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桜田と空の場合
三話
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俺が告白したのは空凪。
隣のクラスの、いわゆる不良。
短い金髪で耳にはピアス、シャツのボタンはいつも開いてて中から派手な色のTシャツが見えている。
金髪が違和感ないくらい似合ってて、冷たい目と高い鼻、小さい顔に長い足の長身イケメン。
同じくらいの短髪なのに、なんの変哲もない黒髪で、低身長童顔の俺とはえらい違いだ。
毎日喧嘩してるとか、恋人が日替わりだとか、他校に舎弟が百人いるとか中学の時に周辺の不良を全員シメたとか。
どう考えても不良漫画読み過ぎな奴らが流した噂を一身に受けてるやつだった。
ファッションであの格好してんじゃないかなと俺は思っている。
校則違反だから不良は不良だけど。
そういうわけで、俺は放課後に隣のクラスに行った。
教室に残ってたやつに空の居場所を聞くのに「罰ゲームだ」とだけ伝えると「勇者かよ」と笑われた。
俺が言うのもなんだけど、空の扱いが酷い。
不良なんてほとんど居ない治安の良い学校だから完全に魔物扱いだな。
そして、最後の授業の前に保健室に寝に行ったとの情報を入手する。
先生が外出中の保健室で、カーテンの閉まっているベッドがひとつあった。
体調が悪いわけではなく、ただのサボりだとは思うけど起こすのは可哀想だ。
(寝てるなら、仕方ないから明日にして部活に行くかなー)
ちょっと緊張してきてしまったのもあって、自分に言い訳して帰りたくなる。
大丈夫だろうけど、もし噂通りの鬼みたいな奴だったらどうしよう?
今更ビビって立ち往生してしまう。
だが、そんなことは言っていられなくなった。
ジャッとカーテンが開く音がしたのだ。
俺は思わず姿勢を正した。
「……」
「あ、えーと、空……?」
「……なんだお前」
ベッドに腰掛けたままの、まだ眠そうな、気怠げな目がこちらを見た。
トーンは低いけれど、どこか涼やかな耳心地のいい声だ。
会話なんてしたこどがない俺がわざわざ声を掛けたから、物凄い怪訝な表情をしている。
悩んでいてもしょうがない。
なんせ、俺が言い出したんだし!
男らしくいけ!
というわけで、俺はそのまま思いっきり告白したわけだ。
そして、OKされた。
なんでだよ。
え?
なんでだよ。
ちゃんと嘘だって伝えたのに。
俺はびっくりしすぎて笑えてきた。
「ね、寝ぼけてらっしゃる?」
「いや……ああ、ちょっと待て」
ズボンからスマートフォンを取り出すと、何やら入力している。
そして、手招きされた。
「なに…、え! 嘘だろ!?」
近づいて、こちらに向けられている画面に思わず叫んだ。
『別れる』
と一言。
連絡用のアプリの、送信先は明らかに女子の名前だった。
即座に既読がついたかと思うと電話の画面に切り替わる。
着信音が、俺たち以外は誰もいない部屋に響き渡った。
「で、出なくていいんですか」
「もう関係ない女からだ」
あんまりな出来事に敬語になってしまう。
しかし、返ってきた心底興味なさそうな声。俺は無遠慮にスマートフォンごと手を掴んでぐいぐいと押しつけた。
「正気か!? え!? なんで!? 落ち着け! 彼女だろ!? 今ならまだ間に合う!!」
「お前が落ち着けよ……」
空は溜息を吐きながら人差し指を左耳に突っ込んで、右手でスマートフォンの画面を弄る。
部屋は静寂を取り戻した。
恋人からの電話に出もせずに切りやがった。
そのまま立ち上がって、俺を見下ろしてくる。
背が高い。
俺は成長期がこれからだからまだ165㎝なんだけど、多分こいつは15㎝くらい高い。ヘディングしやすそう。
「よろしく」
右手を掴んだ状態のまま現実逃避していると、そのまま引き寄せられた。慣れた仕草で、長い指が顎を持ち上げる。
何かを考える間もなく、空の顔が近づいて。
放心した俺を置いて保健室を出て行ってしまった。
(俺のファーストキス……!)
思い出したら泣きたくなってきた。
電車の中で。
空が何を考えているかはさっぱりだが、俺の自業自得なのは間違いない。
悪ふざけのせいで急に恋人にそっけなくフラれた女子がいるのも間違いない。
いやそこは何かの間違いであってくれ可哀想だ。
とにかく、付き合うことになってしまったからにはちゃんと別れないと。
もう一回、イタズラだったことを説明し直そう。
他の皆には何があったかは言えなかったし、皆も詳しく言わなかった。
とにかく、明日にはそれぞれ謝ろうということで話は終わった。
タイミングよく電車が俺の家の最寄り駅をアナウンスする。
スマートフォンを慌ててカバンに突っ込むと、人の流れに乗ってドアへ向かった。
よし! 明日の昼休みに捕まえるぞ! ちゃんと話そう!
