【完結】青春は嘘から始める

虎ノ威きよひ

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梅木と水坂の場合

七話

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1週間弱で慣れてしまった生徒会室での昼ごはん。
 俺は水坂に貸した漫画について、怒涛の勢いで語っていた。

 貸した5巻分は全部読んでくれていたので、その範囲内で語れることを語り尽くす勢いだった。
 水坂はすごく上手く相槌を打って話を聞いてくれていたのだが、その途中でふと真面目な表情になって黙ってしまう。
 俺はそれだけで正気に戻った。

(やべ、調子に乗ってひとりで喋りすぎたかな)

 落ち着かない気持ちでいちごミルクのストローに口をつけると、水坂は形の良い眉を顰めた。

「なぁ、お前飯……毎回甘い飲み物に甘いパン……」

 その指摘に、俺はある意味ドキッとした。
 机の上には食べ終わったチョココロネの袋、手にはいちごミルクのパックとクリームパン。
 水坂の栄養バランスの整った弁当と比べると雲泥の差だ。

 でも、甘いのが好きなんだ甘いのは正義。
 正直に甘党だからって言えば良い話だったけど、なんか説教されそうな空気を俺は感じ取った。

「足遅いからこれしか残ってなくてさ」

 漫画語りをしている時以上に早口で言い訳をする。
 怪訝そうな顔で水坂が何か言ってこようとしていたので、話題を変えようとそのまま俺は喋り続けた。

「ところでなんで水坂は本性隠してるんだ? 疲れるんだったら今の感じで過ごせばいいのに」

 今からいきなりキャラ変はしんどいとは思うけど。
 そもそも、初めから猫被りをしなければ疲れることもなかったはずだ。

「この感じでいる方が疲れんだよ。周りがうるさくて」

 話を聞いてみたところ、水坂は小学生の頃までなんでも思ったことを口にして正論で相手をぶっ叩くタイプだったらしい。
 言葉遣いも乱暴で、女子は泣かすし男子すら離れて行くし大人には叱られるし散々だったと。
 面倒になったので「真面目で優しい」仮面を付けて中学校に上がったらあら不思議。人気者になった。

 いやまて。すごいな。普通の人間はそんな簡単に変われないし、人気者にはならないぞ。
 顔か。顔なのか。

「言いたいこと言わないで笑ってりゃイージーモードなんだよ。見た目だけは無駄に良いからな」
「自分で言いやがった」
「頭も運動神経も良いしな。ついでにこれは賢そうに見せるための伊達メガネだから視力も2.0だ。お前は全部ないから羨ましいだろ」
「なんでそんな酷いことが言えるんだ!!」

 これでも勉強は人並みだぞこの野郎!

「でも、お前は性格が良いからなんとか自分を隠さず生きられてるだろ。俺と反対だ」
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」
「褒めてんに決まってるだろ。素直に喜べ」
「なんか嬉しくない。俺は俺を性格が良いとも特に思わないし」
「良いだろ。俺の本性知っても幻滅したとか否定的なこと言わないんだから」
「びっくりはしたけどな。なんか、面白くなってきた」

 普段と全然態度が違う水坂は、漫画の登場人物みたいだなという感想しかない。
 イケメン生徒会長に加えて裏表があるなんて。

 でも、水坂にはその感覚はよく分からないらしい。
 目を瞬かせて首を傾げている。

「お、面白い……? 俺がお前なら『水坂は人のことを脅す酷いやつだ』って拡散するけどな」
「それ俺にメリットあるか? ヒエラルキー最上位のお前が『陰キャが冗談を間に受けたみたいだ』って言ったら終わりだろ。嘘告白したのも知られて、絶対良いことない」

 大体、俺にそんな度胸がないと踏んで「恋人ごっこ」なんて吹っかけてきたくせによく言う。
 俺はため息を吐きながらクリームパンに齧り付いた。
 でも、先に食べ終わった水坂は箸を片付けながらまだ怪訝そうな顔をしている。

「少なくとも、俺と恋人ごっこなんて茶番はしなくてよくなるぞ」
「クラス中の冷たい視線と今の状況を天秤にかけた結果、こっちの方がマシなんだよ!」

 もしかして、本当に分かっていないんだろうか。
 返事と共に体にも力が入って、クリームパンの中身が少し出てきてしまった。
 弁当箱を片付け終えた水坂は、意味ありげにじっと見つめてくる。

「ふーん、残念だ」
「なんだよ」

 何を言われるのかと身構えると、長いまつ毛に縁取られた目が細まる。
 そして俺の方に身を乗り出してきたので、思わず視線を逸らした。

「実は気に入ってるから、とかかと思ったのに」

 温かい指先が、俺の顎を柔らかく掴む。強制的に水坂の顔を真っ直ぐ見る角度に持ち上げられる。
 自他共に認める美形が、鼻先が触れそうなほど顔を近づけてきていた。

「そんなわけないだろ!」

 ガタガタっと椅子が鳴る。
 狼狽えすぎた俺が立ち上がってしまった音だ。
 指が触れていた部分を中心に火傷が広がっていくみたいに、顔が熱い。
 心臓も早い。

 そんな俺を、椅子に座り直した水坂が笑みを浮かべながら見上げている。

(からかいやがってー!)

 少女漫画みたいな雰囲気に流されそうだ、
 自分の長所を最大限に活かして、俺で遊んできている。
 このままでは悔しい。
 こっちだって驚かせてやる。

「水坂、ちょっと」
「ん?」

 俺はこっそり深呼吸した後、余裕な表情をしている水坂の頬に手を伸ばした。
 同じように顔を近づけて頭突きしてやる、と意を決して体を傾けた。

「わぁあ!」
「え……っ」

 足を滑らせて机に手をついた、と思ったその瞬間。
 唇に柔らかいものが触れて。
 眼鏡と眼鏡がぶつかってカチャンと鳴った。

 俺たちふたりの間だけ時が止まった。

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