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第02話 陰陽師は転生する2

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「明王めぇぇ!」

 その言葉を最後にして鬼が焼け死ぬ。

 大日如来の化身、五大明王の一角である不動明王の真言のうち小呪《しょうじゅ》や一字呪《いちじじゅ》と呼ばれる。下級の真言ではあるものの不動尊の如き激しい炎を持って、怨敵を滅ぼす術である。

 しかし俺の小呪《しょうじゅ》は威力が高く、中呪《ちゅうじゅ》と同程度の威力を持つ。
斬り込み隊長と思わしき土気色の鬼が、不動明王の小呪《しょうじゅ》によって焼け死んだことと今金兵蝗《ときんひょうこう》によって陣形が崩れたことによって、鬼どもの士気が下がり敗走を始める。それを見逃すほど俺は優しくない。

「縛れ!! 急急如律令」

 数枚の呪符を投げて呪力を木気に変化させ、地面からツタを生成し敗走する鬼どもの手足を縛る。
もう一枚の呪符を取り出して火気を生じさせる祝詞を唱える。

「木気を魔なる者を焼き払う火気に変えたまへ 五行相生、木生火! 急急如律令」

 うねりを伴った炎が生じ、木気によって生じたツタに引火することで、火気から生じた炎が業火となって百鬼を焼き払う。
 
 鬼の放った鬼火や俺の火気が建物へと移り、都の一角がその燃え盛る炎によって明るく照らされる。

「見よ! 陰陽師安倍春秋よ。帝がおわす都が燃えているぞ。
これぞ我ら平氏と朝廷との戦の開戦ののろしだ!! 
古き王は廃され、我らの帝がこの日の本を支配する王! 
新皇となるのだ! あはははッは!」

縛られながらも安房守がそう高笑いをする。

その顔は炎で陰影が際立ち、不気味さと不遜さが増していた。

残念ながら今の霊力では消火は難しい!


「死人に! 悪霊にこの国を導けるものか!」

 救援はまだかと焦りを感じて顔を上げると、月を背にして一体の竜と四足獣が空を駆けて寄って来るのが見えた。

竜の鱗は金色に輝き、上質な陰の気を振りまいている。

「あの竜はもしや!」

 こちらの様子を伺うように宙を泳ぎ、円を描くように一周し、馬も空を駆けてだんだんと下って来る。
竜の背を見ると安倍家の当主である播磨守、安倍晴明を始めとする安倍一門の術者がそろっている。

「「「「水気よ、都を焼かんとする悪しき業火を鎮めたまえ 水剋火! 急急如律令」」」

 竜や白馬に騎乗した門下や一族の術者が、俺が起こしてしまったボヤ騒ぎを収拾するため、水気で炎を鎮火させる。

「春秋よ見事だ! 
よくぞ一人で百鬼夜行を打ち滅ぼし、将たる鬼を捕らえた。」

 安房守あわのかみを一瞥《いちべつ》し、俺に話しかけてきた。
直系血族とは言え、普段なかなかお目にかかることはない。
緊張のあまり喉がカラカラに乾いてきた。

「は、播磨守様。ご報告があります……」

「固くなる必要はない。
春秋は孫……われの血脈なのだから……
っとその前にコイツを祓ってしまおう」

 存在を無視され怒りがたまっていたのであろう、悪赤丸が声を荒げた。

「俺を塵芥《ちりあくた》のように扱うな! このクソッ――――「 हुंウン!!」……」

刹那。

 清明様の呪力が爆ぜるように膨らむ。
種子真言《しゅじしんごん》を唱えた瞬間、安房守あわのかみが爆ぜた。

 すなわち払われたのだ。

 種子真言は密教において、仏尊を象徴する一音節の呪文のことだ。
 あまりの手際に周囲の術者が皆絶句していると

「修練すれば皆これぐらいは出来るようになる。
さて春秋、改めて報告を聞こう。
君の式が届けた巻物を見てただ事ではないと思い、急ぎ竜を使って飛ばして来た訳だが……」


俺は聞いた話を清明様に伝えた。

「フム。……新皇《しんのう》を僭称した豪族、平将門たいらのまさかどが怨霊と化したか……確かに肌がピリつくほどの濃密な陰の気……それも強烈な鬼気を感じるわけだ……」


清明様は暫《しばら》く思案すると……


「仕方がない。彼の怨霊を退ける結界をこの都全域に敷く!
絶対に東山より東へ追いやらねばならぬ! 
知常《ともつね》! 我が一族一門に六つ未満の稚児《ちご》はおるか?」

 ―――― その言葉で俺は察してしまった ――――

 古来より術を強化補強する際、意思の宿った動物を主に使う。
その贄として最上位はもちろん人であり、取り分け物心つく前の7歳までの子は神道で神様の子とされその命を贄とされた。
それ以外だと穢れを知らぬ乙女や霊力の強い人間が適しているとされている。

 そして今、条件に当てはまる最上位の者が実兄の娘、美代となる。

父、知常は長男のそれも実の孫を贄に出すことを要求されているのだ。
 
 こんなに不幸なことはそうそうないだろう。

 姪の美代は類い稀な呪力量を持っている逸材だ。
もし美代が贄にされたら播磨守様と父、兄との関係が壊れる。
播磨守様ご自身もひ孫を贄とすることになってしまう。
なにより幼子の命が絶たれるそんな未来に、無念さで心が押しつぶされそうになる。

 なんとかならないものか! なにか俺にできることは……
 
 霊力と贄が必要なだけであれば、俺でもいいということだ。
なんなら霊力も贄としての価値も俺の方が上だ。
独身で穢れてもないし、なにより播磨守様の孫だからな!

 緊張のあまりゴクリと喉が鳴る。
カラカラに乾いた口内を大きく開いて俺は声を上げた。
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