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第二章
ごちそうさまです
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「まさか準決勝まで進むなんてなぁ」
リルドットは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
こんなに乱暴に頭を撫でられる機会はなかなか無い。手に合わせて頭も軽く揺れてしまう。
1回戦、2回戦の全ての試合が終了した。
もう、陽が傾いてきている。
疲れ切っていた私は、早く寮へ帰って早めのお風呂に入って早めのご飯を食べて早めに寝よう!
と決めて歩いていたのだが。
寮のエントランスに入ったところで、リルドットと生真面目リーダー先輩に出会った。
リルドットよりもリーダー先輩の方が身長高いんだなぁとか、焦茶黒目の明るい先輩騎士と黒髪黒目のきっちりオールバックで精悍な顔つきの後輩騎士の並び最高だな、とか疲れた頭で考えながら挨拶をした。
そうすると、そのままエントランスのすぐ隣にあるスペースで話す流れになったのだ。
どう考えても学生寮に置く代物じゃない、濃い灰色のハイバックソファに腰掛ける。
リルドットを挟んで3人で座っても、ソファーはゆったりと出来る大きさだった。
深く座ると体が軽く沈んでフィット感が抜群だ。疲れているからこのまま眠れそうなくらいである。
それが5つ、エントランス横の空間に圧迫感なく置いてある。
ホテルのロビーのような場所だ。
この寮は本当にすごいと改めて感じる。
夏休み前に、ここでアレハンドロがガラスを打ち破ったなぁ、などとぼんやり思い出してしまう。
「マヘイダ、シン! ここまで来たら決勝行けよな!」
リルドットは私と生真面目リーダー先輩改め、マヘイダ・ナスタチウムの背中を楽しそうにバンバン叩く。
痛い。
(無理ー)
決勝に行くということは、明日の準決勝で私はエラルドに勝たなくてはならない。
エラルドと試合するというだけでも既に逃げ出したいというのに。
「そのつもりです」
ただ笑顔を返すだけの私とは違い、マヘイダはリルドットを真っ直ぐ見て頷いた。
確かマヘイダは、去年は決勝まで進んで準優勝だったとエラルドに聞いた。
とても強いのだ。さすがリーダー先輩。
しかし、こちらはこちらで、バレットに勝たなくてはならない。高い壁だ。
エラルドもバレットも、1回戦2回戦ともに圧勝していたしな。
他の子たちと何かが違う。
「おう、頑張れよ!優勝したらなんかご褒美やるぜ。何がいい?」
マヘイダの頭も、私の時のようにガシャガシャと撫でる。
きちんと整えられた黒いオールバックが乱れた。
しかし、マヘイダは嫌がる素振りを特に見せなかった。
(良きー!)
そして出た。ご褒美だって。
イケメン卒業生がイケメン在校生にご褒美あげるんだって。
何と答えるのか、私も興味津々でマヘイダの方を見る。
マヘイダは腕を組んで上を向いた。
「褒美なんて……いや、そうですね。じゃあどこか飯でも連れて行ってください」
デートだと?
「そんなんいつも行ってるだろ。もうすぐ卒業だしその時に祝いでなんでも好きなもん食わしてやるよ」
いつも行ってるだと!?
これはあれか。想像以上に仲がいいな?
学校や仕事が休みの時、もしくは終わってから、頻繁に会ってるってことか。
冷静に考えたら、1学年差なんだから2年間一緒に学生生活を送っていたのだ。それは仲がいいに決まって、はないけど可能性は十分ある。
おや?じゃあ私、邪魔なんじゃない?
声かけない方が良かった?
私の思考など当然知るわけもないマヘイダが目を瞑って唸る。
「じゃあ……、あー、一緒に新しい剣を選びに……」
「お前、欲がねぇな。それなら剣を買ってくれ!くらい言えって!それか、そうだなぁ……優勝するためのモチベーションになるようなこと、ないのか?」
リルドットがマヘイダの両頬を引っ張って自分の方を向かせた。
私には優勝したらあなたとご褒美デートがしたいと言ってるようにしか聞こえなくて、何見せられてるんだろうとなっている。
いいぞもっとやれ。
「……では、同じ隊に」
「ん?」
「卒業した後、先輩と同じ部隊に所属したいです」
私はここに居て良いんだろうか。
リルドットが口元を左手の甲で押さえて俯いたかと思うと、右手でバシバシとマヘイダの肩を叩いた。
それから表情が緩んでいるのを隠しきれないまま、私の方を向く。
「こんな可愛い後輩いるか?」
「か、かわ……」
マヘイダの戸惑った声を私は遮った。
「なかなか居ないんじゃないですかね。可愛いですね」
淡々と、しかしハッキリと答える。真顔になるしかなかった。
真顔を崩したら変なにやけ顔になりそうだ。
「デルフィニウム様!?」
驚きの声が響く。
私のことをよく知らないマヘイダは、同意されたことが予想外だったらしい。
リルドットは自分より広い肩へと腕を回して引き寄せると、歯を見せて笑う。
「だろう。やらないぞ、俺のだからー」
「ごちそうさまです」
私は冗談めかして両手を合わせた。
ごちそうさまです。
剣術大会1日目、終了。
リルドットは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
こんなに乱暴に頭を撫でられる機会はなかなか無い。手に合わせて頭も軽く揺れてしまう。
1回戦、2回戦の全ての試合が終了した。
もう、陽が傾いてきている。
疲れ切っていた私は、早く寮へ帰って早めのお風呂に入って早めのご飯を食べて早めに寝よう!
