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第三章
絵面がとても百合
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「あれ、魔獣だったよなぁ」
「魔獣、だろうな」
剣の持ち手から手を離さずに周囲を警戒するエラルドの言葉に、アンネの隣に張り付いているアレハンドロが頷く。
私もあれは魔獣だと思う。
どう考えても普通の動物じゃない。
実態があるのかもよく分かんなかった。
まぁ剣でなんとかなってたから物理攻撃が効くことは見ていてわかったけど。
雷の魔術が効いて本当に良かった。
(でも、なんでこんなとこに魔獣が……)
この世界には魔獣と呼ばれる生き物が存在することはする。
名前の通り魔力の強い獣だ。見た目は文献によって書いてあることが違うことから、数種類いると思われる。
ちなみに私は見たことがなかった。
魔獣はドラゴンよりも希少で、人の出入りしないような氷山とか火山帯にしか生息していない。
禍々しい魔力に満ちている森の中とはいえ、こんなに人の出入りがある森に出現するものではないのだ。
そんなもんが普段からいたら、ここは貴族の子息のサバイバル場所に選ばれない。
みんなで首を傾げていると、メルが項垂れた。
「申し訳ございません……魔獣が突如現れたとはいえ、私がいながらあんなに追い詰められてしまいました」
私は彼女の腕に治癒の魔術を施していた。
メル・ギガンチウム。
1年の時の剣術大会で、私の2回戦の対戦相手だった、ジル・ギガンチウムの妹だ。
濃い紫の髪に淡い紫の瞳に整った顔。
女子の中では飛び抜けて見える長身。
髪型以外、全部姉妹でそっくりだ。
メルの言葉を聞いて、パトリシアを膝枕しているラナージュは微笑む。
「いいえ、貴女の咄嗟の判断でパトリシアは無事でしたわ」
「本当にありがとうございました……!」
パトリシアの手を握っているアンネは目にいっぱい涙を溜めていた。
彼女たちの話では、先ほどの魔獣は本当に急に現れた。
異様な気配にメルが気がついた時には、パトリシアに向かってすぐそこまできていたという。
メルがパトリシアを庇って、二人で怪我をしたのだ。
戦闘に慣れていないパトリシアの方が精神的ダメージは大きく気絶してしまっているが、メルの傷は直視したくないくらい深かった。
そのまま反対の腕で剣を持って戦ってたの凄すぎる。
「もしかしたら、パトリシアから魔力を奪おうとしたのかもしれないな」
パトリシアの腕を治療するネルスが唸る。
「魔獣は魔力を喰らうことで生きてるんだったか」
エラルドと同じくずっと森を睨みつけていたバレットが呟いた。
みんなが納得して頷くのを見ながら、私はメルの治療を終えてネルスと交代する。
私が魔術を仕込んだだけあって、ネルスの治療はよく出来ていた。
パトリシアの足の傷は、本当に仕上げをするだけでよさそうだ。
安心した私は軽く口を開く。
「私たちが運良く近くに居てよかった。アレハンドロの判断の速さにも助けられたな」
「さすがは殿下! 僕は悲鳴だけではアンネの声とは判断出来ませんでした」
ネルス、そこまではっきり言っちゃうんだ。
アレハンドロはフン、と素気なく鼻を鳴らした。
「けたたましい声だったから分かりやすかった」
「へー……」
「ふーん……」
エラルドと私は目線を合わせて適当な返事をしたのだが。
「アンネの声だったからだろ」
「えっ」
空気を読まないバレットの言葉に、アンネの顔がボンッと赤くなる。
アレハンドロは照れもせず、口端を上げてアンネの肩を抱き寄せた。
「当然だ。他の声は聞き分けられん」
「で、殿下!?」
アンネから湯気が立ちそうだ。
こっちも見ていて恥ずかしいしむず痒い。
私は敢えてその雰囲気をぶち壊すことにした。
「いちゃつくなら2人の時にしろよー。とりあえずはパトリシアの傷は治ったぞ。後遺症も残らないはずだ」
「シン! ありがとう!」
私の言葉を聞いたアンネは、アレハンドロから一瞬で意識をこちらに向けた。
すまんアレハンドロ。
でも、流石に怒っている様子も拗ねてる様子もなくて安心だ。
私はアンネに微笑みかけてから、まだ気を失っているパトリシアを横向きに抱き上げる。
良いことを思いついた。
「パトリシアはショックを受けてるだろうし、念のために先生のところに連れていこう。魔獣らしきものがいると報告もいるしな」
