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10話 緊急事態※戦闘、流血有り
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牛の正体は、城で見たことがある兵士だ。
ルカが何かを聞く前に、兵士は敬礼して声を張り上げた。
「ルカ様!ここにいらっしゃいましたか!」
「どうしたんだ、魔物のことか?」
「ご存知でしたか!実は魔物討伐師が檻の魔物を誤って逃がしてしまったようで......五匹、ただ今対処中です!」
報告内容に、ルカは全身から嫌な汗が吹き出すのを感じる。
さっきの魔物は、その内の一匹ということか。
ルカは先ほど倒した魔物を指差す。
「あいつはその内の一匹か?」
「ル、ルカ様、すでに......? お怪我はございませんか?」
「大丈夫だ。でも悪い。子どもたちがいたからちゃんと仕留めたか確認できてない」
「確認いたします!」
兵士はすぐに魔物へと駆けていった。
なんの躊躇もなく近づき、ルカの剣を引き抜いている。
それを見たルカは、戦大国の兵士は一味違うと感心してしまった。
魔物は問題なく絶命していたらしい。
戻ってきた兵士にそう報告を受け、ルカは剣を受け取りながら気を引き締める。
「じゃあ俺は街の様子を見に行くから、子どもたちの避難を頼む!」
「ルカ様も避難をなさった方が」
「ウルスス国の皇族は、こういう時は前線に出るって聞いたけど」
「......かしこまりました。くれぐれもご無理はなさらず」
兵士はうなずくと、再び大きな牛の姿になる。
彼が子どもたちを全員背中に乗せるのを確認して、ルカは走り出した。
(魔物討伐師が魔物を逃すなんて! 魔物が収まったら、ちゃんと状況確認して、再発防止策を練らないと......!)
魔物討伐師とは、その名の通り魔物を討伐する仕事をしている人たちのことだ。
彼らは国や民間の人々から依頼を受けて魔物を討伐したり、時には捕獲したりする。
今回は、捕獲した魔獣が檻から逃げてしまったということらしい。
息せき切って街に出たルカの目に、戦闘中の魔物と獣化した兵士たちが飛び込んできた。
「すごい......」
ルカや子ども達のところに来たのが目玉の魔物だったことは、不幸中の幸いだったようだ。
獣化した兵士たちが戦っているのは、もっと巨大で凶暴そうな魔物だ。
鍛えられた獣人は、普通の動物たちよりも身体が大きく圧倒的に強い。
その獣人の兵士たちが、数人がかりで一匹の魔物に当たっていた。
ルカの出る幕はなさそうだ。
戦闘の指示を出す立場になろうにも、人間だけの軍と獣人の軍では作戦の立て方も違う。
ルカは己の無力さに唇を噛む。
(新しく勉強しないといけないことばっかだな)
悔しがってばかりもいられない。
戦闘は兵士たちに任せ、ルカはこの騒ぎの元凶になった魔物討伐師を探すことにした。
対魔物戦闘の専門家である上、状況を一番把握してるはずだ。
事態を早く収める手助けをしてもらえるだろう。
そう考えたルカは、兵士たちに「戦闘に集中すること」「魔物討伐師を見つけたらルカに教えること」を伝えた。
ルカは街中を駆け回る。
戦闘の声は聞こえるが、街には一般市民は誰もいない。
魔物の巣窟に近い地域なだけあって、城下町の人々は訓練が行き届いている。
素早く避難できていたようだ。
「おかしいな......魔物討伐師なら率先して魔物を抑える手伝いをしてくれると思ったのに......どこにもいない......っ」
ルカは立ち止まって、大きく息を吐く。
肌を撫でる風は冷たいが、体の内側が熱い。
どうしたものかと頭を悩ませて、唸ったその時。
細い路地から、黒い影が飛び出してきた。
「......っ!」
迷いなくルカに向かってきた影を、ルカは咄嗟に剣で防ぐ。
が、力で押し負けた。
ルカは勢いよく雪の上に倒れ込む。
転けた衝撃よりも、雪の冷たさに刺される痛みが強い。
雪が頬に触れ、凍りつきそうだ。
すぐに顔を上げて相手の正体を見る。
ルカは背中に寒気が走った。
鋭く赤い瞳がこちらを睨んでいたのだ。
「狐......? いや、魔物......、か?」
