子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

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第三章

ディアボロス

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 改めて、私はドラゴンの住処とは正反対の場所にある洞窟へ向かった。

 やっぱりすごい。
 2回目でも、全く変わらない禍々しさ。

 木ばかりの森を抜けた先にある、開けた場所。
 不自然なまでに何も生えていない地面が広がり、自然の作った地層の壁がある。
 そこに、大きな横穴が掘られている。

 インドアな私は現実ではみたことがないが、二次元ではよく見る、よくある洞窟だ。
 負のオーラが目に見える気がするところまで、よくある仕様と言えるだろう。

(よし!)

 私は深呼吸をし、両手を握りしめる。
 意を決して足を踏み出した。
 きっと何かあると踏んで、出来る限り魔術で武装してきている。
 特にメンタルをやられないように準備をしてきた。

(あとは、なるようになれ!)

 ぴちゃん、ぴちゃん、と、おあつらえむきな雫の落ちる音が聞こえてくる。
 暗く、冷たい空気が漂う洞窟の中は、当然舗装されてなんかない。
 本来は懐中電灯などを手に持ち、凹凸が激しい地面をバランスをとりながらゆっくり歩くのだろう。
 でも私は何の情緒もなく、光の魔術で辺りを照らした。
 呪文を唱える声が反響する。
 目の前に広がるのは、ゴツゴツとして狭い、殺風景な洞窟内部。
 どうせならもう少し、幻想的な雰囲気の場所を探検してみたかった。

(よろけて壁に手をついたらトラップがあったり、逆に入り口のドアが開いたりするのかな)

 そんなことを考えながら足元に魔術を掛け、普通の道を行くように進んでいく。

「魔術は問題なく使えるみたいだな」

 誰に言うでもなく声に出した言葉も、反響していて。
 大声をだしたら楽しそうだなぁと年甲斐もなく思う。

 どんどん謎の魔力が濃くなっていくのを感じる。
 なるほど。
 高濃度の魔力に充てられて息苦しく感じたり気分が悪くなる描写は、あまり正確ではないことが分かった。
 全然平気。

(私の魔力が強いからかなぁ)

 比べる対象がいたら、もっと面白かったかもしれない。
 本当に体調崩したら困るから試せないけど。

 想像していたよりも、早く行き止まりになった。
 あからさまな大きな岩が道を塞いでいる。
 そういえば、シンは大岩の前で「力が欲しいか」のやりとりをしたんだっけ。

 ここで謎解きや何か仕掛けがあるのかもと思っていたのだがそんなことはなく。
 どう考えても、この岩から魔力が溢れている。
 近づくと、岩に何かが刻まれていた。

「……我が友、ここに眠る……」

 大昔に使われていた文字だ。
 チラッと本で見たことがある。
 シンの頭脳じゃなかったら読めなかったな。

 魔王が封印されているとしたら、この文字はルース皇子のものだろう。多分。
 伝説の通りなら、魔王に変化する前の姿である魔術師は、ルース王子の親友だ。
 全く風化していないのは、魔力の満ちた空間のせいか。

「お墓ってことなんだろうけど」

 岩には封印のための魔術が施されているのが分かる。
 絶対に出てこさせるものかという強い意志が感じられるほど厳重に。

 でも。
 本当に寝てんのかこれ。

「起きてそうだな」
『よく分かったな』
「おわぁあ!!」

 心臓と肩が飛び跳ねた。
 人といたら飲み込むであろう間抜けな声が洞窟内に反響する。
 まさかの返事。

 ボイスチェンジャーで変換したようなくぐもった男性の声で、返事があった。
 誰だか想像つくけど、一応聞いておこう。
 私はバクバクする心臓を抑えながら、岩に向かって話しかけた。

「誰だ?」
『我が名はディアボロス。かつては魔王と呼ぶものもあった』
「でぃあ、ぼろす」

 ざわついていた心音が収まっていく。
 なんで自己紹介で笑えるんだろう。
 我が名はって。

 ディアボロスって、まんま魔王って意味だよ確か。
 一番笑えるのは私が「ディアボロス」と聞いて「魔王かなるほど」と思えるところだよ。
 オタクの知識すごい。
 しかも魔王と呼ばれていたのは「かつては」、じゃない。

「今も魔王って呼ばれてるよ」
『ふむ……お主からは強い魔力を感じる』

 こっちの話を聞いてなさそうな落ち着いた声が響く。
 おそらく自分の言いたいことを一方的に話すタイプの魔王だ。
 それにしても、強い魔力が云々ってそろそろ言われ飽きてきたな。

 ひとまず魔王の出方を伺おうと、私は大岩から一歩下がる。

『この森に近づいた時から感じていた。先ほどは折角直近まで来たというのに、離れてしまったと思ったが。帰ってきたのだな』
「昨日のことか?」
『知らぬ。だが、ついさっきだと感じた』

 時間感覚が私たちと大きく違うみたいだ。
 私がこの洞窟に近づいたのも、すぐに立ち去ったのも昨日のこと。
 それを「ついさっき」とは。

 何百年も生きているからなのか、魔王ってのはそもそもそういうもんなのか。
 いずれにせよ、魔王はこのドラゴンの森に入る前から私の存在に気がついていたのだ。
 怖っ。

『我の器になれそうなものが来たのは、封印されてから初めてだ』

 魔王が言うには、訪れる人々を回れ右させる魔術がこの洞窟には施されているらしい。
 王都から派遣された魔王封印場所の調査隊は、その魔術のせいでこのあからさまに怪しい場所を見つけられなかったのだ。
 ただの洞窟だが、なにやら危険であるとの認識だけして帰ってきてしまったのだろう。

 近づいたら子どものシンのように封印を解いてしまう場合があるから、必要な魔術ではある。

「私たちが一旦引き返したのもそのせいか?」
『お主を招き入れるために、我はかの魔術師たちの封印を弱めたのだ。引き返したのはそちらの都合だろう』

 私は、まんまと誘き寄せられていたらしい。
 本当はシンだけを招きたかったようだが、そこまで細かい調整ができるほどの力は出せないのだそうだ。

「魔力に溢れているように感じるのに、そんな簡単なことが出来ないなんて。意外とギリギリなんだな」
『封印が弱まってからは魔力が垂れ流し状態になってしまっているからな。上手く留め置けない。おそらく外にも影響が出ているだろう』
「影響?」
『大したことにはならんだろうがな。植物が異様に成長したり、動物が魔獣のように変化したりといったことだ』

 大したことになってるわ。
 この森の木が妙に大きいのも、アンネたちが魔獣らしいものに襲われたのも魔王の魔力のせいだったのか。
 私たちが魔獣だと思ったのは、魔王の洞窟に近づいて変化してしまった普通の動物だってことだ。

 私は大きくため息をついた。

「おかげで可愛い友人が怪我をしたよ」
『ふむ。そういうこともあるだろう』
 
 喧嘩売ってんのか。
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