このまま皇太子パーティーを離脱して、あのやばい洞窟に突入しにいくことにしよう。
すると、どうやら意図を察知したらしいラナージュも立ち上がった。
「わたくしも付き添いますわ」
ズボンについた汚れをサッと払うラナージュの姿を見たエラルドは、メルへと視線をやる。
「じゃあアンネとメルだけじゃ不安だろうし、人数は多くなるけど合流する?」
「不要、と言いたいところですが。アンネはエラルド様やバレットがいた方が安心でしょう」
真面目な表情で頷いた後、メルはアンネに笑いかけた。
ちょっとイタズラっぽい、年相応の女の子の顔で。
「愛しい殿下もいらっしゃいますし?」
「メル様、からかわないでください!」
再び茹で蛸のような顔になったアンネが立ち上がる。
自然と肩に回されていたアレハンドロの手が離れた。
アレハンドロは一瞬拗ねた顔を見せたが、本当に一瞬だった。
何食わぬ顔で自分も立ち上がる。
「エラルドの案に賛成だ。では、先に進むとするか。時間は有限だからな」
この皇太子、すました顔をしているけど。内心では好きな子と行動できる大義名分を得て喜んでいるに違いない。
そういうわけでバラけることになった私たち。
私はラナージュの手をとって、教師たちがいる森の入り口まで魔術で移動した。
移動先では、ラナージュがフッと美しい唇から息を吐く。
「うまく離れられましたわね」
「ああ。じゃあラナージュ、パトリシアと先生への説明は頼んだ」
「ええ、お任せくださいませ」
私はラナージュに渡す前に、腕の中のパトリシアの寝顔を見る。
本来なら気を失った人なんて、小柄で細身のパトリシアでも相当重く感じるはずだが。
シンの体ではそこまで重さを感じないのは、二次元のイケメン特権だろうか。それとも筋力の差か。
よく分からないが、やっぱり普通は重く感じるはずなので。
ラナージュに筋力強化の魔術を掛けてから、パトリシアをその細い腕に乗せた。
スッと背筋の伸びた金髪美女の腕の中の、細身の黒髪女子。
良き。
絵面がとても百合。
「女の子同士のお姫様抱っこも絵になるなぁ」
「今のわたくしは、なんでも絵になりますもの」
「それはそうか」
優雅に微笑むラナージュに、納得するしかなかった。
それにしても、楽しそうだなぁ。
ノリノリだなぁ。
イケメンもすごく楽しいけど、美女になるのも面白そう。
「魔獣、だろうな」
剣の持ち手から手を離さずに周囲を警戒するエラルドの言葉に、アンネの隣に張り付いているアレハンドロが頷く。
私もあれは魔獣だと思う。
どう考えても普通の動物じゃない。
実態があるのかもよく分かんなかった。
まぁ剣でなんとかなってたから物理攻撃が効くことは見ていてわかったけど。
雷の魔術が効いて本当に良かった。
(でも、なんでこんなとこに魔獣が……)
この世界には魔獣と呼ばれる生き物が存在することはする。
名前の通り魔力の強い獣だ。見た目は文献によって書いてあることが違うことから、数種類いると思われる。
ちなみに私は見たことがなかった。
魔獣はドラゴンよりも希少で、人の出入りしないような氷山とか火山帯にしか生息していない。
禍々しい魔力に満ちている森の中とはいえ、こんなに人の出入りがある森に出現するものではないのだ。
そんなもんが普段からいたら、ここは貴族の子息のサバイバル場所に選ばれない。
みんなで首を傾げていると、メルが項垂れた。
「申し訳ございません……魔獣が突如現れたとはいえ、私がいながらあんなに追い詰められてしまいました」
私は彼女の腕に治癒の魔術を施していた。
メル・ギガンチウム。
1年の時の剣術大会で、私の2回戦の対戦相手だった、ジル・ギガンチウムの妹だ。
濃い紫の髪に淡い紫の瞳に整った顔。
女子の中では飛び抜けて見える長身。
髪型以外、全部姉妹でそっくりだ。
メルの言葉を聞いて、パトリシアを膝枕しているラナージュは微笑む。
「いいえ、貴女の咄嗟の判断でパトリシアは無事でしたわ」
「本当にありがとうございました……!」
パトリシアの手を握っているアンネは目にいっぱい涙を溜めていた。
彼女たちの話では、先ほどの魔獣は本当に急に現れた。
異様な気配にメルが気がついた時には、パトリシアに向かってすぐそこまできていたという。
メルがパトリシアを庇って、二人で怪我をしたのだ。
戦闘に慣れていないパトリシアの方が精神的ダメージは大きく気絶してしまっているが、メルの傷は直視したくないくらい深かった。
