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第01話 陰陽師は将門公の配下に出会う2
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狛犬は『拒魔犬』とも表記され、仁王像を含む二対の像は、天竺(インド北部)より西側ではスフィンクスのような獅子の姿をした石像が神殿の前に配置され、聖域や王権を守護していると考えられてきた。
そして俺の香狗は、『狛犬』、『阿吽・二対』と言った類似により破邪の力が大幅に強化されている。
「良くもわが手勢を……陰陽師よ、なぜ我らの邪魔立てをする? われは平門公《しょうもんこう》配下の鬼人将《きじんしょう》が一人安房守であるぞ!。
そこな陰陽師、名を名乗れ!」
安房国(現在の千葉県南部)と言えば平門公配下の上兵・文屋好立の所領だ。
(あれほどの武士でも魔縁に落ちたと言うのか……)
多くの鬼たちは膝をついたり、倒れて大の字になって天を仰いでいてまさに満身創痍《まんしんそうい》と言った様子。
そんな鬼の一団の中から、一人の大鬼が前に出てくる。
巌のように大きく立派な体躯は鮮血のように紅く、その額には大きく立派な一本角が生えた鬼であった。
源氏の方の名乗り方に似ている。
さすがは関東武者である平将門の配下の悪鬼だ。
天慶3年(940年)に行われた平門公調伏の際には、宇多天皇の第八皇子である敦実親王の子寛朝僧正が調伏したはずだ。
その際に弘法大師空海作の不動明王像を本尊とした仏閣を建立し、霊魂を慰めた鎮魂したが、この様子だとどうやら祓いきれていなかったということだろう。
鬼の邪気を吸わないように気を付けて深く息を吸い、こちらも名乗りを上げる。
「われは播磨守安倍晴明の子孫! 安倍春秋なり! 安房守よ! なにゆえ帝のおわす都に参られた?」
「知れたこと!
古き帝が支配する世に災いをもたらし、新たな帝とならん。
かつて八幡神並びに天満天神よりご神託を受け、世に覇を唱えた《殿》は求めておられるのだ!」
――――ということは京の都で目撃された鬼共は、いわゆる斥候と言ったところか……
「陰陽師、安倍春秋よ。貴様我らの戦に水を差すようなまねはするまいな?」
「これでも俺は帝に仕える陰陽師の端くれでね、そういうわけにもいかないんだよ――――!」
刹那。
安房守は腰に佩した大太刀に左手を添わせ、鯉口を切る。
それはいつでも叩き斬る! と言う覚悟の表出だろう。
「戦を愚弄《ぐろう》しおって! そこに直れ! 叩き斬ってくれるわ!」
右手で太刀の柄を握り、素早く抜刀すると足を前後にしながら逆八の字に開き、刀を八相に構える。
「あいにくと俺は武士ではなく豪族出の貴族。
それも曾祖母は狐なもので、田舎武者の作法には詳しくなくてな!……まあ歌もロクに読めぬ無作法者の言など軽く聞き流してくれや!」
「貴様ぁぁあああああああああああッ!!」
怒りに任せた安房守《あわのかみ》は、大太刀を袈裟斬りに振るう。
俺を守るために前に出た香狗を、一太刀と返しの二太刀でばったばったと薙ぎ払い、三間(約4.8Ⅿ)ほど殴り飛ばした。
「たかが犬ころに後れを取る我ではない!」
左手を鞘に添わせ鯉口を切ると素早く抜刀し、足を前後にしながら逆八の字に開いて衝撃に備え、刀を頭の高さで寝かせるように構えて、袈裟斬りに振られた太刀を剣で受け流す。
ガッ!
化妖の馬鹿力を真面目に受けるなんて戯けのすることだ。
間と技、そして最低限の力があれば受け流すことなど容易い。
「――ッ!! お主、剣を使うのか……はァ!!」
「急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》!」
祝詞《のりと》や真言《マントラ》、手印といった術を発動させるために必要な所作を省略して、即座に斬撃を防ぐ術を発動させる。
直後、安房守は地面に当たった姿勢のまま無理やり太刀を振り抜いた。
まるでその場で独楽のように回ると右上段から袈裟斬りに大太刀が振り抜かれる。
武者の鎧ほどの防御力を持った防御術が、安房守の大太刀による攻撃を防いでいる。
「ぬんッ!」
安房守が声を出して大太刀に力を込める。
だが術も限界なのか、術が作り出した結界がブレて霞んでゆく……
ヒィ、ビキ。
次第に太刀の白刃がめり込んでヒビが入っていくのが見える……
まずいな……仕方ない、ここで呪符を使うか。
平将門を鎮めた先人である寛朝《かんちょう》僧正に倣って不動明王に縋るとしよう。
「緤《す》べて緤《す》べよ、必死と緤《す》べよ、不動明王の正末《せいまつ》の本誓願をもって、この邪霊悪霊を絡めとれとの大誓願なり! オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ。オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ……」
周囲に散らされた呪符が光を放ち、明王が所有する悪魔や煩悩を縛り屈服させる縄――羂索《けんさく》を生じさせ安房守を拘束する。
「むっ! これは不動金縛りの術! それも羂索《けんさく》が実体化するほど強力な術をその年で使いこなすとは……末恐ろしい陰陽師だ」
俺は感嘆の言葉をこぼす鬼を無視し、不動金縛りの術を唱え続ける。
羂索《けんさく》がミシミシと音を立てて、安房守の肉体へ食い込んでいく……
捕縛は成功。後は調伏して払っていくだけだ……そう思っていると……
突然、ズン! と胃の腑《ふ》を強く突き上げられるような強烈な威圧感に襲われた。
先ほどの鬼気よりも気分の悪い気配を感じる。
