56 / 65
梅木と水坂の場合
八話
しおりを挟む俺は変わらず水坂と恋人ごっこを続けていた。
相変わらず態度がでかいし口は悪いけど、土日も漫画の感想を連絡してくれたりして楽しく過ごしている。
続きが待てないからってわざわざ40巻買ったらしい。気持ちは分かるけど金持ちかよ。
いやお金持ちの坊ちゃんって属性も持ってたわそういえば。
本当に、俺とは全く釣り合わないすごい奴だ。
とにかく読むのが早くて、土日で全部読んでしまったらしい。
(感想聞くの楽しみだなー)
と、るんるん気分で登校した俺だったが。
今日の昼休みは生徒会の用事があるとかで、一緒に過ごせないと言われてしまった。
なんでこのタイミングなんだ。
ガッカリしているのが表情に出ていたらしい。
「明日は一緒に居てやるよ」
なんて頭を撫でられた。
「上から目線すぎだろ」
と、思わず手を払い除けてしまったけれど。
本当は妙に優しい手つきと声に、ざわりと胸が騒いだ。
だんだん、本当の恋人なんじゃないかと錯覚を起こしてきている。
きっと、金曜日のキスのせいだ。
(あいつは全然、変わらないのに)
俺はハプニングで唇が触れ合った時を思い出す。
「あ、わ、わぁあ!?」
「……」
お互い唇を手で覆って見つめ合ってしまった。
俺ほど取り乱してはいなかったけど、目を見開いて固まった水坂を確かに見た。
うん、絶対見た。
顔もブワって赤くなってるのが、顔の下半分が見えなくても分かったくらいだ。
今思い出すと貴重な表情だったのに、あの時の俺はそれどころではなかった。
「あ、あああの、こんなつもりじゃなくて! あのえっと」
水坂に負けないくらい顔は真っ赤になっていただろう。
なんと言っていいのか分からなくて、俺は「えっと」と繰り返した。
しかし、水坂からの反応は何もなかった。
「……み、水坂……?」
取り乱していた頭がだんだん正気を取り戻してきて、とんでもないことをしてしまったんじゃないかという気になる。
自分の顔は青くなっていっているんだろうと分かるくらいに、指先が冷たくなってきて。
何を映しているのか分からない水坂の瞳が怖くなって、目を逸らしてしまった。
「ご、ごめんな。わざとじゃな」
「ごっこでキスまでしなくていいだろとか言ってたくせに。やりたかったんじゃねぇか」
「そんなわけないだろ!」
反射的に言い返しながら再び水坂に視線を戻すと、ここ数日で飽きるほど見たニヤニヤ顔をしてズレた眼鏡を直していた。
ついさっきまで固まっていたくせに、立ち直りが早すぎる。
伊達に中学生の頃から感情を隠す生活を送っていたわけじゃないってことだろうか。
でも水坂が調子を取り戻してくれたおかげで、その後は軽口を叩きあえる雰囲気に戻った。
今思い返してみると、あの意地悪い態度は水坂の優しさだったんだろうか。
そう頭を過ったけれど、真相は謎だ。
息をするように人を小馬鹿にした態度をとる奴だし。
俺は無意識に、水坂の感触が残っているわけもない唇に指を当てる。
(……柔らかかった……気がする……)
初めてのキス、と言っていいのか分からないようなものだったけど。
多分一生覚えてるんだろうな、なんて考えながら、俺は気分を変えて食事するために屋上へと足を向けた。
20
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
腐男子ですが何か?
みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。
ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。
そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。
幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。
そしてついに高校入試の試験。
見事特待生と首席をもぎとったのだ。
「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ!
って。え?
首席って…めっちゃ目立つくねぇ?!
やっちまったぁ!!」
この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる