54 / 56

第EX5ライブ1

しおりを挟む


 大手事務所への移籍が決定し、晴れてメジャーレーベルの仲間入りが決定したのだが、いつもお世話になっていた箱……ライブハウスとファンに向けた感謝と称して、ライブを行う事になっていた。
 いつものライブハウスは箱としての面積は小さく。MAX50人と言う規模であり、お世辞にも大きいとは言えない。

「ついにお前らも大手レコード会社と契約かぁ……時代の流れを感じるよ……」

 そう言って鼻声になったのは、このライブハウスのオーナーで同じくバンドマンの谷垣《タニガキ》さん。
 俺達が高校時代から面倒を見てくれているお兄さんだった。昔はイケメンだったがもうアラフォーという事もあり、昔の面影を感じる程度であり、時間の流れの残酷さを痛感させられる。

「坂本ぉ~~お前失礼な事考えただろう?」

 ビールによって出っ張ってきた腹を弾ませ、谷垣さんが詰め寄って来る。

「んな事ないっすよ。谷垣さん……谷垣さんのお陰で俺達【 showdownショーダウンconcertコンセールト】はインディーズに所属出来てそのお陰で、メジャーレーベルに移籍出来たんですから……」

 インディーズとは、日本で言えばレコード協会に入っていないレコード会社の事で、メジャーレーベルほどの手厚いサポートが受けられない弱小事務所とか、社会人スポーツとか、地下アイドルと考えて貰えばイメージしやすいだろうか?

「【ショタコン】は元々いいメンバーがそろってるんだ。全てはきっかけだけだよ。それにしてもドラムのあの子……良い子だったんだけどなぁ追い出したんだって?」

 【ショタコン】とは【 showdownショーダウンconcertコンセールト】と仲の良いバンドが冗談で付けた略称・愛称だ。

「えぇ……まぁ……」

「あの子はドラマーとしてはお世辞にも巧いとは言えなかったが、オーラって言うか雰囲気だけは抜群だった。誰とでも話に行くし挨拶もシッカリしている。人格破綻者のクズが多い音楽業界では珍しいタイプの子だった。今からでも真っ当な仕事に就いた方が彼の為にもなるだろう……」

 谷垣さんはそう言うと事務所に戻っていた。

「はぁ……」

 俺は短くしかし、大きなため息を付いた。
 確かに俺達はメジャーレーベルからデビューが決まっている。今勢いのあるバンドだ。実際問題100人規模の箱を自分達だけのファンで埋める事が出来るくらいにはファンもいる。

 バンドメンバー全員が能力を持っていると自負している。だが、だれもアイツのような言葉に出来ない。場の空気を盛り上げる能力は持っていないのだ。

 昔お世話になった先輩が言っていた。
「音楽ってのは嘘なんだ。最近は何を聴いても耳が不快で、心に来ない。
 雑に言えば凄い音楽なんてないと思うんだよ。
 ある時昔好きだったバンドのライブに行ったんだ。メンバーはほぼ当時のままで嬉しいよりも、凄いって思ってしまったんだ。自分も同じ業界に身を置いていると純粋に愉しめないんだ。
 昔よりも技術も上がっていて、ホントに悪い所なんて思い浮かばなかった。でも昔見たいな感動は無かったんだ。極論、音楽だの芸術だのってのは、有名なアーティストの作品だとか、評判が良いとか、何かで流行っているとか、そう言う複合的な情報のせいで、何となくいい曲の様な気がして、皆誉めそやしているだけなんだよ。
 じゃなきゃメディアミックスだの、翻訳だの吹き替えだの混ぜ物はしないハズだ。俺は音楽を嫌いになりたくないからやめるよ、お前は夢から覚めるなよ? まぁアイツがいれば大丈夫か……」
 そう言っていた事をふと思い出した。



しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

処理中です...