隣のクラスの、いわゆる不良。
短い金髪で耳にはピアス、シャツのボタンはいつも開いてて中から派手な色のTシャツが見えている。
金髪が違和感ないくらい似合ってて、冷たい目と高い鼻、小さい顔に長い足の長身イケメン。
同じくらいの短髪なのに、なんの変哲もない黒髪で、低身長童顔の俺とはえらい違いだ。
毎日喧嘩してるとか、恋人が日替わりだとか、他校に舎弟が百人いるとか中学の時に周辺の不良を全員シメたとか。
どう考えても不良漫画読み過ぎな奴らが流した噂を一身に受けてるやつだった。
ファッションであの格好してんじゃないかなと俺は思っている。
校則違反だから不良は不良だけど。
そういうわけで、俺は放課後に隣のクラスに行った。
教室に残ってたやつに空の居場所を聞くのに「罰ゲームだ」とだけ伝えると「勇者かよ」と笑われた。
俺が言うのもなんだけど、空の扱いが酷い。
不良なんてほとんど居ない治安の良い学校だから完全に魔物扱いだな。
そして、最後の授業の前に保健室に寝に行ったとの情報を入手する。
先生が外出中の保健室で、カーテンの閉まっているベッドがひとつあった。
体調が悪いわけではなく、ただのサボりだとは思うけど起こすのは可哀想だ。
(寝てるなら、仕方ないから明日にして部活に行くかなー)
ちょっと緊張してきてしまったのもあって、自分に言い訳して帰りたくなる。
大丈夫だろうけど、もし噂通りの鬼みたいな奴だったらどうしよう?
今更ビビって立ち往生してしまう。
だが、そんなことは言っていられなくなった。
ジャッとカーテンが開く音がしたのだ。
俺は思わず姿勢を正した。
「……」
「あ、えーと、空……?」
「……なんだお前」
ベッドに腰掛けたままの、まだ眠そうな、気怠げな目がこちらを見た。
トーンは低いけれど、どこか涼やかな耳心地のいい声だ。
会話なんてしたこどがない俺がわざわざ声を掛けたから、物凄い怪訝な表情をしている。
悩んでいてもしょうがない。
なんせ、俺が言い出したんだし!
男らしくいけ!
というわけで、俺はそのまま思いっきり告白したわけだ。
そして、OKされた。
なんでだよ。
え?
なんでだよ。
ちゃんと嘘だって伝えたのに。
俺はびっくりしすぎて笑えてきた。
「ね、寝ぼけてらっしゃる?」
「いや……ああ、ちょっと待て」
ズボンからスマートフォンを取り出すと、何やら入力している。
そして、手招きされた。
「なに…、え! 嘘だろ!?」
近づいて、こちらに向けられている画面に思わず叫んだ。
『別れる』
と一言。
連絡用のアプリの、送信先は明らかに女子の名前だった。
即座に既読がついたかと思うと電話の画面に切り替わる。
着信音が、俺たち以外は誰もいない部屋に響き渡った。
「で、出なくていいんですか」
「もう関係ない女からだ」
あんまりな出来事に敬語になってしまう。
しかし、返ってきた心底興味なさそうな声。俺は無遠慮にスマートフォンごと手を掴んでぐいぐいと押しつけた。
「正気か!? え!? なんで!? 落ち着け! 彼女だろ!? 今ならまだ間に合う!!」
「お前が落ち着けよ……」
空は溜息を吐きながら人差し指を左耳に突っ込んで、右手でスマートフォンの画面を弄る。
部屋は静寂を取り戻した。
恋人からの電話に出もせずに切りやがった。
そのまま立ち上がって、俺を見下ろしてくる。
背が高い。
俺は成長期がこれからだからまだ165㎝なんだけど、多分こいつは15㎝くらい高い。ヘディングしやすそう。
「よろしく」
右手を掴んだ状態のまま現実逃避していると、そのまま引き寄せられた。慣れた仕草で、長い指が顎を持ち上げる。
何かを考える間もなく、空の顔が近づいて。
放心した俺を置いて保健室を出て行ってしまった。
(俺のファーストキス……!)
思い出したら泣きたくなってきた。
電車の中で。
空が何を考えているかはさっぱりだが、俺の自業自得なのは間違いない。
悪ふざけのせいで急に恋人にそっけなくフラれた女子がいるのも間違いない。
いやそこは何かの間違いであってくれ可哀想だ。
とにかく、付き合うことになってしまったからにはちゃんと別れないと。
もう一回、イタズラだったことを説明し直そう。
他の皆には何があったかは言えなかったし、皆も詳しく言わなかった。
とにかく、明日にはそれぞれ謝ろうということで話は終わった。
タイミングよく電車が俺の家の最寄り駅をアナウンスする。
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