悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

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第1話悪役転生者は絡まれる

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 独立独行どくりつどっこうとは、我が家の掲げる目標スローガンであり、「 他人にたよることなく、己の信ずる剣の道を生きる。」と言う生き様を表している。
 これは龍を斬ったと言う逸話を持つ初代様の遺言らしい。

 現代日本からの転生者・・・の俺としては大変疑わしい。

 簡単に言えば、自ら剣を打ち、剣を研ぎ、剣を振るう……そう言う一人で戦える剣士に成れという事だ。
 初めてそれを聞いた時はカッコいいと思った。現在15歳の俺だが5年ほど鍛冶師の元で修行して気が付いた……分業した方が絶対に効率がいいと思う。
 こうして俺は一族が求める独立独行を辞め、剣を振る事を大切にした。

 こうして俺は一族の中では変わり者扱いされる存在になった。

 まぁ育ててくれた事には感謝はしているけど……

 そして我が武の名門クローリー家は、圧倒的に個人技を重視する事から、武門の貴族の間からもそこそこ嫌われている。

 貴族と才ある(貴族とコネか金のある)平民が通う事の出来る通称【王立学院】に通っているのだが、上三人の兄上達の剣士としての無双っぷりのせいで、俺は完全に悪役ヒール扱いされている。

一体全体。俺が何をやったと言うのだろうか? まだ入学して2か月しかたっていないと言うのに……

 現に今、俺は学校の通路で喧嘩を吹っ掛けられている……


 

「テメェ! お高く留まってんじゃねぇぞ!」
 
 そう吠えたのは、魔法と剣術を組み合わせて戦う【魔剣士】を育成する魔剣士科の生徒だった。

「俺は俺のやる事をやっているだけだ。正直に言って周りにどう思われようとどうでもいい」

 俺は衆人環視の中で我がクローリー家で、自分に求められる自分を演じながらきびすを返し移動する。
 心の中では名門クローリー家の人間として演技するのが面倒だから、ほっといて欲しいと思っている。

「ちょっ待てよ!」

ブン!

 肩越しに見えたのは、鈍い銀色の刀身だった。
 それは魔杖剣まじょうけん。あるいは、杖剣じょうけんとよばれる。魔法の杖と武器が一体化した。近接型の魔術師である魔剣士の杖と呼ぶべきもので、現代の魔術師にとってはまさに魔法の杖と呼ぶべきものだ。

「――――ッ! 何のつもりだ?」

 俺はクローリー家の面子メンツを守るために、出来るだけ平坦でドスの効いた声で詰問した。

「俺と勝負しろ! 真面に授業に出てこないお前が学年最強? 笑わせるんじゃねぇ! クローリー家の出来損ないがぁ!!」

 振り返るとそこに居たのは、「言ってやったぜ!」と言った様子ではしゃぐモブ。

ブチン! その言葉で俺の中のナニカが切れた。

「……つまり決闘という事か、場所はどこでする?」

 決闘とは、この国やこの学校で揉め事が起こった際に用いられる自力救済の手段の一つであり、学内では医療設備などに優れた修練所を用いる事が多い。
 もしこの衆人観衆ギャラリーの中で決闘を行うのであれば、遠距離魔術は使えないので少し戦い辛い。そんな事を考えていると、モブAが構えていた剣が横一文字に振り抜かれ、開戦の火蓋が切られた。

「今からだ!」

 だが俺は焦らない。
 風系統防御魔法の風精霊の加護プロテクション・ウインドを発動させ斬撃を防ぐ。

カン!

「なッ!」

 モブAは驚きの形相を浮かべつつも、後方へ飛び一度距離を取り迎撃の構えを取った。

(剣の腕は並み以下だが、精神力と直感に優れているのか……しかし、今の俺の相手ではないな)

「これで分かっただろう? 単純な魔術の展開速度が俺とお前では文字通り次元が違う。貴様の児戯にも等しい剣術では、俺の防御を破る事は出来ない」

 これで諦めてくれれば楽なんだけどなぁ……

「腐ってもクローリー家の血統かッ!」

 モブはえた。
 やはり素直に諦めてくれる訳にはいかないようだ。

(仕方ない。こちらも剣を抜くか……)

 白塗り鞘には桜の花弁の意匠が施されており、日本を想起させる美しい意匠デザインが施されている。
 俺は鞘の上部に左手を乗せ鯉口を切り、鞘と腰を引き反りの入った曲刀を素早く抜刀する。
 それは美しく、見事な波打つような波紋の入った見事な曲刀……即ち刀。
 その中でも太刀と呼ばれるモノだった。

「異国の武器を使いやがってッ! 貴様には我が偉大な祖国への誇りはないのかッ!」

――――と、声を荒げ興奮してえた。

 祖国のほこりって……周辺諸国でも使われている両刃長直剣が誇り……まぁ騎士のほこりとか貴族の誇りなら分からなくはないけど……EUとか中東とか東アジアぐらい広い範囲での話だから、「祖国のほこり」と言われてもイマイチピンと来ない。どちらかと言うと刀の方が美しいし格好いいから使いたい。
 それでいいじゃないか……

