【完結】青春は嘘から始める

きよひ

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桜田と空の場合

四話

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「空! 居るか!」

 俺は昼休みになった瞬間に教室を飛び出し、隣の教室に駆け込んだ。
 こういうのは勢いが大事だからとにかく早くしないと。

 授業を終えたばかりの先生や他の生徒たちがギョッとしてこちらを向く。

「桜田どうした?」
「空? 空って言った?」

 などと教室中がざわついた。
 やっちゃったかな、と思ったけれど、まぁ良いか。

 注目されながら教室を見渡すと、一番後ろの窓際の席で頬杖をつきながらこっちを見てる美形を見つけた。

「飯、食おうぜ!」

 入り口から声を掛けると、完全に他人のふりをしたいという表情でそっぽを向かれる。
 しかし、そんなことで退いてやる俺ではない。

 先生までもがソワソワとした様子で見守る中、空のところまでズカズカと歩く。
 教室の空気は無視して肩に腕を回し、窓の方を向いている顔を覗き込んだ。

「飯、一緒に食おうぜ!!」
「……パン買いに行くから放せ……」

 俺のしつこさにとうとう諦めた空が、大きなため息を吐いてゆっくりと立ち上がった。
 
 ◆
 
 購買でもみくちゃになってパンを買った後、3階の端にある空き教室に入る。
 普段授業を受ける教室とは階段を挟んだ場所にあり、あまり使うことのない部屋だった。

「いつもここで食べてるのか?」
「誰も来ないからな」

 余った机がまばらに置かれている中で、窓際にある椅子に空は座った。
 いつもひとりで飯食ってるのかな? 彼女がいたらその子が誘いに来るか。俺みたいに。

 あれ、俺、彼女?

「なぁ、空。もう1回言うけどさ。昨日のって罰ゲームの告白だったんだよ」

 当初の予定を思い出した俺は、弁当箱を包む赤い布を解きながら切り出す。
 パンと一緒に買っていた牛乳にストローを刺した空は、さして興味なさげに目線を寄越した。

「だから?」
「その、悪ふざけしてごめんなさい」

 腹が鳴りそうだったので早く食べたかったが、弁当箱も箸も置いて座ったまま頭を下げる。

 しかし、何の反応もない。
 少しだけ顔を上げてチラ見すると、パンの袋を千切っているところだった。
 いやいや、なんか言えよ! と逆ギレしたくなる。

「だからさ、恋人とより戻したら良いんじゃないかな。それこそ罰ゲームだったとか言って」

 俺の謝罪なんて、なんの意味もなさなそうだった。だからノリだったのかなんなのか、フってしまった彼女に触れてみる。
 だが、返ってきたのは驚きの答えだった。

「また誰かが言ってきたらそいつと付き合う」
「……どゆこと?」

 空が言うには。
 彼はあまりにもモテすぎていた。相手を選ぶことも断ることすら面倒になるほどに。
 そのため、告白されたら必ず付き合うことにしたらしい。
 浮気は浮気で面倒なので、必ず前の彼女とは別れるのだという。別れるのは面倒じゃないのかよ。

 今までトラブルがなかったのが不思議なくらいの、愛のかけらもないシステムだよな。
 俺はモテモテで羨ましいとか以前に「人でなし」の一言のルールを、何でもないことのように説明する空に激昂した。

「はー!? なんだそれ! ふざけんなよ!」
「俺の勝手だろ」

 おそらく、こんな反応にも慣れっこなのだろう。ピクリとも表情筋を動かさずにパンを齧っている。
 手に持っている焼きそばパンは、派手目のメイクをした女子に

「空、間に合ったから買っといたよ~!」

 と、笑顔で投げ渡されていたものだ。

 こんな不誠実な男が、何故、顔が良いだけでモテるんだ。
 顔が良いからか! そんな馬鹿な!

 俺は立ち上がって空の胸ぐらを掴んだ。

「相手の子はそれでいいのかよ!」
「知らん。興味ない。俺はヤれれば良いしな」

 氷のような男とはこういうやつのことを言うんだろう。
 近づいた顔は、興奮している俺とは正反対の静かな表情と声で淡々と喋る。
 つまり、体目的で女の子と付き合っていると、そういうことだ。

 俺は勢いよく手を離した。
 流石に、体は揺れて椅子がガタリと音を立てる。

「そんなやつは! 願い下げだ! 今俺と付き合ってるってんなら別れる!!」
「断る」
「なんでだよ」

 あまりにもあっさり拒否されて、俺は真顔になってしまう。
 意味が分からない。
 俺じゃ、お前の欲求を発散させられないだろ。

「お前、うるさいけど面白いからな」

 パンの最後の一欠片を口に放り込みながら、なんとも感情の読めないことを言ってくる。
 
 こっちが別れるって言ってんのに!
 でも合意がないと別れられない! のか!?
 え、付き合ったことないから分かんないぞ?
 双方の合意がないと別れられないならこいつが了承しないとずっと恋人なのか?
 そんなの嫌だけど!?

「……お前、どのくらいの頻度で告白されるわけ?」
「一週間から二週間ってとこか」

 イケメンってすごい。
 しかし、そのくらいの期間なら我慢できる。
 出来るだけ早く誰かが告白してくれることを期待しよう。

「あー、誰だよこんなやつに告白しちゃったの…」
「お前だろ。」

 ぐうの音も出ない。
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