子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
124 / 134
第三章

生きてるだけで

しおりを挟む
 授業が終わったカフェタイムの食堂へと足を運んだ。
 白を基調とした広い室内は、相変わらず女子生徒が多い。
 でも以前よりは男子の姿が増えた気がする。

 私という上位貴族が足繁く通うため、男子の甘いものに対するハードルが下がったのではないかと、料理長が嬉しそうに言っていた。
 本当にそうだとしたら、私はとてもいい仕事をしているのでは。

 空席を探していると、聞きなれたたおやかな声が聞こえてきた。

「殿下とお揃いの香りをさせていると聞いて楽しみにしてましたのに、もう香りが消えてしまったとの噂ですわ」
「ラナージュ様、殿下とシン様派ですもんね」
「パトリシアちゃんはエラルド様派だから安心だね」

 はつらつとした声と柔らかい声も続いた。
 なんだか楽しそうな話をしている。

「ふふふ、エラルド様に注意されてから香りが消えたって噂だよ! 大勝利ー!」
「他には何の派閥があるんだ?」

 テンションの高いパトリシアの背後に立って声を掛けてみる。

「えーと、バレット様と……ってシン様!?」
「シ、シン!今の聞いてた……!?」

 弾けるようにパトリシアとアンネの二人は私を振り返った。
 驚いてる驚いてる。
 噂話というか妄想話というか、その本人が登場したらその反応になるよな。

 前は「シン様にはご友人とのロマンティックな噂がある」くらいの可愛らしい感じだったのに。
 どう考えてもさっきの会話、皆さんそれぞれ推しカプがいるっぽい。

 混ぜて混ぜて!!
 と、心の底から言いたいのに何故私は本人なんだろう。

 ラナージュだけは動揺することもなく、変わらぬ優雅な調子で紅茶を飲んでいる。

「あら、ごきげんようシン様。どうして殿下の移り香を消してしまったんですの?」

 当然のように質問してくるから、周りが聞き耳を立て始めた空気が伝わってくる。

「あれは移ったんじゃなくて、同じ香水を貰っただけで……まぁいいか。邪魔するよ」

 私はラナージュの隣の席の椅子を引き、近づいてきた給仕の人にコーヒーをお願いした。

「楽しそうな話をしていたから、混ぜてもらおうと思ってな」
「申し訳ございません、出来心なんですぅ」
「パトリシア、大丈夫ですわよ。シン様は本気で楽しそうだと思ってらっしゃいます」

 祈るように指を組んで頭を下げるパトリシアに対し、私の代わりにラナージュが返事をした。
 確かにその通りなんだけどさ。

「シンって心が広いよね……」

 アンネも私が全く気分を害した様子がないことを察して感嘆している。
 だってそういう話、大好きだしもっと聞きたいからな。声かけなきゃ良かったかもしれない。

「本当のところ、お相手はどなたなんです?」
「それを君が聞くのか。人が悪いな」

 にっこりと微笑んだラナージュが首をかしげてきたので、頬杖をついて苦笑する。
 なんでもないと知っているくせに面白がりやがって、という気持ちで言ったのだが。

 ちょっと周りがザワッとした。
 そういえば私とラナージュは本格的に噂されてるんだった。

 普通にシンとラナージュ派とかもいるのかな。それとも別枠かなリアルすぎて。

「ここで私が、『アレハンドロだよ』なんて言ったら反応に困るだろう。なぁ、アンネ」
「え、う、えーと……うん」

 遠慮がちに頷くアンネに口元が緩む。
 素直でよろしい。

「エラルド様なら問題ないですよ!」

 パトリシアは元気に手を挙げて入ってきた。
 冗談なのは伝わってくるが、自分じゃなくて私でいいのか相手は。
 もしエラルドが一緒にいたら爆笑していそうだ。

 私は持ってきてもらったケーキとコーヒーに視線を落とした。
 今日はティラミスだ。

「残念ながら恋愛してる場合じゃないとフラれたんだよ」
「えー!」

 口元を覆って目を丸くするパトリシアの声に合わせて、周りのざわざわも大きくなる。
 反応が面白すぎる。

 もう少し盗み聞きしているのを隠そうよ。
 いいけどさ。

「冗談だ」

 私は肩を震わせながらティラミスを口に運ぶ。
 ほろ苦さと甘味が混ざって美味しい。口が幸せだ。

 しばらく女子会に混ざりながら、私の発言に一喜一憂する空間を面白がっていたのだが。

 私がケーキを食べ終えた頃にラナージュが突然、真面目な声になった。

「話は変わりますがシン様、わたくし、お伝えしたいことがありましたの」

 ここで話をしようという雰囲気ではない。
 魔王関連で何か分かったのだろうか。
 二人きりになった方が良さそうだ。

 私は少しだけ残っていたコーヒーをグッと飲み干した。

「じゃあ場所を移そうか」
「ええ。ではアンネ、パトリシア。また明日」

 早急に、しかし静かに立ち上がる私たちを、ぽかんとした表情のアンネとパトリシアが見送ってくれる。

「ねぇアンネ。お二人とも、隠さなくなったよねぇ」
「う、うーん……あのお二人は、違うんじゃないかな……」

 聞こえてる聞こえてる。
 耳まで優秀な私は、ひそひそ話もよく聞こえる。

 シン・デルフィニウム、たぶん生きてるだけで苦労してたと思うわ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...