ラブコメの悪役に転生した俺は痴漢からモブ美少女を助けた結果、好感度爆上がり知らないうちにヒロイン達に囲まれたんだが……

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

文字の大きさ
53 / 58

第五十三話

しおりを挟む
 時刻は夕方もうすぐ夕飯と言う時だった。
 二人揃っての動画鑑賞は時間が文字通り解ける。
 週に何日もファミレスで時間を潰す俺達にとって語ることは少ない。
 昨日何食べたとか、好きな曲、クラスの恋愛事情など粗方話題になりそうなものは話尽くしている。

 きっと彼女にとって俺は話しやすかったんだと思う。
 自分の考えを否定しないで訊いてくれる年上の男性……痒いところに手が届くような、そんな男と頻繁に合っていれば心を許すのに無理はなかったと思う。

 自分でもズルいと思う、彼女本人ではないにしてもよく似た人間の未来を俺は知っている。
 それを元に彼女に合わせた話をしているのだから、好かれこそすれ嫌われる通りはない。

 好きな作品を見ていると言うのに、何だかセンチメンタルな気分になっていると、『ピコン』とスマホの通知音が鳴った。

 通知音が嫌いなので、サイレントか付けてもバイブ設定しているのだが、イヤホンの接続を弄ったためか、設定が無効になっていたらしい。

 一件の通知がありその内一件は妹からだった。
 内容を要約すると、「部活の後遊んでた。今から帰るのでご飯を作って置いて欲しい」と言うものだった。

「二人ともタイミングが良いというか間が悪いといか……」

 葛城かつらぎにとっての避難場所をウチとするのなら、二人が打ち解け友達となってもらう方が手っ取り早い。
 兄の友人よりも、兄と自分の友人の方が身近だからな。
 キッチンに立つ俺の独り言が聞こえたのか、葛城かつらぎがリビングから顔を覗かせる。

「どうしたの?」

「妹が帰ってくるって」

「ふーん。せんぱいご両親は?」

「あーなんだろ? 特に連絡はないから帰ってこないと思う」

 俺が転生? 憑依? して約二週間両親は殆ど帰ってきていない。
 都会のこんな場所に豪邸を建てられるぐらい金持ちなのだ。政略結婚で互いに愛人を囲っているなんって、漫画やドラマでありそうな設定もこのラブコメ世界では十二分にあり得る。

「……そうですか……」

 何かを悟ったように一言だけ言うとまた無駄にデカイテレビに視線を向ける。
 俺はテレビに視線を向けながら一週間分の食事を作る。

「夕飯食べてくだろ?」

「え、昼食も頂いたのに悪いですよ」

「荷物持ちしてくれただろ? それにもう晩飯の用意はしてるんだ。食べてくれなきゃ食材が余っちまうだろ?」

「そ、そう言うことなら……いただきます」

「それは良かった」

「あ、よかったら料理教えてください」

「料理が出来るようになるのは良いことだけど……急にまたどうして……」

 この世界でも現作でも、『葛城綾音かつらぎあやね』と言う女の子は料理を得意としていなかった。
 ネイルやメイク、ファッションと言った。女の子らしい
こと興味はあっても、料理と言う家庭的な物事にまで視線は向いていなかった。
 
 多分、『葛城綾音かつらぎあやね』と言う女の子を変えてしまったのは俺だ。
 前世でこんなことを考えたことがある――――

 歴史上度々現れ文明を蹂躙じゅうりんする破壊者『騎馬遊牧民』は、ユーラシア大陸中央部にまるでゲームの敵のように、無限湧きするのではないかと?

 同じくシナリオを進める事で行けるマップが増えるように、大型アップデート『インドを求めて』が実行されると、南北アメリカ大陸が出現するのではないか? と空想したことがある。
 もちろん南北アメリカ大陸を発見などと言うのは白人から見た世界の姿であり、原住民からすれば傲慢不遜ごうまんふそんな白豪主義の痕跡とさえ言える暴論だ。

――――つまり原作よりも早い時期に、ボランティア活動を全校で行ったことでまるでゲームのように、『葛城綾音かつらぎあやね』と言うキャラクターが出現する条件を満たした可能性が高い。

 原作では彼女が親とキチンと向き合うのは、終盤だったと記憶している。もちろん、原作で語られていないだけで双方からの歩み寄りはあったとは思うが……このように事態が急転するのも全ては、『カルマ値』と命名した世界システムが原因だと思われる。
 
「せんぱいと今日一日いて、親とも折り合い付けなきゃなって思ったんです。もうすぐ母の日ですし、いい機会かなって思ったんです」

「……」

「だから私はあなたのおかげでここまで出来るようになったんだぞ! ってところを見せたいんです。私に料理を教えてくれませんか?」

 俺は一瞬戸惑った。
 これ以上展開を早めてはシナリオを破壊しかねない。
 転生した強みの一つ『原作知識』が使えなくなることを恐れた。

「せんぱい?」

 葛城かつらぎが俺を呼ぶ。
 しかし動けない。
 悩んでいるのだ。迷っているのだ。

俺はなんのために無茶をした?

葛城綾音かつらぎあやね』を、推しを幸せにするためだろう? 多少シナリオが変ったっていいじゃないか。

 俺の推しが救われるのなら、シナリオ変更が原因で俺の知らない人間が不幸になろうともいいかもしれない。
 内心、真堂恭介あくやくの役割を押し付けてしまった洞口秀夢ほらぐちひでむに罪悪感を感じていた。

 救ってあげたいと思て手を差し伸べた。
 しかし、救うことは出来なかった。
 ……でも彼を救うことで、俺の手の平から零れ落ちてく中に大切な人が居るのなら、心を鬼にして彼を見捨てよう。

「判った。下ごしらえは終わったから先ずは一緒に作ってみよう……」

 俺は判断を先送りにした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

処理中です...