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第十六話
しおりを挟む「本日はお時間を頂きましてありがとうございます。
先日の生徒総会にて、ある提案をさせていただきました。
先ず説明の前にお手元の資料をご一読下さい。
五分程度時間を設けますので、宜しくお願いします」
祐堂の指示に従った生徒達は、資料に目を通すため視線が下に落ちる。
しかし教師たちは困惑の表情を浮かべ顔を見合わせている。
想定の範疇だ。
若松姉弟が俺の指示通りに動いてくれれば問題ない。
出来れば反対派の教師が釣れると嬉しいんだが……
ペラペラと資料を捲る音が聞こえる中、一人の教師が不機嫌そうに声を荒げる。
「我々教師は忙しい時間を割いてここにいるんだ。準備不足の皺《しわ》寄せを押し付けるようならこの意見には賛同できん!」
男性教師の権幕に驚いたのか志乃亜さんは、「ひぃ」っと短い悲鳴を上げ祐堂の方に身を寄せる。
祐堂も咄嗟に反論出来ずにいる。
「…………」
しかし、これ以上俺が表立って動いてしまえばこの物語は致命的な破綻を産んでしまう。
学校を巻き込んだ動きになるのは夏休み頃だった。
それを俺の都合で三か月以上前倒ししてしまっている。
これ以上の大きな介入は出来れば避けたい。
だから俺は若松姉弟を直接助ける事は出来ない。
だが、担任や一年の学年主任は加勢してくれない。
各学年の級長や生徒会役員も俺達の出方を窺《うかが》っているようだ。
少し不味いかもな……
そんなことを考えていると、祐堂が一歩前に踏み出した。
どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。
恐怖からか緊張からか、声は上ずっているし声も身体も震えて居る。
拳は固く握り込まれ、その拳は彼自身の決意を表していた。
「お言葉ですが……」
祐堂は、反論の言葉を忘れてはいなかったようだ。
来た!
ここで俺はスライドを切り替えた。
「米国大手の通販会社では、会議の前に資料を読み込んでから始めるそうです。そうすることで事前知識を持った状態でプレゼン内容を判断できるからだそうです」
グラフなどのデータを見せることで反論が出にくいように仕向けるためだ。
「パワーポイントや箇条書きは使用せず1ページにまとめるそうですが、何分手慣れていないので今回は使用させていただきます」
「フン、学生が大人の真似をするから不格好になるのだ」
教師は捨て台詞を吐くとどっしりとパイプ椅子に座った。
ふむ、状況は若干優勢と言ったところだろう。
この調子ならばこの教師をやり込めるだけで勝てるかもしれない。
小売りでもプレゼンでもそうだが、こういうものは場の雰囲気を摑んだ人間が勝つ。
相手に悩ませ、自ら選択させたと錯覚させれば勝ちだ。
五分後……
優し気な印象の教師が質問をした。
「資料は良く出来ている……出来過ぎているぐらいに……本当にお前らが作ったのか?」
「はい」
「どこにこれだけの書類を作れる高校生がいる?」
教師にしては珍しく一般社会の経験があるのか俺の書類の出来を見て信じられないようだ。
「今、パワーポイントを操作している真堂恭介が作りました」
「……」
「本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……」
優し気な教師はへたり込むように椅子に座るのを見届けてから、説明が再開される。
「資料を読んでいただいた通り、進学校である我が瑞宝学園は周辺にある六勲校の中での知名度向上にもつながるでしょう。これは学校側にとって大きなメリットとなるのでは?」
「う、うーん」
「副校長、断固たる姿勢を取るとお約束してくれたではありませんか?」
いいぞ。ウチゲバが始まった。
最初から狙っているのは将と馬だ。
雑兵はどうでもいい。
「在校生である二年生、三年生にとっても部活動があまり強くない本校にとっては、良い実績となるのではないのでしょうか?」
「確かに……」
進路指導と思わる教師が賛同する。
「今まではクラス単位で目的を決め、格施設へ別々にアポイントメントを取る事をしていましたがそれらの負担が軽減され、学校全体でボランティア活動を行うことで生徒の負担が軽減できると思います」
「よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「三年の担任の水原です。
君たちの意見と学校が募集しているボランティアと何が違うんですか?」
この程度の質問は想定済みだ。
「質問ありがとうございます。結論だけ言えば参加する生徒にとって違いはありません。学生中心で運営したと言う事実があります。現状の運営状態で言えば、効率化ができるのでいままでより多く、ボランティア活動を効率的に行えると思います」
「なるほど……効率化ですか……生徒が経験を積むことが大切だと思っていましたが、部活や委員会のような組織として再編はするのは確かにアリですね」
「ここは経営陣の方にお願いしたいところなんですが、一部予算を出して頂いたりケーブルテレビやNHK、地元の新聞社などに取材をしていただけるように、働きかけて頂けると本校の宣伝にもなると思います」
想定済みの質問ばかりで、俺の出番はなさそうだと安心していると……際どい質問が副校長から飛んできた。
「……仮に君達の意見が成功したとして功績はどうする?」
副校長の明け透けな言葉に、教師や生徒問わず私語が飛び交いざわざわとする。
祐堂の視線が落ち俺を見て助けを乞う。
俺は首を縦に振って「俺に回せ」と指示を出した。
「お答えは僕……いえ、提案したのも資料を作ったのも真堂です。なので真堂がお答えします」
視線が俺に集まる。
悪役からモブになったつもりだったのに、ラブコメの世界は嫌が応にも俺を舞台の上に引きずり戻したいらしい。
「はあ……」
俺は短い溜息を付くと立ち上がり、祐堂が差し出したマイクを受け取った。
表情と声のトーン、身振り手振りに気を使って話せば話の内容なんか関係なく興味関心を持つ人間が増える。
柔和な微笑を湛えつつ、聞き取り易い声音でまるで一人一人に語りかけるように話をする。
先生方の一人一人と目を合わせ、自分に向けて言っているのだと錯覚させる。
「若松くんに変りまして私、真堂恭介がお答えします。端的に言えば生徒会が提案したでも、副校長が提案した話でも対外的なストーリーは、正直言ってどうだっていいんです」
視聴覚室はしんと静まり返った。
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