5 / 65
第02話 陰陽師は転生する3
しおりを挟む「お、お待ちください! 播磨守《はりまのかみ》様!
に、贄ならば私がなりましょう!」
緊張のあまり声が上ずってしまった。
俺の言葉に周囲の術者は驚愕の表情を覗かせる。
呪術に携わる者は己のことを第一にしたい者が多い。
なぜならわれらが目標としているのは神秘の解明であるからだ。自分で解き明かしたい、と言う狂人しかいないと言ってもいい。
「春秋……おまえ……」
「いいだろう……男児、それも元服後となれば、丁寧に禊をし穢れを払わねばならぬ。急ぎ禊《みそぎ》を済ませるのだ。
場所は……都の鬼門位、賀茂御祖の社で行う!」
俺は髪を結い、白い着物に着替え、その上から冷たい水を浴び霊的に身を清める。
神社の中央には護摩壇《ごまだん》と、安倍家の秘術に用いられる祭壇である天壇《てんだん》が作られており、今から行う呪術の規模がありありと感じられる。
「今からおまえを贄として、我ら陰陽道の主神である泰山府君に捧げ、天壇を外界より隔絶する結界術:天壇封印を拡大させ、都全域に敷き怨霊・平将門《たいらのまさかど》を都より引かせ、東に追放する。
四方と中央の寺社仏閣をこの地図に表し、陣を描きこの結界をより強固なものとするように一所懸命《いっしょけんめい》に考える。おまえの命は無駄にしない! 春秋、準備はできたか?」
「はい」
“祓う”でも“封印”するでもなく“引かせる”と清明様は言った。
つまり、帝の命令でもない限り手を出したくないのだろう。
俺の表情から不安の感情を察したのか、声をかけてくださる。
「案ずるな。……そうだな、東国に大きな社を立て祭り上げよう。東国を中心に手当たり次第、神社仏閣を建立し平将公《しょうもんこう》をこの国の……いや、東国の護法神として祭り上げる。
ヤツとて今の帝には思う所はあれども、この地を犯す輩から国を守るためなら手を貸すはず」
俺は祭壇の一段上に供物や呪具とともに並び、清明様たちは狩衣《ころも》のまま印を結び、柏手を打ち祝詞を唱える。
「これなる陰陽師播磨守、安倍晴明。謹《つつし》んで泰山府君《たいざんふくん》、冥道の諸神に申し上げ奉る――」
静かな闇夜のなかで煌々と輝く護摩壇《ごまだん》と、松の明かりに照らされて粛々と儀式が続いていく。
祭具である銅鏡を掲げるとこういった。
「――――よって天孫の末裔たる帝の聖域たる都を閉ざし、邪気を遠ざけん――天壇封印《てんだんふういん》!」
その言葉で俺の呪力や意識が急激に遠ざかっていく。
「くっ!」
俺は苦しみのあまりに声を漏らす。
東には青い光が、西には白い光が見え、天壇封印が発動したことが確認される。
「――――なお、これなる陰陽師、安倍春秋の魂を今一度、六道《りくどう》人間道にてこの日の本で戦乱のない平和な世で健やかに暮らせるようにしたまへ!
冥道を司る十二善神。泰山府君《たいざんふくん》、天曹《てんそう》、地府《ちふ》、水官《すいかん》、北帝大王《ほくていだいおう》、五道大王《ごどうだいおう》、司命《しめい》、司禄《しろく》、六曹判官《りくそうはんがん》、南斗《なんと》、北斗《ほくと》、家親丈人《かんしんじょうじん》よ! 陰陽師、安倍晴明の願いを聞き届けたまへ」
清明様は本来予定していなかった祝詞を付け足し、俺の来世を神々に祈祷したのである。
「播磨守……おじい様……」
俺の視線に気が付いたのか、清明様はこう言った。
「姪御のために命を捨てる。その判断をできるおまえをどうして見捨てられようか? おまえとてわれが子孫なのだから……来世は平穏無事に生きよ。そしてわが陰陽術の花開く世を見届けてくれ……」
清明様の言葉を聞き終えた瞬間、俺の意識は遠のいた。
20
あなたにおすすめの小説
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる