15 / 65

第12話 転生陰陽師は実力を見せる

しおりを挟む
「ホラね? やっぱり何かあった」

 隠形印……印相から見て摩利支天の隠形を使い潜んでいたのだろう。
 摩利支天の隠形の本質は三種あると言うが、彼女は気配を消すことに特化している。

「直毘人大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

「だめだろ? いきなり式を打つなんて……」

「なんかあるのに分からないのが気持ち悪くて……」

「それでもだ!」

「あなた、そのぐらいにしてあげて……」

 ここで母が助け船を出してくれる。

「ご夫妻、申し訳ございません。私の術が未熟だったばかりにご子息に不快な思いをさせてしまいました」

 細身で長身の女性が謝罪の言葉を口にする。
 しかし、表情も言葉も薄っぺらい。
 全く思ってもいないというのがひしひしと伝わってくる。
 言葉の端々に怒りのようなものを感じる。
 パンツスタイルはキャリアウーマンと言った雰囲気であるものの、墨汁のような黒い長髪は大和撫子と言いたくなるが、隠せないメンタルが病んでいる系の雰囲気を発している。

「君は?」

「申し遅れました。土岐菖蒲《ときあやめ》と申します」

「これはこれは清和源氏の……鬼斬りの一族にお会いできるとは……光栄なことだ」

清和源氏? 武士のカリスマである源頼光の子孫か……

「私など……鬼や牛鬼、土蜘蛛と言った名だたる大禍津日《オオマガツヒ》を斬った祖先に比べればまだまだです……」

「わが吉田家など、渡辺家からすれば成り上がり者に過ぎんだろう?」

「歴史と強さは比例しません。江戸幕府天文方を歴任された吉田家の方が近年の功績は高い……」

「君は年長者を立てるのが巧いな」

天呪てんじゅを持つ方にたてつくのは馬鹿のやることです」

「君の言うことも最もだが、歴史をバカにすることも愚かだ」

 父と渡辺と名乗る女性は舌戦を続ける。
 鬼や牛鬼、土蜘蛛と言えば日本の有名な妖怪の代名詞だ。

「隠形の術、それもこれほどの高精度の術を意図も容易く見破るなんて……」

「直毘人は勘がいいらしいな」

「……見鬼けんきの才に優れているとか、勘がいいの域では済まないと思いますが……」

「ではウチの息子は『魔眼《まがん》』を持っているというのか?」

「可能性は高いと思います。もしそうでなくとも、その感覚は将来その子……直毘人君の宝となるでしょう」

「……愚息が迷惑をかけました」

「いえ、私の修行が足らなかっただけです。同じ武家として将来が楽しみです」

 確かに子供相手に自分の得意とする術を見破られたとあっては、怒りもこみ上げてくるだろう、申し訳ないことをした。

「ぶけけいとは何?」

「今から100年と少し前までは、適合者アデプタという存在はさまざまな呼ばれ方をしていた。陰陽師という言葉は聞いたことがあるだろう?」

「うん!」

 陰陽師……祖父の安倍晴明や宿敵である蘆屋道満などが有名だ。

「だが近年では、使う術の種類や出生を問わず全てまとめて適合者アデプタと呼んでいる。ただし、それぞれの術の大本は変わっていない。われわれ武家系の適合者アデプタの源流は呪禁道と言い、古くは帝に仕えていた。現代では術の流派を取り入れ改良し、今の術としているのだ」

「つまり、殴り合いでは強いってこと?」

「……術の多彩さでは陰陽師に負ける。だが、武器を取れば近接戦闘では最強だ」

「最強!」

 陰陽術は前世で身に着けた。
 今生は武術を身に着けるのも悪くない。

「ああ、最強だ。まず家に帰ったら剣術の稽古をしよう」

「うん」

「あなた。武家の術者にすることを否定はしませんが、公家系をバカにしすぎです」

「む……」

「いい? 武家系は発動速度が速く近接戦闘能力を高めるものを好んで、公家系は発動が遅くても高威力で遠距離を好むという大まかな方向性の違いがあるの。
全体的に霊力や魔力が低下傾向にある現代では、魔力の篭った特別な道具を用いることが多く、武家系の術が見直されていますのよ」

「武士は昔バカにされていたの?」

「術師たる者が武器を取るなんて野蛮だという美意識が強いのよ」

「だがしかし、『魔力の篭った特別な道具』は高いし数が少ないんだ。おまけに歴史的価値も高いから、その多くが美術館や名家の蔵や国庫などに収容されている。当家にも数はあるから今度蔵を見てみよう」

「うん!」

 何歳になっても剣に引かれるのは男の性だ。

「今から何をするの?」

「直毘人はもうできたけど、適合者アデプタとして物に魔力を込めて立派な適合者アデプタになりますってご先祖さまや神仏に宣誓するのよ」

「ふーん、そうなんだ」

「今日は御三家の当主に勢ぞろいするから、くれぐれも失礼のないように……」

「はーい」

 隣接するホールの一室には、太鼓と祝詞の声が響き、たくさんの子供たちが親と座っている。

「「「――かしこかしこみももうす」」」

 祓詞《はらえどのことば》を唱える。
 魔力を込めることになる短刀は、『魔を引けるお守り』として生まれる前に作刀されたものらしい。
 女の子の短刀は懐剣《かいけん》……つまり嫁入り道具としてのもので、男の子は実用的な短刀が神社などでお供え物が乗っている木製の台の上に置かれている。

……なんとも物騒な風習だと思ったが、帝《みかど》由来のものらしい。帝《みかど》最高。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...