そのまま反対の腕で剣を持って戦ってたの凄すぎる。
「もしかしたら、パトリシアから魔力を奪おうとしたのかもしれないな」
パトリシアの腕を治療するネルスが唸る。
「魔獣は魔力を喰らうことで生きてるんだったか」
エラルドと同じくずっと森を睨みつけていたバレットが呟いた。
みんなが納得して頷くのを見ながら、私はメルの治療を終えてネルスと交代する。
私が魔術を仕込んだだけあって、ネルスの治療はよく出来ていた。
パトリシアの足の傷は、本当に仕上げをするだけでよさそうだ。
安心した私は軽く口を開く。
「私たちが運良く近くに居てよかった。アレハンドロの判断の速さにも助けられたな」
「さすがは殿下! 僕は悲鳴だけではアンネの声とは判断出来ませんでした」
ネルス、そこまではっきり言っちゃうんだ。
アレハンドロはフン、と素気なく鼻を鳴らした。
「けたたましい声だったから分かりやすかった」
「へー……」
「ふーん……」
エラルドと私は目線を合わせて適当な返事をしたのだが。
「アンネの声だったからだろ」
「えっ」
空気を読まないバレットの言葉に、アンネの顔がボンッと赤くなる。
アレハンドロは照れもせず、口端を上げてアンネの肩を抱き寄せた。
「当然だ。他の声は聞き分けられん」
「で、殿下!?」
アンネから湯気が立ちそうだ。
こっちも見ていて恥ずかしいしむず痒い。
私は敢えてその雰囲気をぶち壊すことにした。
「いちゃつくなら2人の時にしろよー。とりあえずはパトリシアの傷は治ったぞ。後遺症も残らないはずだ」
「シン! ありがとう!」
私の言葉を聞いたアンネは、アレハンドロから一瞬で意識をこちらに向けた。
すまんアレハンドロ。
でも、流石に怒っている様子も拗ねてる様子もなくて安心だ。
私はアンネに微笑みかけてから、まだ気を失っているパトリシアを横向きに抱き上げる。
良いことを思いついた。
「パトリシアはショックを受けてるだろうし、念のために先生のところに連れていこう。魔獣らしきものがいると報告もいるしな」
このまま皇太子パーティーを離脱して、あのやばい洞窟に突入しにいくことにしよう。
すると、どうやら意図を察知したらしいラナージュも立ち上がった。
「わたくしも付き添いますわ」
ズボンについた汚れをサッと払うラナージュの姿を見たエラルドは、メルへと視線をやる。
「じゃあアンネとメルだけじゃ不安だろうし、人数は多くなるけど合流する?」
「不要、と言いたいところですが。アンネはエラルド様やバレットがいた方が安心でしょう」
真面目な表情で頷いた後、メルはアンネに笑いかけた。
ちょっとイタズラっぽい、年相応の女の子の顔で。
「愛しい殿下もいらっしゃいますし?」
「メル様、からかわないでください!」
再び茹で蛸のような顔になったアンネが立ち上がる。
自然と肩に回されていたアレハンドロの手が離れた。
アレハンドロは一瞬拗ねた顔を見せたが、本当に一瞬だった。
何食わぬ顔で自分も立ち上がる。
「エラルドの案に賛成だ。では、先に進むとするか。時間は有限だからな」
この皇太子、すました顔をしているけど。内心では好きな子と行動できる大義名分を得て喜んでいるに違いない。
そういうわけでバラけることになった私たち。
私はラナージュの手をとって、教師たちがいる森の入り口まで魔術で移動した。
移動先では、ラナージュがフッと美しい唇から息を吐く。
「うまく離れられましたわね」
「ああ。じゃあラナージュ、パトリシアと先生への説明は頼んだ」
「ええ、お任せくださいませ」
私はラナージュに渡す前に、腕の中のパトリシアの寝顔を見る。
本来なら気を失った人なんて、小柄で細身のパトリシアでも相当重く感じるはずだが。
シンの体ではそこまで重さを感じないのは、二次元のイケメン特権だろうか。それとも筋力の差か。
よく分からないが、やっぱり普通は重く感じるはずなので。
ラナージュに筋力強化の魔術を掛けてから、パトリシアをその細い腕に乗せた。
スッと背筋の伸びた金髪美女の腕の中の、細身の黒髪女子。
良き。
絵面がとても百合。
「女の子同士のお姫様抱っこも絵になるなぁ」
「今のわたくしは、なんでも絵になりますもの」
「それはそうか」
優雅に微笑むラナージュに、納得するしかなかった。
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