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第02話 陰陽師は転生する
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一度は弱体化した鬼たちであったが、主である将門公の邪悪な霊力――鬼気を感知して歓喜の咆哮《ほうこう》や鬨を上げはじめた。
『安房守』と言えば新皇を僭称した豪族平将門の配下で、国司八集の一人文屋好立のことを指す。
彼の祖先を遡ると第40代天武天皇の孫の智努《ちぬ》王(文室浄三《ふんや の きよみ》)を初代とする。約200年ほどの歴史のある一族で、度々東北に縁のある家系だ。
「これだけの瘴気を伴う鬼気を放つ存在が上洛《じょうらく》すれば、たちまち京の霊脈は乱れ、魑魅魍魎がはびこる魔都と化す。それだけは避けねば……」
先ほどまでとは違い、死兵と化した雑魚鬼たちが将である安房守を縛る羂索に指を掛け、牙を立てたりして羂索を斬ろうとしている。
いくら邪悪を打ち滅ぼす不動明王の拘束具とはいえ、鬼気の勢いが強すぎていつ引きちぎられてもおかしくいない。
「――っ行け! 歩蝗《ふこう》」
次に俺はバッタの式神を放つ。
一匹、二匹ではなく数百、数千の大軍が悪鬼を襲う。
――とは言え現状、ただの目くらましや時間稼ぎにしかならない、手持ちの中でも最弱の式神だ。
「何だこれは!」
「羽虫風情がぁ!」
そんな言葉を吐き捨てながら、棍棒や手に持ったたいまつを使って、歩蝗《ふこう》を追い払っている。
所詮バッタ、大した攻撃力もなく、つぶされ焼かれて次第に数も減っていく……かに思われた。
「先ほどの犬に比べればなんてことはない! 使えるものは鬼火《おにび》を使え」
指揮官らしき鬼が指示を飛ばす。
厄介だな。
俺は背中に背負った弓と矢を取り出す。
武士が使う本格的な武器ではない、破魔の弓矢だ。
破魔弓に破魔矢を番《つが》えて、張り詰めた弦を引く。
破魔矢《はまや》は神道や仏教で使われる邪を打ち払う矢。
浄化する「破邪」の意を込め狙いを定める。
俺は静かに祈るように言葉を口にする。
「南無八幡大菩薩」
清和《せいわ》源氏や桓武《かんむ》平氏など、国中の武士から信仰を集める武神にして、大菩薩ともされる八幡神の御名を唱え、必中を祈願する。
自らが神託を与えた平将公の配下を打つために、力を貸すのだから皮肉なものだ。
番えた矢をまるで的に置きにいくように、敵を射る。
ヒューっと甲高い鏑矢のような風切り音を立て、破魔矢が飛来し鬼を射貫いた。
笛の音のような風切り音を合図にして、バッタ共が勢いよく鬼どもを襲う。
「あ、兄貴が死んだぁ~~」
「おい! 今は兄貴より大将だ!」
――――と冷静な鬼もいるが、もう関係ない。
時は既に満ちてしまった。
「クソ! なんだこいつら、俺たちを食ってやがる!」
「ひぃー 痛い! 痛い!」
――――先ほど放ったこのバッタが普通であるはずがない。
このバッタは霊力を食らい、成長し数を増やす。
自然界のバッタは時折群れをなして、作物を食い荒らし人に害を成す災いと化す。
その負の面を現したモノを封印し、式神として使役しているのがこの歩蝗《ふこう》である。
爆発的に増殖し霊力を食らうようになった状態を俺は「成る」と表現し、その状態の歩蝗《ふこう》を今金兵蝗《ときんひょうこう》と呼んでいる。
この状態になると零落していない本来の姿……すなわち大怨霊となる。
次第に羽虫が集結し、次第に六尺(180㎝)ほどのヒト型の異形へと姿を変えていく。黒っぽい体色で手足にはギザギザとした外骨格に覆われ、腰からもう一対の脚が生えている。
顔のほとんどが大きな瞳と鋭い口で占領されており、額からは短い二対の触角が生えている。
「---- ・・ -・・・- ・- --- ・- ・---」
「そこにいる雑兵どもは任せた。喰っていいぞ!」
「-・・ ・ ・- ・-・」
バッタというのは群れることで変化し蝗害となる。
続日本紀の記録によれば大宝元年(701年)には十七国が被害を受け、天平21年(741年)、天平勝宝元年(749年)の下総、弘仁3年(812年)の薩摩を始めとした地域には蝗害による記録が確認されている。
また古代中国では騎馬遊牧民族と蝗害対策こそが、皇帝の仕事と言う官僚もいたと言われるほどの大災害である。
それを模した『式』が弱いはずがない。
今金兵蝗《ときんひょうこう》が百鬼夜行を相手にしている間に撃ち漏らした鬼共を相手にすることにする。
さて、そろそろ隠形の術で隠れている鬼共が、奇襲を仕掛けてくる頃合いか。
そんなことを考えていると。
「我ら平氏の無念! ここで晴らさせていただくぞ! 陰陽師!」
そう言って土気色の鬼が、棍棒を振りかぶって薙ぐように振り込んでくる。