氷に覆われたような硬そうな毛に覆われた狐のような生き物がいた。
体長は一般的な狐よりも一回り大きい。
どう見ても普通の動物ではないその狐は、鋭い牙をむき、ジリジリとルカに近寄ってきている。
ルカはすぐに雪に手をつき、起き上がる。
だが、整える前に狐が飛びかかってきた。
「......ぐ、ぅ......!」
目眩がするほどの痛みがルカを襲った。
左肩に牙が食い込み骨が軋む。
ルカは右手に持った剣を振り上げ、なんとか大狐の背に突き刺す。
「ギぃ、......! クソが!」
狐が悪態をつく。
一瞬、狐の口が離れた隙に距離を取り、ルカは立って剣を構え直した。
「魔物じゃなくて、お前獣人か......!」
知っている狐と随分違ったから、てっきり魔物だと思ってしまった。
だが、魔物は人語を喋らない。
喋る動物は、獣化した獣人だけだ。
ルカの問いかけに、狐獣人は荒々しく吠えた。
「だったらどうした! お前には死んでもらう!」
「......っ! 獣人なら! 殺すわけにはいかないからっ! 捕まえさせてもらう!」
再び向かってきた狐獣人に向かって、ルカは鞘に戻した剣を振った。
避けて、避けられてを繰り返す。
互いに怪我が邪魔をして動きが鈍い。
だが、不意打ちでなければ力負けはしなかった。
ルカは渾身の力で狐の腹に剣を打ち込むことに成功する。
筋肉が軋み、痛む肩に歯を食いしばりながら、ルカは狐に覆い被さって剣で首を押さえ込んだ。
「俺に死ねって言ったな! 誰かに頼まれたのか!」
「言うわけねぇだろ! 殺される!」
「言わずとも、命の危険はあると思うが?」
「そうだぞ! 言わなくても............え?」
背後から聞こえてきた声に同調してから、ルカの体が萎縮した。
ただならぬ殺気がしたのだ。
雪の中に埋められてしまったかのような、底冷えする声。
しかし、ルカはこの声を知っている。
今ここにいるはずのないこの声は、グンナルだ。
振り返ることもできず固まったルカの目の前で、狐獣人の顔も恐怖で引き攣った。
ルカは震えそうになる唇をなんとか動かし、後ろに向かって問いかける。
「グン、ナル......?」
「ルカ」
名前を呼ばれた瞬間、ふわりと空気が和らぐ。同一人物に違いないのに、別人のような優しく深い声がした。
もふもふとした白い腕に、後ろから抱きしめられる。
「よく皆を守ってくれた。後は私に任せてくれ」
毎夜、ルカが寝る時に包み込んでくれるシロクマの腕だ。急激に緊張が解け、ルカは力が抜けてしまった。
狐獣人の首を抑えている剣は形だけになってしまったが、彼はグンナルの登場によって完全に戦意を喪失している。
そして、そうしている間にも兵士たちが集まってきてくれた。
もう狐獣人に逃げ場はない。
グンナルは、肉球のついた手でルカの頬を撫でた。
「さぁ、ルカ。すぐに怪我の手当てをしよう」
「あ、ありがとうグンナル......でも......」
ルカは怪我の痛みを忘れるほど、混乱中だ。
聞きたいことが山ほどある。
ようやく振り返って、シロクマ姿のグンナルを見上げた。
「えっと、城下町の魔物はもう大丈夫なのか?」
「ああ、殲滅したと報告を受けている。対応が早かったのが幸いだった。市民に怪我はなく、町の被害も少ない」
手短に説明してくれるグンナルを、ルカはじっと見つめた。
シロクマ姿では表情が読めないけれど、グンナルはいつもより早口で、焦っているのがよくわかる。
だから、本当に被害が少ないのか心配になってしまった。
「そうか、じゃあ今から......っわぁ」
「ルカ」
街の様子を確認させてくれ、と言おうとしたのに、体に浮遊感が襲う。地面から足が離れ、グンナルに抱き上げられた。
ふわふわの腕の中で、ルカがみじろぐ。
「な、なんだグンナル?」
「詳しい報告はまた後だ。とにかく、早く怪我の手当をさせてくれ」
「......っ」
グンナルが赤が滲んだ白いコートに鼻を寄せてくる。左腕が挙げられないほど鈍い痛みを、ルカの体が思い出してきた。
ルカが眉をひそめていると、白い腕が抱きしめ直してくれる。
(焦ってるの......俺の怪我のせいか......)
