふと振り返った。

「だが一つ問題がある」
「なんだ?」
「お前は男だから跡継ぎを産めないことに気が付いたんだ」

 ピングは真剣だった。
 至極真面目に言ったのに、ティーグレは変なものを見るような表情になった。

「今? え? それ今言う? それは本来、好きになっちゃった時に考えることだろ?」
「許してもらえるだろうか」

 耳の痛い言葉には反応せず、ピングは腕を組んで項垂れた。

 この国では同性同士の恋愛や結婚は問題ないから忘れていた。
 というよりも、あまり考えていなかった、なんて言えるわけがない。

 皇帝には後継を残す義務がある。
 だから皇后だけでなく側妃まで娶って、血を残そうとするのだ。

 皇太子であるピングにも当然その義務はのしかかる。ティーグレと結ばれた上で女性とも結婚するということも出来るが、ピングはそれを望まない。
 愛しあった、ただ一人とだけ一緒になりたかった。

 なんとか説得しなければと力が入るピングの肩を、ティーグレはポンポンと叩く。

「まぁ大丈夫。皇帝、『跡継ぎのことはおいおい考えよ』ってゆるーいこと言うから」

 気の抜けるような言葉に、ピングは目を見張る。
 確かに穏やかでおおらかな父が言いそうなことではあったが、流石に後継問題をそんな簡単に流してしまうだろうか。
 しかしティーグレの声は確信めいており、適当なことを言っているようには見えなかった。

「ど、どうして分かるんだ」
「ゲームでそう言うんだよ」

 拍子抜けするとともにピングは納得した。
 ティーグレはこの世界の誰よりもこの世界について詳しいのかもしれない。物語上で起こりうることは、全て分かるのだ。

「転生者というのは便利だな……」
「んー……どーせならもう少しチートな能力持って転生したかったけど」

 知らない言葉の登場だ。
 今まではいつものよく分からない言葉だと流してきたが、ティーグレが前にいた世界にも興味が出てきた。
 ピングは気になった単語を復唱してみる。

「チートな能力ってなんだ?」
「すごく優秀な能力」
「……」
「おわぁ!?」

 ドスンッという音と共にホワイトタイガーが傾く。
 青空色の瞳から光が消えたかと思うと、ペンギンがティーグレに体当たりしたのだ。

 慌ててピングを抱き締めて体勢を立て直したティーグレが目を白黒させている。
 当のピングはフンッと鼻を鳴らした。

「一体、なんの嫌味だ」

 すでに優秀な能力を持っているというのに、これ以上を求めるとは。向上心といえば聞こえがいいが、ピングからすれば高望みしすぎだと頬を膨らませる。

「ん、んー……チートの説明って難しい……」

 ティーグレは苦笑して頭を掻いた。

「ピングをずっと、間違いなく守れる能力が欲しいっていうか……いだっいだいっ! なんで!?」

 黄色い嘴がティーグレの脇腹を襲う。
 涙目になってピングを見下ろす紫色の瞳に、チロリと赤い舌を出して見せた。

「守らなくていい」
「嫌だ。チートがなくても一生守る」
「お前はずっと守ってくれてたんだろう?」

 ピングはホワイトタイガーの上で、体ごとティーグレと向き合った。風に撫でられて冷たくなった頬を両手で包む。

「今度は私がお前を守れるようになりたい」

 何もかもティーグレの方が優れているのに、どうしたらそれができるのか分からないけれど。
 人生を賭けた巨大な愛に報いるのだと心に誓う。

「そういうところ好き」

 ティーグレは涼し気に笑うと、顔を傾けて手のひらにキスをしてきた。すでに両手両足の指では足りないほど口付けていても、その都度ドキドキと胸が鳴る。

「ほ、本気にしてないだろう!」
「してるって。俺のこと大好きってことだろ?」
「……うん」
「ほんと、かわいい」

 今度は鼻先に唇が触れてくる。
 ティーグレにキスされていないところは、ないのではないだろうか。

 そんなことを思いながら、手を繋ぎたくなって抱き締めてくれている腕を辿る。その先で、不意に固いものが手に触れた。
 白い石のはまった、恋のお守りの指輪だ。

「今回は指輪に助けられたな」

 ピングは男らしく骨ばった手の指輪と、自分が首から下げている指輪とを見比べた。紫色に染まっていたピングの指輪も、ティーグレの魔力がなくなって白色に戻っていた。

 それでも、指輪に触れるとまだあの温かい魔力に包まれているような気がして唇が緩む。
 ティーグレは魔石同士をコツンと合わせて頷いた。

「魔石に魔術を掛けると保ちが良いし楽なんだよな。同じ魔石同士だと共鳴しあって効果が強くなるし」
「そ、それで突然これを買ったのか?」
「そう。ま、ピングとお揃いにしたかったのも、恋のお守りにすがりたかったのもあるけもな」

 むずかゆいことも含めてサラリと真相を告げられ、頬が熱くなる。ピングは指輪をギュッと握り込んで胸に当てた。

「恋のお守り……効果あったな。大事にしないと」
「もう要らないから新しいの作ろ」
「な、なんでだ!」

 バッサリと切り捨てられて、ピングの声が大きくなる。自分を守ってくれた魔石だ。大切にしたいというのに。
 ティーグレはピングの握り拳をツンツンとつついて、唇をへの字に曲げてきた。

「ローボから貰ったやつだろ?なんかやだ」
「……仕方ないな」

 独占欲がチラつく言葉に、満更でもない表情になってしまう。
 あっさりと手のひらを返したピングの目元に、ティーグレの親指が触れた。

「空色の石をつけたいなー」
「恥ずかしいやつ」

 ピングはそう言ってから、自分は何色がいいか考えた。どうしたって、目の前に広がる透き通るような紫色が何よりも美しく感じる。

「私は紫の方がいい」
「絶対この会話、世界中の恋人同士がしてる!」

 ティーグレが吹き出して声を上げて笑う。ピングも、つられて大きな口を開けて笑った。
 大空に響く笑い声のリズムに乗って、ペンギンが楽しそうにクルクルと2人の周囲を回る。

 すると目測を誤ったのか、ペンギンがピングの頭にぶつかった。 

「わ……!」
「お?」

 2人の驚いた声は、互いの口の中に飲み込まれていった。


 おしまい


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あとがきの欄がないので、本文にて失礼します。

ここまでお読みいただき、本当に本当にありがとうございました!
本編は終わりですが、ティーグレ目線の番外編が残っております。
ピング目線では知り得ない情報もあるので、よろしければ番外編もお楽しみください!
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