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第三章

悲鳴※戦闘、流血描写有り

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 大丈夫、安心しろ、防御は完璧だ、とフラグを立てまくった割には、無事に何事もなく朝を迎えることができた。

 エラルドとバレットが起きて見張りを交代してくれたことにも気が付かなかった。
 この優秀な体でも流石に疲れていたのか、若いからこそ外でも熟睡できたのか、理由は謎だ。

 とにかく爽やかな朝だった。
 アレハンドロとネルスはもちろん、睡眠時間が短かったはずのエラルドとバレットもとても元気だった。
 朝ご飯もぱくぱく食べてるし。鍛え方が違う。

「学校行事だけあって、サバイバルとはいえ平和だな」
「騎士家系の出のヤツだけならともかく、貴族が多いからな」

 木に囲まれた細い道を歩きながら呟くと、先頭を一緒に歩くバレットが淡々と答えてくれる。

 バレットは地図を昨晩のうちに叩き込み、最短距離を覚えたのだという。
 ネルスはそれを聞いて、「なんで授業の内容は覚えられないんだ」とひとりで絶望していた。
 なんでも何も、興味のあることに脳みその容量を全振りしてるタイプなんだな。
 仕方ないね。

「ドラゴンに失礼をして、怒らせたりしなければ平和に終わるだろう」
「僕がいる限りそんなミスはしません!」
「ははは、ネルスは頼もしいなー」

 後ろにいる3人の和やかな会話が聞こえてくるが、おい待て。
 今、アレハンドロがフラグになりそうなちょっと不穏な台詞を言った気がするぞ。
 私はギギギ、と音が鳴りそうな動きで首を後ろの方へ向けた。

「ち、ちなみにドラゴンが怒る失礼なことって……」
「きゃあああああああ!!」
「……!?」

 突如、空を引き裂くような悲鳴が聞こえてきた。
 私たちは全員、足を止めて辺りを見渡す。
 だが、

「アンネ!」

 アレハンドロが声のした方に走りだしてしまった。

「殿下! お待ちください!」

 慌てるネルスの声と共に飛び出したエラルドとバレットが、すぐにアレハンドロに追いつくのが見える。
 私も後に続きたいが、ネルスをひとり置いていくのも不安だ。

 仕方なく身体強化の呪文を唱える。

 緊急事態のため必死なネルスは、自分の足が速くなっていることに気が付いていない。
 でも、ちゃんと私と同じスピードで隣を走ってくる。

 バサバサと落ち葉を踏み荒らしながら地面を蹴っていると、すぐに目的地に辿り着いた。
 大木に囲まれる中で、更に獣に囲まれている女子生徒が四人。

 本当にアンネたちだった。

 言っている場合ではないが、ヒーローのヒロイン探知力は凄い。
 我が子の泣き声を判別する母親のようだ。まぁ割と間違えるんだけど。

「怪我してるのか!?」

 禍々しくどす黒いオーラを纏った、四つ足の獣らしき影が6つ。
 近づいた私の目にまず飛び込んできたのは、それだった。

 そして、アンネとラナージュを背に庇って結界を張っているパトリシア。その震える細い足は赤く濡れている。
 あともう一人、剣の切っ先を獣に向けている女子生徒。
 濃い紫色の髪をポニーテールにした彼女は、左腕を負傷しているようだ。

 すでに剣を抜いて獣に向かっているエラルドとバレットに、私はすぐさま防御の魔術を掛ける。
 続いて、ネルスの手を引きパトリシアの元に走った。

「パトリシア、もう大丈夫だ! 結界は解いていい!」
「シンさま……!」

 私の顔を見た瞬間ぐしゃりとパトリシアの顔が歪んだ。
 そのままぐらっと体が揺れる。

「パトリシアちゃん!」
「アンネ、結界から出るな! っと……!」

 アンネが駆け寄ろうとするのを制した私は、小柄な体が地面に着く前に抱きとめることに成功した。

 目を閉じたパトリシアは気を失っている。
 痛みに耐え、随分と気を張っていたに違いない。
 いつも元気でハツラツとした顔は、今は血の気が引いて青くなっていた。

 私は改めて結界魔術を展開する。
 パトリシアの怪我の状態を確認して、足に手をかざした。
 獣の爪に割かれたであろう傷は、相当痛いだろう。まず痛みを和らげる魔術を掛けた。

「ネルス。私は……野獣? 魔獣か? とにかくあっちの加勢に行くからパトリシアの治療を頼む。仕上げは私がやる。ラナージュ、何があっても結界から出ないようにこの子たちを見張っててくれ」
「承知しましたわ」

 ラナージュがしっかり頷いてくれたのを見て、私は改めて結界の外に出た。
 怪我をしている女生徒とアレハンドロが1体ずつ、エラルドとバレットが2体ずつ相手をしているようだ。

「皇太子殿下! お下がりください!」
「下がるのは貴様だギガンチウム。その怪我、浅くはないだろう。私たちに任せておけ」
「そうはいきません!」

 当然のように戦闘に混ざっているアレハンドロと、怪我をしている女生徒改めギガンチウムは叫びあっていた。
 どっちの言い分もその通りなので、どっちも早く結界へ行け。

 だが獣の影だけが動いているような、謎の生き物を引きつけてくれるのは有り難い。
 私は空に手のひらを掲げ、いつもより声高らかに詠唱を始める。
 戦闘中の4人の意識がこちらに向くのが分かった。

「獣から離れろ!」

 詠唱後の私の声にすぐに反応した4人は、一斉に地を蹴る。
 それを確認してから、私は手を振り下ろした。

 辺り一帯に雷鳴が轟く。

 雲のないところから発生した6つの雷が、刃のように6つの影を貫いた。 
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