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第三章

ドラゴンの伝説

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 荒れる波の音を聞きながら、改めてネルスの方を見る。
 ネルスは先ほどまでの慌てっぷりはどこへやら、ポセイドラゴンをじっと観察している。

 私の魔術への信頼が厚すぎる。

「で、ネルス。あれは不定期にくる災害みたいなものか?」
「ああ。だがなかなか出てくるドラゴンじゃない。いつも海深くに姿を隠していて、前回海から上がったのは200年も前だと言われてて研究もあまり進んでないんだ生きてる内に見ることが出来るなんて思ってなかった見ろあの美しい鱗の色と並びをおそらく太陽に当たらないから」
「ネルスー」

 突然始まる弾丸トーク。オタク特有の早口。

 放っておいたらポセイドラゴンの誕生からネルスの考察まで延々と聞く羽目になる。
 目も爛々と煌めいている。
 許されるならばもっと近づいてみたいはずだ。

 分かる、分かるよ。

 好きなことは永遠に語りたいよね。聞いてあげたい。ドラゴンの話、面白そうだし。
 ラナージュも私と同じような温かい目をしている。
 
 しかし今はそれどころではない。
 
 私の声に反応したネルスはすぐに言葉を切り、仕切り直しの咳払いをした。

「あ、うん。対処方法だったな。稀少な存在だし人間にどうこう出来るものでもないから、何をしに来たのかお伺いを立てる必要があるが……」
「あれしゃべるのか!?」

 本来ならば異世界で、しかもドラゴンが喋ろうが何しようがなんの不思議もない。
 
 ドラゴンは、神聖な生き物だ。
 その多くは人間があまり入れない深い森やら氷山やら火山やらに住んでいる。

 ごくたまに友好的なドラゴンが騎士と共に戦場を駆けたり、頻繁に人前に現れる場所があったりする。
 そういったドラゴンは人間の研究に付き合ってくれたりもする。
 
 年に1回、ネルスはドラゴンの研究所に見学に行っている。彼の父親のクリサンセマム侯爵が、かわいい末っ子のためにドラゴンの研究所に交渉したのだ。
 
 権力と金の力ってすごい。
 
 その時に、私も便乗して一緒に見に行かせてもらっている。だって現実世界で絶対見ることないもん見とかないともったいない。
 
 しかし、16年間、私は喋るドラゴンは見たことがなかった。
 
 つまり、この世界のドラゴンは喋らないと認識していたのだ。

「そういう、伝説だ」

 ネルスは肩をすくめた。

「伝説、とは?」

 ラナージュは興味深そうに聞く。
 ゲームの進行に関係のないドラゴンについての話は、ネルスルートにも出てこなかったのだろう。

 気になるよね、ドラゴンの伝説。
 勇者とか賢王とか騎士とか出てきそう。

 話を振られると、ネルスは満更でもなさそう、というか嬉しそうな表情になった。イキイキと口を開く。

「ルース王子たちの伝説よりも昔、魔族と人間は戦争をしていた……」
 ネルスの話はこの国がまだ帝国ではなく王国だった時代に遡る。
 
 魔族の動きが最も活発だったと言われる時代。魔族は魔王の元に国を作っていた。
 その魔族の国との戦に参加していた、人間側の一兵士。
 彼は魔族との交戦中に深手を追って崖から海へと転落した。

 その際に男を助けたのがポセイドラゴンだという。

 ポセイドラゴンは男と問答をし、最終的に己の鱗から作った剣を男に授ける。
 戻った男は当然、その剣の力で王国を勝利に導く。
 そして、命ある限り守護者として王国に尽くした。

 その剣は、ルース王子が魔王を貫いた剣だと言われているという。
 
 その剣、絶対、アレハンドロが持ってるじゃん。
 ゲームで魔王倒すらしいし。
 そのせいでドラゴン出現したんじゃない?


「何で剣をくれたんだ? 顔が良かったのか?」
「お前と一緒にするな。その男の国を思う気持ちに心を打たれたんだ」

 時間無いからって問答の内容を省略されてしまったからボケてみたら鼻で笑われた。

(一兵卒にドラゴンの心を打つほどの国を思う気持ちなんてあるー? どうせ顔が良いとか魔力があるとかなんかあったでしょー?)

 と、言うわけにはいかない。きっと何かあったんだ。
 私のような平凡な感覚と一緒にしてはいけない。

 とにかく、あのドラゴンは普段姿を見せない割には人間に友好的そうだ。
 その辺が伝説の通りであることを祈ろう。
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