【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
81 / 83
番外編 ティーグレ目線

一番のハッピーエンドとは 終

しおりを挟む
 使い魔が言うことを聞かないなんて初めてのことだった。

(……俺の、メンタルが乱れた……?なんで……っ)

 魔力と精神は深く関わっているから、原因は間違いなくティーグレにあるはずだ。
 でもティーグレはわけが分からなかった。そのままホワイトタイガーにしがみつき、ふらつくピングの腰に腕を回して支える。

「どこへ行くんだ!?」
「分かりません……!」

 戸惑いを隠さず振り返ってくるピングの髪がティーグレの鼻先に掠める。ふわりと漂う花のような香りに、全くそんな場合ではないのに胸が高鳴った。

 その間にも、2人を乗せたホワイトタイガーはどんどん校門から離れていく。

(ダメだ……! 早く行かないと! 行かないとアトヴァルが先に……っ)

 焦る頭と裏腹に、どこか心が軽くなるのを感じる自分がいた。
 大空で風に吹かれながら眉間に深く皺を刻んでいると、ピングが眉を下げて覗き込んできた。

「大丈夫か? こんなにホワイトタイガーが言うことを聞かないなんて、何か嫌なことがあったのか?」

 本気で心配そうな声にハッとする。
 ティーグレは、使い魔が精神の乱れで言うことを聞かないだけでなく、使い手の願いを叶えようとすることがあるのを思い出した。

「嫌、なのか……俺……」
「ティーグレ?」
「いや、まさか……」
「何かあったなら私に言ってみろ」

 腰に回したティーグレの手を、温かい手がギュッと握ってくる。真剣そのものな青空色の瞳が、いつも以上に煌めいて見えた。
 その色は紫の瞳に、言い逃れできないほど美しく映る。

 ティーグレは色素の薄いまつ毛を眩しそうに伏せ、そして開いた。
 何度見直しても、宝物のように輝く存在が腕の中にいる。

「すみません、ピング殿下」
「な、何がだ?」

 空を駆けるホワイトタイガーが動きを止めた。
 頭は妙にスッキリしていて、心が凪いでいる。風で乱れた髪を掻き上げたティーグレは、戸惑った表情のピングに微笑みかけた。

「なんか、渡せねぇわ」
「え? えと……なんの話だ?」
「いいえ、なんでも。じゃあ俺は用事ができたので、ピング殿下は先に教室へどうぞ!」
「え、え? 一緒に行かないのか? お前は大丈夫か? おい! ……あれ? 転入生は!?」

 ホワイトタイガーはいつも通り手足のように動き始めた。目に映る景色がビュンビュン飛ぶほどの猛スピードで教室の前まで移動する。
 慌てるピングを宥める間もなく廊下におろし、改めてホワイトタイガーで学園内を駈け抜ける。

 ホワイトタイガーの足よりも、ティーグレの頭はフル回転していた。

(アトヴァルの次に俺が会わねぇと……! なんて台詞だったかな……それから次は)

 こうなったら、困難な道でもアトヴァルとの和解ルートにするしかない。
 一歩でも間違えれば、ピングが死んでしまう恐ろしい選択を自分はしてしまった。

 でも、とティーグレは優秀な使い魔の白い毛を握る。
 自分の望みに気づいた紫の瞳に、もう迷いはない。

 ピングの命もピングの心も、どちらも手に入れる方法は一つしかないのだから。
 大変だなんて言っていられない。必ず達成しなければ。

 ティーグレは実るはずのない恋をするピングを見守りながら、とにかく走り回った。

 優秀な攻略対象者たちは下手に追跡魔術を施すわけにもいかず、偶然を装ったり何か話題を考えたりしてリョウイチと必要以上に接近しないようにした。

 意外とすんなりことが運んだのは、ピングによるアトヴァルへの嫌がらせだ。

 ゲームよりも素直に育ったピングがアトヴァルを攻撃するとは思えなかったので、ティーグレは自分がペンギンに魔術をかけて動かそうと考えていた。
 だが意外にも、ペンギンが勝手に動いたために何もする必要がなかった。

 ゲーム中のピングは「わざとじゃない」としらばってくれている風だったが、本当にわざとじゃなかったのかもしれないと思ってしまうほど実際のペンギンは自由だった。

 ティーグレはここに至るまでのことをベッドの上で思い出しながら、腕に乗る金色の髪をふわりと撫でた。
 幼い頃と変わらぬあどけない寝顔に、心が温かくなる。

「いっぱい泣かす羽目になったよなぁ」

 今、腕枕なんてしていられる奇跡を噛み締めた。
 予定通りにアトヴァルより先にリョウイチに会わせられていたら今頃は、と想像するだけでも胸の奥が騒つくようだ。

 後悔はない。それでも、ピングのことが好きならばピングの幸せを1番に願って行動すべきだったかもしれないと頭を過ることがある。
 今夜はそういう日だった。

「……ごめんな。どうしても、誰にも渡せなかった」
「ん……」

 そっと薔薇色の頬に口付ければ、隣の体が身じろいだ。
 成人男性にしては高い声と共に、うっすらと空色の瞳が覗く。

「起こしちゃったか?」
「てぃーぐれ」

 疲れて寝ているピングが起きるのは珍しい。少し触り過ぎてしまったかと思うティーグレだったが、寝ぼけた声を聞いてピングの額に自分のそれを合わせる。
 静かに、柔らかい囁き声で言葉を紡いだ。

「まだ寝てて良いぞ」
「……そう、か?」

 ピングの瞳が再びとろりと閉じる。同時に、額がティーグレの胸に擦り寄ってきた。顎に触れる金の髪が心地よく擽ったい。
 目尻を下げたティーグレは、だらしなく緩んだ唇でふんわりとした髪に口付けた。

「かわいい」
「おまえも、ねろ」
「ん、そうする」

 ギシリと音を立てて、ティーグレはピングの体を改めて抱きしめる。自分よりも一回り小柄で細くて、でも強く抱き締めても壊れないしっかりとした男の体だ。
 柔らかいとは言い難いが抱き心地が良くて、腕に収めるとしっくりとくる。

 温もりが腕の中で完全に力を抜くのを感じながら、ティーグレは再び口を動かした。

「ピング、愛してる」
「わた、し……も……てぃ……ぐれ、がいちばん……」

 ピングはほぼ無意識に返事をしてくれた。
 すぐに聞こえてくる安らかな寝息も含めて、全てが愛おしい。
 力の限り抱きしめたい気持ちを、グッと堪える。

「完璧、ではないかもしれないけど」

 ティーグレは起こさないように、慎重にピングの背を撫でた。

「一緒に幸せになりましょうね」

 言った本人以外の誰にも聞こえない呟きを闇に落とし、紫色の瞳はゆっくりと瞼の奥に消える。

 おしまい


しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。

竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。 自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。 番外編はおまけです。 特に番外編2はある意味蛇足です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...