花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

虎ノ威きよひ

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隠すのがお上手で

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 二人のやりとりから、ディランの頭の中で今までの誠実で優しい影千代像が塗り替えられていく。
 少年たちに動揺を悟られないように口元を手で隠した。

「なぁ……もしかしてあいつ、相当……んー……遊んでた?」
「とんでもないです!」

 即座に否定する忠誠心の高い海里の肩を、次は稲里が掴んで揺さぶった。

「もう海里! ここは正直に言いましょう! 国中を抱いてるって言われるくらい噂が絶えない人だったって!」
「ダメでしょ! 隠すのが上手すぎて誰に嫉妬したら良いのか分からない人たちで溢れかえってたなんて、黙ってようって約束しただろ!」
「ディラン様も雌遊びが激しい方らしいので大丈夫ですよ!」
「よく見ろ稲里! 全然大丈夫ってお顔なさって……ない……」

 改めてこちらを見た海里と稲里の表情が、恐怖に引き攣る。

 ディランは、完全に無の表情になっていた。

 何も反応しない尾や耳が、それがよく動くことを知っている少年たちには殊更不気味で恐ろしく見える。
 二人の言い争っている内容は、ディランの素行も含めて嘘はないことがよく伝わってきた。

(誰にでも、ああやって笑ってたってことだ)

 いつも自分がしてきたことだ。

 影千代の言葉を全く疑わなかった自分が恥ずかしい。
 甘い声と甘い笑顔で近づいて、落ちてきた雌と一晩楽しんで。
 その時だけのひと時を過ごした。
 遊びで終われなさそうな雌への嗅覚は鋭く、トラブルは無かった。
 そうでなければ今頃、ディランは何人もの雌に責め立てられていただろう。

 影千代に雌など恐るるに足らぬと言ったことがあるが、考えを改める。
 溶岩のようにおどろおどろしい感情に突き動かされれば、誰であっても何をしでかすか分からない。

 今の自分のように。

「よく分かった。で、行き先には本当に心当たりはないか?」

 笑顔を作ることなど忘れて、尋問するかのような声が出る。
 固まっていた海里は、ハッと耳を動かして芝生に両手をついた。

「あのあのディラン様! 影千代様は、こちらに来てから全然全く本当にそういったことはなかったんです! ご病気になったのかと思うくらいずっとお部屋にいらっしゃって!」
「分かった分かった。あいつのことはよーく分かったから。場所の心当たりは?」

 主人のために懸命に舌を回す海里に、静かに目を細める。
 ようやく口元を弧にすることが出来たが、少年の緊張を和ませるには無機質すぎた。
 海里は項垂れてしまう。

「それが、本当に隠すのがお上手で……」
「あ! 唯一、堂々と通ってたのは色街ですよね」

 その場をなんとかしようと唸っていた稲里はポンと手を打ち、場にふさわしくない明るい声を出した。

 海里の口元が引き攣るのを見て、ディランは確信する。
 おそらく最初から、海里は見当がついていたのだろう。

「娼館か」

 城下町で一番有名な娼館は、旅の疲れを癒す宿の役目も果たしている。
 下手をすれば一日中居座ることが出来る場所だった。

 ディランは冷たい芝生に手をついて立ち上がる。

 人を好きになるとは、時に怒りを伴うことがあるのだと。
 初めて実感した。
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