と決めて歩いていたのだが。
寮のエントランスに入ったところで、リルドットと生真面目リーダー先輩に出会った。
リルドットよりもリーダー先輩の方が身長高いんだなぁとか、焦茶黒目の明るい先輩騎士と黒髪黒目のきっちりオールバックで精悍な顔つきの後輩騎士の並び最高だな、とか疲れた頭で考えながら挨拶をした。
そうすると、そのままエントランスのすぐ隣にあるスペースで話す流れになったのだ。
どう考えても学生寮に置く代物じゃない、濃い灰色のハイバックソファに腰掛ける。
リルドットを挟んで3人で座っても、ソファーはゆったりと出来る大きさだった。
深く座ると体が軽く沈んでフィット感が抜群だ。疲れているからこのまま眠れそうなくらいである。
それが5つ、エントランス横の空間に圧迫感なく置いてある。
ホテルのロビーのような場所だ。
この寮は本当にすごいと改めて感じる。
夏休み前に、ここでアレハンドロがガラスを打ち破ったなぁ、などとぼんやり思い出してしまう。
「マヘイダ、シン! ここまで来たら決勝行けよな!」
リルドットは私と生真面目リーダー先輩改め、マヘイダ・ナスタチウムの背中を楽しそうにバンバン叩く。
痛い。
(無理ー)
決勝に行くということは、明日の準決勝で私はエラルドに勝たなくてはならない。
エラルドと試合するというだけでも既に逃げ出したいというのに。
「そのつもりです」
ただ笑顔を返すだけの私とは違い、マヘイダはリルドットを真っ直ぐ見て頷いた。
確かマヘイダは、去年は決勝まで進んで準優勝だったとエラルドに聞いた。
とても強いのだ。さすがリーダー先輩。
しかし、こちらはこちらで、バレットに勝たなくてはならない。高い壁だ。
エラルドもバレットも、1回戦2回戦ともに圧勝していたしな。
他の子たちと何かが違う。
「おう、頑張れよ!優勝したらなんかご褒美やるぜ。何がいい?」
マヘイダの頭も、私の時のようにガシャガシャと撫でる。
きちんと整えられた黒いオールバックが乱れた。
しかし、マヘイダは嫌がる素振りを特に見せなかった。
(良きー!)
そして出た。ご褒美だって。
イケメン卒業生がイケメン在校生にご褒美あげるんだって。
何と答えるのか、私も興味津々でマヘイダの方を見る。
マヘイダは腕を組んで上を向いた。
「褒美なんて……いや、そうですね。じゃあどこか飯でも連れて行ってください」
デートだと?
「そんなんいつも行ってるだろ。もうすぐ卒業だしその時に祝いでなんでも好きなもん食わしてやるよ」
いつも行ってるだと!?
これはあれか。想像以上に仲がいいな?
学校や仕事が休みの時、もしくは終わってから、頻繁に会ってるってことか。
冷静に考えたら、1学年差なんだから2年間一緒に学生生活を送っていたのだ。それは仲がいいに決まって、はないけど可能性は十分ある。
おや?じゃあ私、邪魔なんじゃない?
声かけない方が良かった?
私の思考など当然知るわけもないマヘイダが目を瞑って唸る。
「じゃあ……、あー、一緒に新しい剣を選びに……」
「お前、欲がねぇな。それなら剣を買ってくれ!くらい言えって!それか、そうだなぁ……優勝するためのモチベーションになるようなこと、ないのか?」
リルドットがマヘイダの両頬を引っ張って自分の方を向かせた。
私には優勝したらあなたとご褒美デートがしたいと言ってるようにしか聞こえなくて、何見せられてるんだろうとなっている。
いいぞもっとやれ。
「……では、同じ隊に」
「ん?」
「卒業した後、先輩と同じ部隊に所属したいです」
私はここに居て良いんだろうか。
リルドットが口元を左手の甲で押さえて俯いたかと思うと、右手でバシバシとマヘイダの肩を叩いた。
それから表情が緩んでいるのを隠しきれないまま、私の方を向く。
「こんな可愛い後輩いるか?」
「か、かわ……」
マヘイダの戸惑った声を私は遮った。
「なかなか居ないんじゃないですかね。可愛いですね」
淡々と、しかしハッキリと答える。真顔になるしかなかった。
真顔を崩したら変なにやけ顔になりそうだ。
「デルフィニウム様!?」
驚きの声が響く。
私のことをよく知らないマヘイダは、同意されたことが予想外だったらしい。
リルドットは自分より広い肩へと腕を回して引き寄せると、歯を見せて笑う。
「だろう。やらないぞ、俺のだからー」
「ごちそうさまです」
私は冗談めかして両手を合わせた。
ごちそうさまです。
剣術大会1日目、終了。
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