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第三十一話
しおりを挟む成嶋さんの洗濯物を処理するとリビングに戻る。
「洗濯物どうだった?」
「完全乾燥まであと一時間ってところかな……」
「そっかー」
「そろそろ夕飯だし良かったら何か作ろうか?」
「お風呂まで貸して貰ったのに悪いよ……」
「一人分作るのも二人分作るのもそう変わらないし、良かったら食べてよ」
「じゃぁ頂こうかな……」
「何が食べたい?」
「作って貰う立場なのに贅沢言わないわよ」
「そう言われてもなぁ~」
「じゃぁ万人受けする中華と洋食どっちがいい?」
「真堂くんの中華って結構凝ってそうだし洋食かな」
「OK、OKじゃぁトマト尽くしで行こうか……」
成嶋さんが映画を見ている間に、野菜たっぷりのミネストローネとふわとろ系のオムライスを作ることにした。
チキンライスの上に乗ったオムレツをナイフで切るタイプのアレだ。
グルメ漫画や動画でふわとろ系のオムライスを見ると無性にお腹がすく、前世の学生時代に貧乏飯の一環として何度も失敗を積み重ねて来た。
今日こそ成果を見せる時だ。
「気合入ってるね」
「今日はふわとろを目指すつもりだ」
「おお」
「まあ失敗しても怒るなよ?」
「大丈夫。薄焼き卵で包むタイプも好きだから」
成嶋さんはオープンキッチンの向こうにあるソファーから興味深そうに眺めている。
手早く肉と野菜を同じ大きさに切り揃えると、フライパンに食材を入れ炒め始める。
「オムライスにしては量が多くない?」
「これからオムライスとミネストローネに作り分けていくんです。一定具材は共通してますから」
「なるほど……」
手慣れた手付きでフライパンを振り具材を混ぜる。
「料理人見たいね」
「料理を作れるけど日々作ってる訳じゃないから」
「作れるだけ立派よ」
「この段階だとカレーと肉じゃがと具材の多くが共通してるので便利ですよ」
「お母さん見たい」
ミネストローネを先に仕上げてから、残った具材にケチャップを入れてチキンライスを作る。
「これだけでも美味しそう」
「成嶋さんって結構食い意地張ってるよね」
「なっ! 人が気にしていることを……」
「ごめん。でもいっぱい食べる女の子も可愛いと思うよ」
チキンライスを予め皿に持って置く、熱々に熱したフライパンにたっぷりのバターが溶けたれば空腹を刺激する心地良い香りが立ち、流し込まれる溶かれた卵液の音すら美味しそうに感じられる。
ごくりと生唾を飲み込む声が聞こえた気がした。
手早くオムレッツを作る手際は、もはや料理人負けですらある。
菜箸で円を描くように掻き混ぜフライパンの端に卵液を寄せ丁寧に形を整える。
それからある程度形になったら持ち手の部分をトントンと叩いてつなぎ目を焼き固めオムレツの形にする。
「オムレツの肌色が綺麗ね」
「練習すれば出来ると思うよ」
「本当かしら私不器用だから自身が無いわ」
「先ずは基本から練習しような」
前世の知り合いの料理下手は基本とレシピを守らないことで食べるのに困難なメシマズと化していたことを思い出した。
「当然基本からやるけど……大丈夫」
「大丈夫だ。問題ない」
「ならいいんだけど……」
「ケチャップとデミグラスソースどっちがいい?」
「デミグラスソース」
レンチンしておいたデミグラスソースを上からかける。
出来上がったオムレツを食卓に運んぶ。
ナイフでオムレツを切り開くと、余熱でいい感じに火が入ったふわとろの卵が零れチキンライスを覆いかぶせる。
「さぁおあがりよ! 真堂特製ふわとろオムライスと具沢山ミネストローネだ!!」
「うわぁぁぁ美味しそう」
「俺のはもう少し時間が掛かるから先に食べてくれ」
「いいの?」
「暖かいウチに食べてくれた方が嬉しいからな」
「お腹ぺこぺこだったの。じゃあ遠慮なく……」
銀の匙がオムライスとデミグラスソースを掬い上げる。
「はむっ! 美味しいわ。お店見たい!」
「褒めてくれてありがとオムライスはお代わりないけど、ミネストローネはいっぱいあるから」
「うん、ありがとう」
そうこうしているうちに自分の分も出来上がる。
椅子に座り「いただきます」と小さく呟くとスプーンで崩したオムライスを口に運ぶ。
バターの香りがするふわとろの卵がチキンライスと一緒になって口の中に広がる。
少し酸味のあるチキンライスと、濃厚なデミグラスソースがそれらすべてを一つに纏め上げている。
今回もうまくできたな……
ミネストローネの方もほくほくの豆がほろりと溶け、人参、玉ねぎ、キャベツの自然な甘みがトマトの酸味を和らげる。
またそれだけではやや単調な味を、ベーコンの塩分と油分が味のグラデーションを演出してくれる。
よくヨーロッパではスープは音を立てずに食べるのがマナーと言われ、またそれらを解説する文章では「飲むのではなく食べる」と表現されているが、このミネストローネはまさにそのいい例だろう。
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