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第47話 転生陰陽師は戸部天王を呪う

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「豊穣の女神を象徴する生物は『牛』や『羊』、『豚』など多くの生き物が存在する。それらは多産や財産、呪術的だったり神秘の象徴などさまざまな意味があった。
そんな動物崇拝は次第に廃れて言った。しかし現代では慣用句や文化それに信仰や祭事に痕跡が残っている。例えば神の使いや聖獣がいい例だ。
例えばギリシャ神話の神王ゼウスの妻であるヘラには、『牝牛のような』と言う添え名がある。そして彼女の聖獣が牛である。これは、原始的な動物信仰の名残だ」

 間合い入った瞬間一筋の銀閃が閃いた。
 閃光は戸部天王が立っていた場所を薙なぐ。
 しかし軽かろやかな身のこなしで戸部天王はひらり身を躱す。
 流石は素戔嗚尊《スサノオノミコト》と死闘を繰り広げた偉大な蛇神だ。武にもそれなりに長けている。

「ぺらぺらと良く回る舌だ……舌を引き抜き惨たらしく殺すぞ?」

 神気の籠った言葉で威圧する。
 怒れる女神の美貌から余裕の笑みが消え、その瞳はまるでのように煌めき鋭く吊り上がった。
 しかしそれは俺の行動が間違っていないことの証明に他ならない。
 有効打がないのなら有効打足りえるモノを完成させるそのための時間稼ぎだ。

「古代人に神秘的に見えた『獣』と『女』この二つの要素こそ古い大地母神の構成要素だ。大地と恵を司る女神は、ただ母のように優しいだけの女神ではなく、春に生まれ夏に大人になった命を冬には奪い。気まぐれに天災を引き起こして作物を枯らす生命と死を司る残酷な女神でもあった」

 戸部天王は濃密な死の呪いを俺に向けて飛ばした。
 その瞬間。
 俺は天呪を込め神の呪いを断ち切る。
 通常の魔術なら天呪を込める必要はない。
 しかし神の呪いであれば対抗できるのは、同じ神の呪いであるのは道理といえる。

「脱皮を繰り返し成長し冬眠と目覚めを繰り返すその姿は死と再生の循環、時の移いを象徴する生物だ。豊穣と慈愛の象徴である『雌牛』よりも、命の恵みと禍々しい死を象徴する女神にはふさわしい」

 古代人にとって蛇ほど神秘に包まれた生物は稀だったはずだ。
 脱皮を繰り返し、抜け殻を捨て去さり成長する。冬は長い眠りにつき、春にはまた目覚める。
 これらを何も知らない古代人が見ればまるで死からの復活すると考えるのは不思議なことではない。
 冬《し》と春《せい》の狭間を生きる不死の生物。

 冬――すなわち死をもたらす神は、自然と冥界に属する神となる。
 水神や地の神、夜の神が冥府の神の配偶者や冥界の支配者であるように……

 古代人の想像する冥界は多くが地底に存在する。闇に閉ざされた暗い地の底にある死の世界。
 同じように闇が支配する時間――夜も冥界の一部として恐れられた。

「それに蛇は洋の東西を問わず『水』に関係する神格だ。洋の東西を問わず治水は為政者の大仕事だった。竜蛇は水害の暗喩であり恵みの雨の負の側面である河川の反乱や土砂も意味する。つまり恵みと損害をもたらす「生と死」を象徴する存在である」

 東洋では聖の面が強調され神に等しい存在として、西洋では神に敵対する悪魔に近しい負の面が強調され信仰された。

 豪を煮やした戸部天王は手蕨刀を構えて距離を詰める。
 戸部天王の攻撃は鋭くそれでいて強烈だ。
 女の細腕から放たれたとは思えない力は、流石は自然災害の化身だと思い知らされる。

 しかし俺は、比較的余裕をもって攻撃を捌いている。
 それは未来視ができる訳でも神と同じステージにいる訳ではない。
 経験と勘が最善の一手を教えてくれるのだ。
 相手が軍神や戦神と言った武勇に優れた神仏ではないという前提があってのものだ。

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