【完結】青春は嘘から始める

きよひ

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梅木と水坂の場合

九話

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「あれ?  桃野とうの?」

 思わず声が出ていた。
 そこには罰ゲーム告白の標的になったイケメンの内のひとり、 桃野千秋とうのちあきが居たからだ。

 ただ屋上で昼ごはんを食べているだけなら何も思わない。
 しかし桃野は光安と一緒に教室を出たはずだ。
 てっきり一緒に食べているものだと思ったのに。

 告白を成功させてしまった光安は、まだ嘘だったことを伝えられていないらしく、昼も放課後も一緒に過ごしているらしい。
 俺も「嘘であることを伝えられてない」ってみんなに言っていることだし、実は何か事情があるのだろうか。

「梅木……ひとりか?」

 透明感のある綺麗な顔が俺を見た。
 まともに会話なんてしたことなかったのに、しっかり名前を覚えてくれていたらしい。
 俺は少し緊張しながら頷いた。

「あ、ああ。ごめん急に声掛けて。光安は?」
「さっきまで居たんだけど……宿題やるって教室に戻った」
「光安が宿題?」

 そんなの、やらないのが当たり前な奴なのに急にどうしたんだろう。

「良かったら一緒に食べないか?」
「じゃあ……お言葉に甘えて……」

 近くで見ると本当に雰囲気があるというか、少女漫画に入り込んだような気持ちにさせられる美形だ。
 水坂と並んだらそれはそれは絵になることだろう。

 俺は桃野の持っている弁当を見て驚いた。
 春巻きをメインに卵焼きや彩り用の野菜がギュギュッと詰められている。
 水坂の美しく整った弁当も美味しそうだけど、桃野のイメージとは違うボリュームのある弁当もとても食欲をそそる。

「光安が桃野の料理が美味いって褒めてたけど、本当にすごいな」
「ありがとう。良かったらどれか食べるか?」
「いや、それは悪いって」
「光安が食べてくれるかと思って、春巻きやだし巻き卵を多めに入れてたんだ。でも」

 桃野の表情が儚げに歪む。
 先週は喜んで食べていた光安が、今日はだし巻き卵1個だけしか摘まなかったらしい。

(光安が春巻きをスルー……腹でも壊してたのかな)

 しかしそういうことなら、代わりにメインの春巻きをもらってあげよう。役得だ。
 春巻きの断面から、たっぷりと具材が入っているのが見える。咀嚼すると、甘辛い旨味が口の中に広がった。
 自然と頬が緩む。

「うまい! 中にガッツリ肉が入ってる、光安が好きなやつだ」

 光安の行きつけの店にある肉入り春巻き。家にお邪魔した時に、一度食べたことがあるのと似ていた。

「カツカレーと唐揚げとだし巻き卵、肉入りの春巻きって新学期の自己紹介の時に。飲み物はコーラだった」
「よく覚えてるなぁ」

 そういえばみんなが趣味とか部活とか答える中で、光安は食べ物ばっかだって 桜田サクが突っ込んでたんだっけ。
 俺は桃野の弁当箱の中を改めて見た。よく見ると、光安の好きなものばっかり入っている。
 春巻きも、わざわざ用意したものなのだろう。

「他に、好きなもの知ってるか?」
「揚げ物はなんでも好きなんじゃないかなぁ……あとラーメンとか?」
「そうか、じゃあ次はラーメンを用意して家に誘おうかな」
「い、家に……」

 ラーメンにつられて家に吸い込まれていく光安が想像出来る。桃野、トッピングとかも凝りそうだなぁ。
 桃野は美形な上に勉強も運動も出来る。その上、料理も上手いなんて。
 やっぱり神様は不公平だ。

 光安はもしかしたら、あまりにも桃野が献身的だから、嘘だって言い難くなっているんだろうか。

「桃野は、尽くすタイプなんだな」
「だって、美味しそうに食べる顔が見れたら嬉しいだろ」

 あまりにもその笑顔が眩しくて。
 この綺麗な男が光安の告白を受けたのはノリでもなんでもなく、本気なんだろうと察した。
 良心がちくちく痛むのを感じながら、昼休みを終えることになった。
 
 そして次の日の朝、少し早く教室に着いた俺に衝撃が走った。

「桃野はゲイらしい」

 クラスメイトが話している内容が耳に飛び込んできたのだ。
 その噂と、昨日の桃野の顔が頭で混ざり合う。

 真実だと、俺はほぼ確信していた。

 心臓が嫌な感じに早くなる。
 俺はその日の昼休みに、光安、桜田サク杏山りょうを招集した。

 午前中の授業は、罪悪感でほとんど頭に入ってこなかった。

 
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