「なんだコレは……まさか!」
「我らが帝、我らが親方新皇、平将門様が御目覚めになられたようだな……」
安房守が苦しそうに、だが歓喜の籠《こも》った声色で大怨霊である平将門の顕現《けんげん》を告げた……
そして俺の香狗は、『狛犬』、『阿吽・二対』と言った類似により破邪の力が大幅に強化されている。
「良くもわが手勢を……陰陽師よ、なぜ我らの邪魔立てをする? われは平門公《しょうもんこう》配下の鬼人将《きじんしょう》が一人安房守であるぞ!。
そこな陰陽師、名を名乗れ!」
安房国(現在の千葉県南部)と言えば平門公配下の上兵・文屋好立の所領だ。
(あれほどの武士でも魔縁に落ちたと言うのか……)
多くの鬼たちは膝をついたり、倒れて大の字になって天を仰いでいてまさに満身創痍《まんしんそうい》と言った様子。
そんな鬼の一団の中から、一人の大鬼が前に出てくる。
巌のように大きく立派な体躯は鮮血のように紅く、その額には大きく立派な一本角が生えた鬼であった。
源氏の方の名乗り方に似ている。
さすがは関東武者である平将門の配下の悪鬼だ。
天慶3年(940年)に行われた平門公調伏の際には、宇多天皇の第八皇子である敦実親王の子寛朝僧正が調伏したはずだ。
その際に弘法大師空海作の不動明王像を本尊とした仏閣を建立し、霊魂を慰めた鎮魂したが、この様子だとどうやら祓いきれていなかったということだろう。
鬼の邪気を吸わないように気を付けて深く息を吸い、こちらも名乗りを上げる。
「われは播磨守安倍晴明の子孫! 安倍春秋なり! 安房守よ! なにゆえ帝のおわす都に参られた?」
「知れたこと!
古き帝が支配する世に災いをもたらし、新たな帝とならん。
かつて八幡神並びに天満天神よりご神託を受け、世に覇を唱えた《殿》は求めておられるのだ!」
――――ということは京の都で目撃された鬼共は、いわゆる斥候と言ったところか……
「陰陽師、安倍春秋よ。貴様我らの戦に水を差すようなまねはするまいな?」
「これでも俺は帝に仕える陰陽師の端くれでね、そういうわけにもいかないんだよ――――!」
刹那。
安房守は腰に佩した大太刀に左手を添わせ、鯉口を切る。
それはいつでも叩き斬る! と言う覚悟の表出だろう。
「戦を愚弄《ぐろう》しおって! そこに直れ! 叩き斬ってくれるわ!」
右手で太刀の柄を握り、素早く抜刀すると足を前後にしながら逆八の字に開き、刀を八相に構える。
「あいにくと俺は武士ではなく豪族出の貴族。
それも曾祖母は狐なもので、田舎武者の作法には詳しくなくてな!……まあ歌もロクに読めぬ無作法者の言など軽く聞き流してくれや!」
「貴様ぁぁあああああああああああッ!!」
怒りに任せた安房守《あわのかみ》は、大太刀を袈裟斬りに振るう。
俺を守るために前に出た香狗を、一太刀と返しの二太刀でばったばったと薙ぎ払い、三間(約4.8Ⅿ)ほど殴り飛ばした。
「たかが犬ころに後れを取る我ではない!」
左手を鞘に添わせ鯉口を切ると素早く抜刀し、足を前後にしながら逆八の字に開いて衝撃に備え、刀を頭の高さで寝かせるように構えて、袈裟斬りに振られた太刀を剣で受け流す。
ガッ!
化妖の馬鹿力を真面目に受けるなんて戯けのすることだ。
間と技、そして最低限の力があれば受け流すことなど容易い。
「――ッ!! お主、剣を使うのか……はァ!!」
「急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》!」
祝詞《のりと》や真言《マントラ》、手印といった術を発動させるために必要な所作を省略して、即座に斬撃を防ぐ術を発動させる。
直後、安房守は地面に当たった姿勢のまま無理やり太刀を振り抜いた。
まるでその場で独楽のように回ると右上段から袈裟斬りに大太刀が振り抜かれる。
武者の鎧ほどの防御力を持った防御術が、安房守の大太刀による攻撃を防いでいる。
「ぬんッ!」
安房守が声を出して大太刀に力を込める。
だが術も限界なのか、術が作り出した結界がブレて霞んでゆく……
ヒィ、ビキ。
次第に太刀の白刃がめり込んでヒビが入っていくのが見える……
まずいな……仕方ない、ここで呪符を使うか。
平将門を鎮めた先人である寛朝《かんちょう》僧正に倣って不動明王に縋るとしよう。
「緤《す》べて緤《す》べよ、必死と緤《す》べよ、不動明王の正末《せいまつ》の本誓願をもって、この邪霊悪霊を絡めとれとの大誓願なり! オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ。オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ……」
周囲に散らされた呪符が光を放ち、明王が所有する悪魔や煩悩を縛り屈服させる縄――羂索《けんさく》を生じさせ安房守を拘束する。
「むっ! これは不動金縛りの術! それも羂索《けんさく》が実体化するほど強力な術をその年で使いこなすとは……末恐ろしい陰陽師だ」
俺は感嘆の言葉をこぼす鬼を無視し、不動金縛りの術を唱え続ける。
羂索《けんさく》がミシミシと音を立てて、安房守の肉体へ食い込んでいく……
捕縛は成功。後は調伏して払っていくだけだ……そう思っていると……
突然、ズン! と胃の腑《ふ》を強く突き上げられるような強烈な威圧感に襲われた。
先ほどの鬼気よりも気分の悪い気配を感じる。
「なんだコレは……まさか!」
「我らが帝、我らが親方新皇、平将門様が御目覚めになられたようだな……」
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