いつも以上に気遣って触れられているのを感じながら、ルカはグンナルにうなずいた。
ルカが何かを聞く前に、兵士は敬礼して声を張り上げた。
「ルカ様!ここにいらっしゃいましたか!」
「どうしたんだ、魔物のことか?」
「ご存知でしたか!実は魔物討伐師が檻の魔物を誤って逃がしてしまったようで......五匹、ただ今対処中です!」
報告内容に、ルカは全身から嫌な汗が吹き出すのを感じる。
さっきの魔物は、その内の一匹ということか。
ルカは先ほど倒した魔物を指差す。
「あいつはその内の一匹か?」
「ル、ルカ様、すでに......? お怪我はございませんか?」
「大丈夫だ。でも悪い。子どもたちがいたからちゃんと仕留めたか確認できてない」
「確認いたします!」
兵士はすぐに魔物へと駆けていった。
なんの躊躇もなく近づき、ルカの剣を引き抜いている。
それを見たルカは、戦大国の兵士は一味違うと感心してしまった。
魔物は問題なく絶命していたらしい。
戻ってきた兵士にそう報告を受け、ルカは剣を受け取りながら気を引き締める。
「じゃあ俺は街の様子を見に行くから、子どもたちの避難を頼む!」
「ルカ様も避難をなさった方が」
「ウルスス国の皇族は、こういう時は前線に出るって聞いたけど」
「......かしこまりました。くれぐれもご無理はなさらず」
兵士はうなずくと、再び大きな牛の姿になる。
彼が子どもたちを全員背中に乗せるのを確認して、ルカは走り出した。
(魔物討伐師が魔物を逃すなんて! 魔物が収まったら、ちゃんと状況確認して、再発防止策を練らないと......!)
魔物討伐師とは、その名の通り魔物を討伐する仕事をしている人たちのことだ。
彼らは国や民間の人々から依頼を受けて魔物を討伐したり、時には捕獲したりする。
今回は、捕獲した魔獣が檻から逃げてしまったということらしい。
息せき切って街に出たルカの目に、戦闘中の魔物と獣化した兵士たちが飛び込んできた。
「すごい......」
ルカや子ども達のところに来たのが目玉の魔物だったことは、不幸中の幸いだったようだ。
獣化した兵士たちが戦っているのは、もっと巨大で凶暴そうな魔物だ。
鍛えられた獣人は、普通の動物たちよりも身体が大きく圧倒的に強い。
その獣人の兵士たちが、数人がかりで一匹の魔物に当たっていた。
ルカの出る幕はなさそうだ。
戦闘の指示を出す立場になろうにも、人間だけの軍と獣人の軍では作戦の立て方も違う。
ルカは己の無力さに唇を噛む。
(新しく勉強しないといけないことばっかだな)
悔しがってばかりもいられない。
戦闘は兵士たちに任せ、ルカはこの騒ぎの元凶になった魔物討伐師を探すことにした。
対魔物戦闘の専門家である上、状況を一番把握してるはずだ。
事態を早く収める手助けをしてもらえるだろう。
そう考えたルカは、兵士たちに「戦闘に集中すること」「魔物討伐師を見つけたらルカに教えること」を伝えた。
ルカは街中を駆け回る。
戦闘の声は聞こえるが、街には一般市民は誰もいない。
魔物の巣窟に近い地域なだけあって、城下町の人々は訓練が行き届いている。
素早く避難できていたようだ。
「おかしいな......魔物討伐師なら率先して魔物を抑える手伝いをしてくれると思ったのに......どこにもいない......っ」
ルカは立ち止まって、大きく息を吐く。
肌を撫でる風は冷たいが、体の内側が熱い。
どうしたものかと頭を悩ませて、唸ったその時。
細い路地から、黒い影が飛び出してきた。
「......っ!」
迷いなくルカに向かってきた影を、ルカは咄嗟に剣で防ぐ。
が、力で押し負けた。
ルカは勢いよく雪の上に倒れ込む。
転けた衝撃よりも、雪の冷たさに刺される痛みが強い。
雪が頬に触れ、凍りつきそうだ。
すぐに顔を上げて相手の正体を見る。
ルカは背中に寒気が走った。
鋭く赤い瞳がこちらを睨んでいたのだ。
「狐......? いや、魔物......、か?」
氷に覆われたような硬そうな毛に覆われた狐のような生き物がいた。
体長は一般的な狐よりも一回り大きい。
