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プロローグ とてもクマさん
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「……とてもクマさん」
初めて結婚相手を見た時の、第一声はそれだった。
小さな耳、黒いつぶらな瞳と顔の中央を陣取る大きな鼻。そして、曲線の多い大きな体を覆う柔らかそうな白い毛。
目に見える全てが、突き刺すような冷たい大気に適した進化を遂げた結果と言っていいだろう。
どこからどう見ても、シロクマである。
祖国から乗ってきた馬車を降り、車輪の代わりにソリ板のついた車に乗り換える必要がある銀世界にピッタリだ。ちなみに馬の代わりにトナカイが車を引いている、寒冷地ならではの車だ。
背景になっている澄んだ青空も、煌やかとは言えないが荘厳な石造りの城も、彼の存在を際立たせているような気がしないでもない。
自分の結婚相手はシロクマの獣人だと聞いている。
つまり、堅牢な城門の前にデンッと居るあのクマは結婚相手だと思われる。
思われる、けれども。
(いや、いやいやいや? そもそもあれはクマ? それともクマ獣人?)
獣人とは獣に変身出来る種族だ。
だから、目の前にいるのは結婚相手のクマ獣人なのか本物のシロクマなのか、見ただけでは判別ができない。
そのまま歩いて近づいていいのか分からなかった。
周りの騎士たちが躊躇なくシロクマに近づいて挨拶しているのを目の当たりにしていたとしても、足がすくむ人間を誰が責められようか。
悩みすぎて車から降りられないでいると、クマの方からザクザクとこちらに向かってくる。近付けば近付くほど迫力のある巨体だ。
鳥肌の立つ身を縮こまらせていると、車の小窓に黒い鼻先が寄せられた。
「お初にお目にかかる」
「喋った」
雪と風に吸い込まれそうな低い声だが、はっきりと耳に届いた。
人語だ。
普通のクマは人語を解さない。
つまり、彼はクマ獣人に相違ない。
結婚相手だと確認できると、ホッと体から力が抜けた。嫌な音を立てていた胸に、革手袋をした手を当てる。
こちらの恐怖が伝わっていたのだろう。
獣人の彼はシロクマの姿のまま、車の向こうで頭を下げた。
「怖がらせてすまない。諸事情あってクマの姿で失礼するが……私が貴女の結婚相手。ウルスス帝国第五皇子のグンナルだ。遠路遥々よく来てくれた、ビアンカ王女」
「え?」
「ん?」
呼ばれた名前に新緑色の瞳を大きく見開くと、シロクマ姿のグンナルが首を傾げる。獣の姿でも、仕草は完全に人間のそれだ。
「あの、俺……ルカです」
「ルカ?」
戸惑いながら自身を指さしてへらりと笑って見せるルカに、グンナルも戸惑いを隠せない声で復唱した。
ルカはしっかりと頷き、マフラーに顔を埋める。冷たい空気を勢いよく吸い込まぬように、ゆっくりと深呼吸する。
そして緊張する足を叱咤して車から降り、雪の上に立った。祖国から持ってきた革のブーツと外套では太刀打ちできない冷気に負けそうになりながらも、マフラーを顎下まで下げる。
クマから見たら小さいかもしれないが、上背はある方だ。
ふわりとした焦茶の短髪が見えるように毛糸の帽子をとれば、どこからどう見ても成人男性であることが分かるだろう。
ルカは白い息を吐きながら、改めてシロクマに向かって背筋を伸ばした。
「はい。フィオレンテ王国第三王子のルカ・ヴェ・ドゥルーラです」
「王子?」
「病弱な妹の代わりに俺が嫁ぐと……あれ? 聞いてらっしゃいませんか?」
そう伝えた時、「困惑した表情」がクマの顔からでも判別できるのだと、ルカは初めて知った。
初めて結婚相手を見た時の、第一声はそれだった。
小さな耳、黒いつぶらな瞳と顔の中央を陣取る大きな鼻。そして、曲線の多い大きな体を覆う柔らかそうな白い毛。
目に見える全てが、突き刺すような冷たい大気に適した進化を遂げた結果と言っていいだろう。
どこからどう見ても、シロクマである。
祖国から乗ってきた馬車を降り、車輪の代わりにソリ板のついた車に乗り換える必要がある銀世界にピッタリだ。ちなみに馬の代わりにトナカイが車を引いている、寒冷地ならではの車だ。
背景になっている澄んだ青空も、煌やかとは言えないが荘厳な石造りの城も、彼の存在を際立たせているような気がしないでもない。
自分の結婚相手はシロクマの獣人だと聞いている。
つまり、堅牢な城門の前にデンッと居るあのクマは結婚相手だと思われる。
思われる、けれども。
(いや、いやいやいや? そもそもあれはクマ? それともクマ獣人?)
獣人とは獣に変身出来る種族だ。
だから、目の前にいるのは結婚相手のクマ獣人なのか本物のシロクマなのか、見ただけでは判別ができない。
そのまま歩いて近づいていいのか分からなかった。
周りの騎士たちが躊躇なくシロクマに近づいて挨拶しているのを目の当たりにしていたとしても、足がすくむ人間を誰が責められようか。
悩みすぎて車から降りられないでいると、クマの方からザクザクとこちらに向かってくる。近付けば近付くほど迫力のある巨体だ。
鳥肌の立つ身を縮こまらせていると、車の小窓に黒い鼻先が寄せられた。
「お初にお目にかかる」
「喋った」
雪と風に吸い込まれそうな低い声だが、はっきりと耳に届いた。
人語だ。
普通のクマは人語を解さない。
つまり、彼はクマ獣人に相違ない。
結婚相手だと確認できると、ホッと体から力が抜けた。嫌な音を立てていた胸に、革手袋をした手を当てる。
こちらの恐怖が伝わっていたのだろう。
獣人の彼はシロクマの姿のまま、車の向こうで頭を下げた。
「怖がらせてすまない。諸事情あってクマの姿で失礼するが……私が貴女の結婚相手。ウルスス帝国第五皇子のグンナルだ。遠路遥々よく来てくれた、ビアンカ王女」
「え?」
「ん?」
呼ばれた名前に新緑色の瞳を大きく見開くと、シロクマ姿のグンナルが首を傾げる。獣の姿でも、仕草は完全に人間のそれだ。
「あの、俺……ルカです」
「ルカ?」
戸惑いながら自身を指さしてへらりと笑って見せるルカに、グンナルも戸惑いを隠せない声で復唱した。
ルカはしっかりと頷き、マフラーに顔を埋める。冷たい空気を勢いよく吸い込まぬように、ゆっくりと深呼吸する。
そして緊張する足を叱咤して車から降り、雪の上に立った。祖国から持ってきた革のブーツと外套では太刀打ちできない冷気に負けそうになりながらも、マフラーを顎下まで下げる。
クマから見たら小さいかもしれないが、上背はある方だ。
ふわりとした焦茶の短髪が見えるように毛糸の帽子をとれば、どこからどう見ても成人男性であることが分かるだろう。
ルカは白い息を吐きながら、改めてシロクマに向かって背筋を伸ばした。
「はい。フィオレンテ王国第三王子のルカ・ヴェ・ドゥルーラです」
「王子?」
「病弱な妹の代わりに俺が嫁ぐと……あれ? 聞いてらっしゃいませんか?」
そう伝えた時、「困惑した表情」がクマの顔からでも判別できるのだと、ルカは初めて知った。
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