「ハっ! 祖国のほこり? 俺には関係ないね! しょせん剣……いや、この場合カタナは俺の戦闘スタイルに合っているだけの事だ。貴様にとやかく言われる筋合いはない! お前が後生大事にしている誇りを抱いて死ねぇ!」

 俺は脚を前後させながら、逆ハの字に開き攻撃の体制を整える。

 自ら玉鋼たまはがねを造り炉の前でつちを振るい。作刀さくとうし付与魔術を掛け完成させた一振り。魔杖刀まじょうとう流櫻りゅうおう八相はっそう……上段の構えよりも上方……簡単に言えば、野球のバッティングフォームのように構える。

 そうする事で、上段からの素早い袈裟斬けさぎりに派生させる事が出来、半身しか無防備にならない事で、相手の手を読みやすいと言うメリットもある。

「さっきは魔術で格の違いを見せてやった。今度は剣技で見せてやる。そのくもったまなこでは、どちらも理解しきれている訳ではないだろうがな……全力で防げよ・・・・・・?」

 俺は忠告をしてからより一層刀の柄を強く握り、強化した右脚で地面を蹴り、飛び出すようにして斬りかかる。

 剣での防御が間に合う前に、刀のみねによる袈裟斬りによってモブAを殴り飛ばす。

「きゃぁぁぁああああああああああああああああ」

 衆人観衆ギャラリーはどっと湧き、仲間と思われる男女数名は俺を警戒し剣を鞘か払う者と、モブAを心配し脇目も振らずに駆け寄る者とに分かれる。

 俺は流櫻りゅうおうの切っ先の部分を数度裏返して、返り血が付いていたり芯が歪んでいないか確認する。

(良かった刀は無事だな……)

 モブAに斬りかかる寸前。刃を寝かせ、金属の棒として殴りつけたのだ。

「殴った感触だと、鎖骨さこつ肋骨あばらぼねが折れていると思う、回復魔術で骨をくっつけて貰うか回復薬ポーションを飲んで安静に過ごした方がいい。全力・・で防御すれば防げる範囲だと思ったが……俺の目も曇っているようだ。金がないなら俺が出してやってもいいぞ? 詫び金だ。詫び金」

 ケガをさせるつもりはなかったので譲歩の案を示す。
 まぁいくら相手から喧嘩を吹っ掛けられたとは言え、もう少し上手く事を修められる事が出来たかもしれないので、ポケットマネーから治療費ぐらいは払ってもいい。

「誰がお前の金なんかでッ!」

 モブAの仲間の一人が声を荒げる。
 感 情 論許せない気持ち 現 実 治療費とケガの後遺症が見えていないようだ。貰えるモノは貰っておけばいいのに……貧乏性な俺ならプライドを捨てて金を貰うだろう……

「そうか……ならチーズ、ヨーグルトなどの乳製品。小魚や大豆、野野菜を食べると回復が早くなる。ソイツのためを思うなら食わせてやれ……」

 折角こちらから手を差し伸べてやったのに手を叩かれ、挙句の果てに唾まで吐きかけられたのだ。これ以上こちらから何かをしてやるつもりはない。

 俺はモブの集団に背を向けて立ち去ろうとするが……握り拳程の大きさの火球ファイアーボールが飛来する。
 俺が得意とする生半可な威力の風精霊の加護プロテクション・ウインドでは、火球ファイアーボールの威力を上昇させてしまうだけだ。
 しかし染みついたクセで、即座に風精霊の加護プロテクション・ウインドを生成してしまった。
 
(はぁ……切り札って訳じゃないけど衆人観衆ギャラリーが多い中で、暴走《オーバーロード》は使いたくないなが、周囲への被害を考えると使うしかないか……)

「爆ぜろ」

 俺は生成した風精霊の加護《プロテクション・ウインド》に、より多くの魔力を流し、魔術の機能を維持している、電池兼基盤である魔法陣に過剰な魔力を流し、暴走させ魔術を破綻させる。
 そうすることで一気に貯め込んだ魔力を放出し、集めた空気を爆発させる。
 昔、教育番組で見た、爆弾による消火からヒントを得た魔術だ。

 ボンと言う音を立てた小規模な爆発によって、火球の炎とその中心点に存在した魔法陣は破壊・消火された。

「なッ!」

 魔術を放ったと思われる男子生徒は腰が抜けたようで、情けなく股を開き口をあんぐりと開いて驚いている。

(速度重視の火矢ファイアーアローとかならワンチャンあったかもだけど、まぁその時はもっと早く判断してただけなんだよね……)

「もう少し早ければ俺を殺《ヤ》れたかもな。
 まっその時はもっと早くこのカードを切っていただけだが……」

 心の声とは別の、芝居がかった口調で言葉を投げかけた。

(おっと少し口調が柔らかくなってしまった。
        少し強めに言葉を付け加えよう……)

「まぁせいぜいはげめ。励んだところで俺ほどの高みには至れぬだろうがな。この決闘はこの俺! アーノルド・フォン・クローリーが勝利した。異論があるならまた挑んで来い。ただし俺はいつなんどきも雑事にかまける暇はない。せめて俺の無意識の防御魔術を破れるようになって出直してこい」

 こうして俺の演じる。武の名門クローリー家の四男アーノルド・フォン・クローリーの一日は終わるのであった。



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