「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン」
詠唱された真言と共に、土気色の鬼に向かって激しい炎を伴った火球が生じ、鬼を焼き尽くしていく。
『安房守』と言えば新皇を僭称した豪族平将門の配下で、国司八集の一人文屋好立のことを指す。
彼の祖先を遡ると第40代天武天皇の孫の智努《ちぬ》王(文室浄三《ふんや の きよみ》)を初代とする。約200年ほどの歴史のある一族で、度々東北に縁のある家系だ。
「これだけの瘴気を伴う鬼気を放つ存在が上洛《じょうらく》すれば、たちまち京の霊脈は乱れ、魑魅魍魎がはびこる魔都と化す。それだけは避けねば……」
先ほどまでとは違い、死兵と化した雑魚鬼たちが将である安房守を縛る羂索に指を掛け、牙を立てたりして羂索を斬ろうとしている。
いくら邪悪を打ち滅ぼす不動明王の拘束具とはいえ、鬼気の勢いが強すぎていつ引きちぎられてもおかしくいない。
「――っ行け! 歩蝗《ふこう》」
次に俺はバッタの式神を放つ。
一匹、二匹ではなく数百、数千の大軍が悪鬼を襲う。
――とは言え現状、ただの目くらましや時間稼ぎにしかならない、手持ちの中でも最弱の式神だ。
「何だこれは!」
「羽虫風情がぁ!」
そんな言葉を吐き捨てながら、棍棒や手に持ったたいまつを使って、歩蝗《ふこう》を追い払っている。
所詮バッタ、大した攻撃力もなく、つぶされ焼かれて次第に数も減っていく……かに思われた。
「先ほどの犬に比べればなんてことはない! 使えるものは鬼火《おにび》を使え」
指揮官らしき鬼が指示を飛ばす。
厄介だな。
俺は背中に背負った弓と矢を取り出す。
武士が使う本格的な武器ではない、破魔の弓矢だ。
破魔弓に破魔矢を番《つが》えて、張り詰めた弦を引く。
破魔矢《はまや》は神道や仏教で使われる邪を打ち払う矢。
浄化する「破邪」の意を込め狙いを定める。
俺は静かに祈るように言葉を口にする。
「南無八幡大菩薩」
清和《せいわ》源氏や桓武《かんむ》平氏など、国中の武士から信仰を集める武神にして、大菩薩ともされる八幡神の御名を唱え、必中を祈願する。
自らが神託を与えた平将公の配下を打つために、力を貸すのだから皮肉なものだ。
番えた矢をまるで的に置きにいくように、敵を射る。
ヒューっと甲高い鏑矢のような風切り音を立て、破魔矢が飛来し鬼を射貫いた。
笛の音のような風切り音を合図にして、バッタ共が勢いよく鬼どもを襲う。
「あ、兄貴が死んだぁ~~」
「おい! 今は兄貴より大将だ!」
――――と冷静な鬼もいるが、もう関係ない。
時は既に満ちてしまった。
「クソ! なんだこいつら、俺たちを食ってやがる!」
「ひぃー 痛い! 痛い!」
――――先ほど放ったこのバッタが普通であるはずがない。
このバッタは霊力を食らい、成長し数を増やす。
自然界のバッタは時折群れをなして、作物を食い荒らし人に害を成す災いと化す。
その負の面を現したモノを封印し、式神として使役しているのがこの歩蝗《ふこう》である。
爆発的に増殖し霊力を食らうようになった状態を俺は「成る」と表現し、その状態の歩蝗《ふこう》を今金兵蝗《ときんひょうこう》と呼んでいる。
この状態になると零落していない本来の姿……すなわち大怨霊となる。
次第に羽虫が集結し、次第に六尺(180㎝)ほどのヒト型の異形へと姿を変えていく。黒っぽい体色で手足にはギザギザとした外骨格に覆われ、腰からもう一対の脚が生えている。
顔のほとんどが大きな瞳と鋭い口で占領されており、額からは短い二対の触角が生えている。
「---- ・・ -・・・- ・- --- ・- ・---」
「そこにいる雑兵どもは任せた。喰っていいぞ!」
「-・・ ・ ・- ・-・」
バッタというのは群れることで変化し蝗害となる。
続日本紀の記録によれば大宝元年(701年)には十七国が被害を受け、天平21年(741年)、天平勝宝元年(749年)の下総、弘仁3年(812年)の薩摩を始めとした地域には蝗害による記録が確認されている。
また古代中国では騎馬遊牧民族と蝗害対策こそが、皇帝の仕事と言う官僚もいたと言われるほどの大災害である。
それを模した『式』が弱いはずがない。
今金兵蝗《ときんひょうこう》が百鬼夜行を相手にしている間に撃ち漏らした鬼共を相手にすることにする。
さて、そろそろ隠形の術で隠れている鬼共が、奇襲を仕掛けてくる頃合いか。
そんなことを考えていると。
「我ら平氏の無念! ここで晴らさせていただくぞ! 陰陽師!」
そう言って土気色の鬼が、棍棒を振りかぶって薙ぐように振り込んでくる。
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