妹の代わりにシロクマ獣人と真っ白婚!?

虎ノ威きよひ

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11話 微笑み

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 ルカがグンナルとゆっくり話せたのは、魔物脱走騒動の日の夜になってからだった。

 いつもはグンナルの部屋で寝る二人だが、今ルカは自室のベッドにいる。
 グンナルが肩の傷を心配し、とにかく動くなと何度も何度も繰り返したからだ。

 大人しく言うことを聞いたルカは、ベッドヘッドに背中を預けていた。
 そして、城下町での魔物脱走騒動を片付けてくれたグンナルの報告を聞き、目を丸くする。

「あの狐獣人が魔物討伐師だったのか!」

 暖炉の火が揺れるくらい大きいルカの声とは対照的に、グンナルは静かに頷いた。
 人の姿のグンナルからは、もう昼間の殺気は感じない。ベッドの横の椅子に座り、落ち着いて話してくれている。

「わざと魔物を逃して街が混乱している隙に、ルカを狙ったようだな」
「そっかぁ......グンナルの留守中だったのは、偶然じゃないよな」
「もちろん、狙ったことだろう」

 ベッドの横の椅子に座ったグンナルが神妙な表情になった。
 グンナルの留守中にルカが狙われたことが、彼を苦しめているようだ。端正な顔を顰め、手は膝で強く握りしめられている。

 子どもたちも言っていたが、グンナルは国で一番強いと評判の皇子だ。
 この魔物の巣窟近くの領土を任されているのは、武勇を買われてのことだと、ルカはセウロにも聞いている。

 グンナルがいてはルカに手を出せないから留守を狙った、というのは理解ができた。

「でも......」

 と、ルカは首を捻る。

「俺を殺して得する人間なんているか?」
「それは......」

 ルカの問いに、グンナルは言葉を詰まらせた。
 何か言いたげに口を動かしかけたグンナルだったが、結局唇を閉ざしてしまう。
 それを横目で見つつ、ルカは顎に手を当てた。
 
「ウルスス帝国とフィオレンテ王国の繋がりが邪魔になる......としたら、行動が遅すぎる。ウルスス帝国では、殺されるほどの恨みを買うほどの何かをした覚えもない......」
「フィオレンテ王国なら、恨みを買ってる可能性があるのか」
「王族だからな。知らないうちにいくらでもあるだろ。うーん......考えられるのはウルスス帝国の皇族に恨みを持ってるか、もしくは個人的な......」

 話しながら、ルカはグンナルを改めてしっかりと見た。
 彫刻のように美しい顔、逞しい体、耳心地いい声。感情は読みにくいけれど、とても優しくて強い、帝国の皇子。
 ルカは自分が狙われた理由について、一番可能性が高いことを思いついた。

「グンナル、もしかしてものすごく厄介な人に片想いされてるんじゃないか?」

 至極真面目にルカが言うと、グンナルは目を見開く。
 ルカの新緑色の瞳と、グンナルの黒曜石の瞳がまっすぐに見つめ合った。

 戸惑いを隠さないグンナルとそのまま膠着状態になってしまう。
 だが、不意にグンナルは口元を手で覆った。

「......その発想はなかったな......」

 僅かに下がった目尻と震え声で、グンナルが小さく笑っているのが伝わってくる。
 言外に「そんなわけないだろう」と言われてる気がして、ルカはムッと唇を尖らせた。

「だ、だってグンナルはカッコよくて優しくて、絶対大人気だろ!」
「いいや、ルカ。私は恋愛面で人気があった試しはない。皇子とはいえ後ろ盾はなかったし、こんな仏頂面では怖がって誰も近づかないからな」
「こんなに素敵なのにか!?......っいてて」

 ルカは思わずグンナルの方へと身を乗り出した。その拍子に左に傾いてしまい、肩が軋む。
 グンナルは慌ててルカの体を支え、肩を撫でてくれた。

「る、ルカ! 大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫......ほら、やっぱり優しい」

 肩に触れてくれる大きな手に自分の手を重ね、ルカはへらりと笑う。

「ウルスス帝国のみんなは目も心も節穴......いや、もしかしてグンナル、人が集まる時はいつもシロクマになってぬいぐるみみたいに静かにしてるのか?」
「ふ......」

 ルカのように獣人に馴染みがない人間の国ならともかく、ここは獣人が治める国だ。
 グンナルがモテないだなんて、意味がわからないし納得ができない。

 真面目に首を傾げるルカを見て、グンナルの顔がほころんだ。
 思わずこぼれてしまった、とわかる自然な笑顔がすぐそこにある。

 ルカは顔が急激に熱くなるのを感じた。
 全ての動きを止め、グンナルの微笑みを見つめる。

「ルカ、どうした?」

 グンナルは不思議そうに覗き込んできた。
 笑顔が引っ込んでしまい、ルカはハッとして視線を逸らす。

「いや、なにもない」
「顔が赤いぞ。もしかしたら怪我のせいで熱が出たのかもしれない」
「ち、違う......から」
「無理をするな。長々と話をしてしまった。ゆっくり休んでくれ」

 気遣わしげに言われてしまって、ルカは曖昧な表情をするしかなかった。

『笑った顔もかっこいいな!』

 と、いつもなら言えるはずなのに、何故か声が出ない。
 ルカはグンナルにされるがまま、大人しくベッドに寝かされた。

 毛布を口元まで上げて、ようやくモゴモゴと言葉を紡ぐ。

「ぐ、グンナル......」
「どうした?」
「俺、もっと色々......この領地のみんなのために勉強するな」

 もっと他に言いたいことがあったはずだったのに、言葉になったのはこれだけだった。
 うまく言語化できない感情に混乱しているルカに、追い討ちをかけるようにグンナルが再び微笑んだ。

「ありがとう、ルカ」

 深く、どこか甘い響きを帯びた声が鼓膜を振るわせてくる。
 体温の高い手にふわりと頭を撫でられ、ルカは心地好く目を閉じた。

 しかし、疲れているはずなのに心臓がうるさすぎる。
 ルカはなかなか寝つくことができなかった。


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