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第36話決闘の観察者3
しおりを挟むユーサー様の言葉に恐怖が限界を迎えたのか、取り巻きの一人はわき目も振らずに逃げ出した。
「――――ッひぃぃぃいぃいいいいいい!」
全力で逃げる取り巻きに追いつくと、人差し指と中指をクイクイと動かしかかって来いと合図を出す。
ひょろは恐怖心からか腰が引けていて、攻撃も無駄に大振りなモノが多い。
「えい! ヴぇい!」
大振りの攻撃は殴っている側からの見栄えは良いが、第三者視点や殴られる側から見ると随分と滑稽に映る。
手の甲や掌でパンチを反らし、合間にユーサー様は反撃を当てていく。
「ぐふッ!」
殴って来た手を掴んで、姿勢を崩しそのまま足をかけ膝を蹴り腕力で押し倒し、投げ飛ばす。
なんだあの技は、俺はあんな技見た事も無いぞ! マリーネ殿が教えたのだろうか? 騎士には組手など不要と言うモノがおおいが、徒手空拳は体捌きの練習にもなる今度提案してみよう。
「がはッ!」
ユーサー様は取り巻きが立ち上がるまで待ってから、攻撃してきたところを身体を使って切るように躱し、蹴りを胸に当てると取り巻きは膝から崩れ落ちた。
「この程度で当家の騎士になるだと……騎士とはこの世界の戦場においては決戦兵種なんだぞ? それが! こんなに! 弱くて! どうなる!」
そういいながらユーサー様は蹴り続ける。
流石に不味い……俺が陰から出ようとしたところをユーサー様の教師でパウル様の友人のスヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ・ポクロンスカヤが手を出して静止させる。
「いいか? お前らは三人で模擬戦をした結果怪我をした。本来ならお前らとお前らの両親の首ぐらいで話を付ける所を、魔法を使わなければ全治3か月程度の怪我で済ませてやるって言ってるんだ。全員に怪我をさせたのも例えバレたとしても、手打ちにしやすいようにと配慮しての事だ。俺はお前らに期待してるからこうやって配慮してやってるんだ」
なるほど、貴族の子弟に手を出した輩から、手を出した挙句ボロボロにされた哀れな奴にする事で罰せられたとしても、ユーサー様にも非があるという事で、御咎めを弱くする狙いがあったのか……俺はてっきりむかっ腹が立って、オーバーキルしているのかと思っていたが、それは俺の勘違いのようだ。
「さ、治療しに行ってあげましょう。デニスさんも手伝ってください」
「あぁ」
俺は返事をするとスヴェトラーナの後を追った。
「大丈夫?」
スヴェトラーナの口調にからは、心配の色は感じられなかった。
「あの野郎は……」
「あの野郎? あぁユーサー様はもう別の所に行かれましたよ?」
淡々とした口調でスヴェトラーナは事実を告げる。お前らなんて眼中にないんだぞと。
「ぐっ!!! …………クソッ!!」
太った少年は握り拳で地面を叩いた。
「謝ってるんだから騎士なら広い心で許さないと……それと公爵の孫に喧嘩売っちゃ流石にダメでしょ? 世が世なら一族郎党死刑案件だよ? それを君たちの骨折程度で手打ちにしてあげた。ユーサー様の好意を無駄にしちゃダメよ? デニスさんもキツく言ってやってください」
「騎士を目指す者が、怪我もしていないのに自分よりも弱く見える者が、謝罪しているのに許さないのは心構えがなっていないからだ。腕力があろうと剣の才能があろうとも騎士に最も必要なのは、愛国心や郷土愛、主君への忠誠心だと思っている。
知らなかったとはいえ貴様らは主君の御子息に手を出したのだ。本来であれば一族郎党を斬首刑に処した後に晒し首が妥当であろう……しかしユーサー様の言動から推察するに、騎士としてはムシケラのような貴様らでも見捨てられることは無かった。コレからは心を入れ替え、誠心誠意訓練に励み一刻も早く御恩に報いる事の出来るように精進しろ!」
「「「ありがとうございます」」」
三人とも例の言葉を述べ涙を流して喜ぶ。
「じゃぁ怪我を治してあげるから」
スヴェトラーナの回復魔法によって、折れた骨も完治しこの一件は我々の胸の内にそっとしまう事にした。
物分かりのいいパウル様やシルヴィア夫人であれば、子供のした事だと許してくれるだろうが、ノーフォーク公コンスタンティン・フォン・ハワードやパウル様の御兄弟であれば、我々は想像した。一族郎党を斬首刑に処した後に晒し首ぐらいは平気でやってのける。
コンスタンティン様への報告書にも今回の事は書けないな……はぁ……ユーサーの元に派遣されてきてまだ数か月だが、手紙に書けない秘密の事が多すぎる。
デニスは大きなため息をついた。
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