選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!

虎ノ威きよひ

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番外編

初めてのクリスマス ③

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 クリスマスの話をしようとしてたのに、完全にやってしまった。
 大和からしたら意味不明な行動だったに違いない。俺にとっても意味不明なんだから。

 とにかく申し訳ないし恥ずかしいしで俺の頭はグチャグチャだ。謝って説明しないといけないのに、大和の顔が見られない。

 大和の部屋に敷かれた布団に座って、漫画に集中してるふりしてずっと俯いてる。
 もちろんめくっているだけで、絵すら頭には入ってこない。話しかける言葉をなんとか捻り出そうとしていた。

「蓮、あのさ」

 相変わらずピッタリくっつけた隣の布団から、大和が遠慮がちに声をかけてくる。

 ドクン、と胸が大きく脈打つ。
 ああ、先に声をかけさせてしまった。

 返事をしなければいけない。どう返事していいかがまた分からなくなって、カラカラに乾燥した喉をなんとか震わせる。

「…………何?」
「怒ってる?」
「怒ってねぇよ」

 ダメだ。全然ダメだ。これは怒ってるやつの返事だ。本当に怒ってないことを伝えないといけない。
 俺が言葉を選んでいる間に、眉を下げて深刻な表情をした大和が頭を下げてきた。

「ごめんね」
「あの、ちが」
「僕、蓮がなんで怒ってるのか本当に分からなくて」

 怒ってないんだから分かりようがねぇよ。
 なんで大和がこんなに悲しそうな顔をしなきゃならないんだ。

 悪いのはパニックになってなんの説明もなく黙りこくってる俺の方なのに。
 手だけは無意味に動いて、漫画をパタパタと開閉している俺のせいでしかないのに。

「もしかして、バイトの後、予定があった? 友だちと遊ぶとか……ほら、帰ってから一緒にネットゲームする約束してたとか」

 あるわけないだろ。そんな友だちいねぇよ。

 ちゃんと言え。
 口を動かせ。
 声を出せ。

「僕に気を使わなくても、そういう時は言って……、蓮?」

 俺はついに声が出なくて、大和のパジャマを片手で握った。それが限界だった。
 大和はきちんと反応して、引き攣って蒼白になっている俺の顔をじっと見てくる。

「ど、どうしたの?」
「あ……ちがう……あの」
「違うって何が? 怒ってるのが違う? 友だちとの約束? それとも遊ぶ内容が」
「えと、……」

 矢継ぎ早に話す大和は、多分パニックになっている。
 俺も、どんどん言葉が重ねられてパニック状態だ。

 このままだと大和は不安なまま一人で喋って、俺がますます何も言えなくなって、お互い大後悔することになってしまう。
 俺がきちんと話せば、そんなことにはならないんだ。

「ご、ごめ、大和……ごめ」

 なんとか言葉を紡ごうと必死なのに、やっぱり上手く言葉にならない。
 何も解決できない俺とは反対に、大和がまだ動きそうな口をギュッと閉じて、深呼吸した。

「ごめんね、蓮。一緒に深呼吸しよう」
「ん」

 大和は白くなるほど握りしめていた手を開いて、俺の震える両手を包んでくれた。お互いに手が冷たいのは、部屋が寒いわけじゃない。

 俺たちは布団で胡座を組み、タイミングを合わせて大きく息を吸った。まるで何かの儀式みたいで、側からみたらおかしな光景なのかもしれない。

 でも、大和の肩が上がったり下がったりするのを見ていると、俺は少しずつ落ち着いてくる。
 じんわりと指先が温かくなったように感じた。

「ゆっくり教えて。単語で良いよ」

 どこまでも優しく深い声に勇気づけられて、俺は頷く。
 とにかく言葉にしないと、何も伝わらないんだ。

「怒ってない」
「うん」
「友だち、いない」
「う、うん」

 頷いていいのか一瞬迷ったような、何とも言えない顔に少しホッとした。大和は完全に冷静になっている。
 俺のつたない言葉をちゃんと聞いて、理解しようとしてくれている。
 だから、本当のことを言わないとって思った。

「大和の裸見て、ドキドキしてただけなんだよ」

 目を見て伝えることはできなかった。
 俯いて、握り合った手を見つめて、なんとか言い切った。

 脱衣所で見た光景を思い出すと、また顔が熱くなってくる。俺の中で、大和の裸がただの同性の裸じゃないって自覚した瞬間だったんだ。

 勇気を出して伝えたのに、大和は沈黙してしまった。返事がないどころか無反応だ。
 怖くなって目線を上げてみたけれど、初めて会った時みたいな無表情になっている。

 呆れられたのだろうか。
 それとも気持ち悪いと思ったけど、優しいから黙るしかない状態なのだろうか。

 言わなきゃ良かったって気持ちの上に、泣きたいって気持ちまで乗っかってきた。
 俺は握っていた手を開いて、目を瞑る。

「や、やましい気持ちがあるわけじゃなくて……」
「ないの?」
「えっ」

 離れようとしたのに、大和は俺の手を強く握って離さない。

「僕、やましい気持ちしかないけど」

 信じられない言葉に顔を上げると、茹蛸みたいな顔になった大和が真剣な眼差しを向けてきていた。

「好きな人を部屋に誘うの、やましい気持ちしかなかったよ」

 やましい、という言葉と、真面目そうな声とがマッチしなくて混乱する。

 やましい気持ちで大和は今日、俺を誘ったのか?
 やましい。言っといてなんだけど、やましいってなんだっけ。

 胸の中の太鼓が、ドンドンドンと大きく打ち鳴らされていく。

「明日も明後日も、一緒に過ごせないからさ。今日、プレゼントねだろうって思って」

 やっぱり一緒に居れないのか、と、沸騰しそうな頭の隅っこで少しガッカリした。
 でもそれより大事な単語が聞こえてきた。そう、プレゼントだ。俺もその話をしようってずっと思ってたんだ。

 もしかして大和は、恋人同士がプレゼントを用意するなんて当然だから何も言わなかったのだろうか。だとしたらまずい。
 俺は申し訳なくて、また目線を下げてしまった。

「プレゼント……あ、の……俺、まだ用意出来てねぇんだ」
「心の準備だけで大丈夫」

 大和は握った手を解いて、そっと手の甲を撫でてくる。俺はますます顔が上げられなくなった。

 どうやら今からねだられるクリスマスプレゼントは「物」じゃないらしい。
 物じゃなくて、やましい気持ち、ということは。

(じゅ、準備は心の、だけじゃダメなんじゃ)

 脳みそも心臓も爆発して飛び散りそうだ。
 緊張しすぎて耳鳴りがしてきた。

 動けない俺の頬に、大和の手が触れる。冷たい指先が、上を向くように促してきた。

 大和が勇気出して欲しいって言ってくれるのに、断るわけにはいかない。
 俺は覚悟を決めて、ようやく真っ直ぐ大和を見た。

 お互い、トナカイの鼻も霞むほど真っ赤な顔で向かい合う。視線が絡むと、大和の親指がそっと俺の唇に触れた。

「あのね、僕、蓮にキスしてほしいな」
「キス……?」
「うん」
「それだけ?」
「うん。モノはいらないよ」

 俺は多分、相当間抜けな顔をしている。
 告白以降、ずっと高い壁として立ちはだかっていたキスが、急に簡単なことのように感じた。
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