どう見ても普通の動物ではないその狐は、鋭い牙をむき、ジリジリとルカに近寄ってきている。
ルカはすぐに雪に手をつき、起き上がる。
だが、整える前に狐が飛びかかってきた。
「......ぐ、ぅ......!」
目眩がするほどの痛みがルカを襲った。
左肩に牙が食い込み骨が軋む。
ルカは右手に持った剣を振り上げ、なんとか大狐の背に突き刺す。
「ギぃ、......! クソが!」
狐が悪態をつく。
一瞬、狐の口が離れた隙に距離を取り、ルカは立って剣を構え直した。
「魔物じゃなくて、お前獣人か......!」
知っている狐と随分違ったから、てっきり魔物だと思ってしまった。
だが、魔物は人語を喋らない。
喋る動物は、獣化した獣人だけだ。
ルカの問いかけに、狐獣人は荒々しく吠えた。
「だったらどうした! お前には死んでもらう!」
「......っ! 獣人なら! 殺すわけにはいかないからっ! 捕まえさせてもらう!」
再び向かってきた狐獣人に向かって、ルカは鞘に戻した剣を振った。
避けて、避けられてを繰り返す。
互いに怪我が邪魔をして動きが鈍い。
だが、不意打ちでなければ力負けはしなかった。
ルカは渾身の力で狐の腹に剣を打ち込むことに成功する。
筋肉が軋み、痛む肩に歯を食いしばりながら、ルカは狐に覆い被さって剣で首を押さえ込んだ。
「俺に死ねって言ったな! 誰かに頼まれたのか!」
「言うわけねぇだろ! 殺される!」
「言わずとも、命の危険はあると思うが?」
「そうだぞ! 言わなくても............え?」
背後から聞こえてきた声に同調してから、ルカの体が萎縮した。
ただならぬ殺気がしたのだ。
雪の中に埋められてしまったかのような、底冷えする声。
しかし、ルカはこの声を知っている。
今ここにいるはずのないこの声は、グンナルだ。
振り返ることもできず固まったルカの目の前で、狐獣人の顔も恐怖で引き攣った。
ルカは震えそうになる唇をなんとか動かし、後ろに向かって問いかける。
「グン、ナル......?」
「ルカ」
名前を呼ばれた瞬間、ふわりと空気が和らぐ。同一人物に違いないのに、別人のような優しく深い声がした。
もふもふとした白い腕に、後ろから抱きしめられる。
「よく皆を守ってくれた。後は私に任せてくれ」
毎夜、ルカが寝る時に包み込んでくれるシロクマの腕だ。急激に緊張が解け、ルカは力が抜けてしまった。
狐獣人の首を抑えている剣は形だけになってしまったが、彼はグンナルの登場によって完全に戦意を喪失している。
そして、そうしている間にも兵士たちが集まってきてくれた。
もう狐獣人に逃げ場はない。
グンナルは、肉球のついた手でルカの頬を撫でた。
「さぁ、ルカ。すぐに怪我の手当てをしよう」
「あ、ありがとうグンナル......でも......」
ルカは怪我の痛みを忘れるほど、混乱中だ。
聞きたいことが山ほどある。
ようやく振り返って、シロクマ姿のグンナルを見上げた。
「えっと、城下町の魔物はもう大丈夫なのか?」
「ああ、殲滅したと報告を受けている。対応が早かったのが幸いだった。市民に怪我はなく、町の被害も少ない」
手短に説明してくれるグンナルを、ルカはじっと見つめた。
シロクマ姿では表情が読めないけれど、グンナルはいつもより早口で、焦っているのがよくわかる。
だから、本当に被害が少ないのか心配になってしまった。
「そうか、じゃあ今から......っわぁ」
「ルカ」
街の様子を確認させてくれ、と言おうとしたのに、体に浮遊感が襲う。地面から足が離れ、グンナルに抱き上げられた。
ふわふわの腕の中で、ルカがみじろぐ。
「な、なんだグンナル?」
「詳しい報告はまた後だ。とにかく、早く怪我の手当をさせてくれ」
「......っ」
グンナルが赤が滲んだ白いコートに鼻を寄せてくる。左腕が挙げられないほど鈍い痛みを、ルカの体が思い出してきた。
ルカが眉をひそめていると、白い腕が抱きしめ直してくれる。
(焦ってるの......俺の怪我のせいか......)
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