6 / 65

第03話 陰陽師は加護を受ける

しおりを挟む

 人が死ぬとどうなるのか?

 これは人にとっての永遠の命題である。
仏教では生前のカルマにより六つの世界を行き来するとされている。
短期留学生として唐国で学んだ者の記録によれば、三夷教とされ弾圧を受けたキリスト教では、人は死後天国か地獄へ行くと言うが……



 低い声が冥府に響く。

『陰陽師よ。共に四道将軍大毘古命おおびこのみことと、その子建沼河別命たけぬなかわわけのみことを祖とする安倍の末にて、妖狐葛葉がひ孫、安倍朝臣四郎春秋よ。
帝への忠義、並びに幼子の身代わりとなる心意気、真に天晴である!。天位の清明と、我と同じ王 泰山王の嘆願もあるが……』
 
 神仏が放つ膨大な気を孕む言の葉に只々平伏し、従う。

 魂となった俺はその圧だけで飛ばされそうなる。

『安寧の世への転生だが、そんな世はない。
ただ今回の心意気、その働きに報い我が加護を与える。
己を律し行を修めよ! さすれば神仏の一柱への道もあり!
懸命に励むがよい!』


「は、ははあー!」

 あらんかぎりの謝意を込めて、返事をする。

 冥王の言葉を最後まで聞き届けると、俺は意識を手放した。


………
……


 古式ゆかしい武家屋敷を守るように配備された【適合者アデプタ】の一団の頭上に満月が姿をみせる。
当初恥ずかしそうに薄雲を纏ったそれは血のように赤かった。
西洋占星術由来の言葉でスーパームーンと呼ばれ、この世のものではない魔の物の陰気を増幅させる。

適合者アデプタ】達は怖気を感じ、ぶるりと体が震えた。

 精神をも汚す不気味な咆哮を上げ、百鬼夜行を形成する魔物――禍津日マガツヒ、その数千余り。
そんな一団が、屋敷を正に今襲おうとしていた。


 対する【適合者アデプタ】は二十四人。
なんとも心許ない数である。  

 高い魔力を持つ子の誕生時にその無防備な魔力に引かれ、小規模な襲撃が起こる事は別に珍しくない。

 いつもなら数人でも多い程度のお手軽な任務なのだ。
慢性的な人材不足の【適合者アデプタ】にとって事実上の休暇と言えるものであったはずが、今回は違った。
命の危機を感じさせる修羅場と化していた。


尊勝陀羅尼そんぶつちょうだらにを書き込んだ注連縄しめなわを虎テープ見てぇに張り巡らせたってのに、『百鬼夜行スタンピード』を形成するなんておかしいんじゃねぇのか!?」

 ヤンキー風の男は自らの置かれた絶体絶命の状況にテンションが上がっているのか、キャンキャンと吠える。

 『今昔物語集』や『江談抄』、『付喪神絵巻』『大鏡』と言った概ね1100年頃の記録では、陀羅尼だらにを唱えたり護符で難を逃れたという。

すると若い女がヤンキー風の男を窘めた。

「母体、それも魔力を持つ母子なんて、奴らにとって絶好の獲物なのは常識でしょ?」

「――にしても多すぎんだろ、これ!」

「確かにね。普通これだけすれば大丈夫なんだけど……」

 不動明王、摩利支天、鬼子母神などの破魔・対魔、母子安全のご利益がある神仏の加護、その全てを試してこれだ。  
 幾ら名門の子とはいえ、集まる禍津日マガツヒが多すぎる。

「どうだ?」

「隊長! まずいっスね……」

「最後は【百鬼夜行避け】で時間を稼ぐしかなさそうだな……」

 【百鬼夜行避け】とは、若かりし頃の安倍晴明とその師匠である賀茂忠行《かものただゆき》が百鬼夜行を退けた術とされている。歴史と実績のある術だ。

 如何にも苦労人な隊長がおもむろに煙草に火を付けた。
別に不謹慎ってわけではない。
米大陸シャーマン仕様の悪霊払いグッズの方だ。
ただ哀愁漂うおっさんの姿が実にサマになってるだけである。


「まずは結界を起動する!受肉している奴らは面倒だ!」  
  
「五行結界の上から三重に八陣結界を展開する。配置に付け!」  

 彼らは母屋を取り囲むように立つと無垢の木の鞘を取り出し、鞘から払い、短刀を地面に勢いよく振り下ろした。  

「「「「「「「「急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》」」」」」」」」  

刹那。  

 刀身が青白い閃光(せんこう)を発し、オーロラのような光のベールが床から浮かび上がると八枚の板が三重に形成され、中心にいる母屋を取り囲んだ。

「霊的防御は十二分……あとはあの禍津日マガツヒどもを蹴散らすだけだ。本部への応援要請は!?」

「応援は呼んでいます!
……が陸路にしろ空路にしろ時間がかかるそうです」

「だ、そうだ……」

「軽く言ってくれますね……」

「雑兵ばかりとは言え千を超える百鬼夜行ですよ?」

「剣の宗家のご子息のためだ、致し方あるまい」

 禍津日マガツヒどもの目的は霊力の高い人間を食らい自らの位階を高めることと、肉体を持たぬ者は肉体を手に入れ受肉することにある。
 成人や成獣でも問題はないのだが、若い個体の方が力がなじむとされている。
 それは人間でも同じで、魔に落ちるのは若い人間が多い。

「ま、未来の平和のため、いっちょ頑張りますか……」

 隊長と呼ばれた男は煙草を地面に捨て、靴底の裏でグリグリと踏みつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...