1 / 71
第1話悪役転生者は絡まれる
しおりを挟む独立独行とは、我が家の掲げる目標であり、「 他人にたよることなく、己の信ずる剣の道を生きる。」と言う生き様を表している。
これは龍を斬ったと言う逸話を持つ初代様の遺言らしい。
現代日本からの転生者の俺としては大変疑わしい。
簡単に言えば、自ら剣を打ち、剣を研ぎ、剣を振るう……そう言う一人で戦える剣士に成れという事だ。
初めてそれを聞いた時はカッコいいと思った。現在15歳の俺だが5年ほど鍛冶師の元で修行して気が付いた……分業した方が絶対に効率がいいと思う。
こうして俺は一族が求める独立独行を辞め、剣を振る事を大切にした。
こうして俺は一族の中では変わり者扱いされる存在になった。
まぁ育ててくれた事には感謝はしているけど……
そして我が武の名門クローリー家は、圧倒的に個人技を重視する事から、武門の貴族の間からもそこそこ嫌われている。
貴族と才ある(貴族とコネか金のある)平民が通う事の出来る通称【王立学院】に通っているのだが、上三人の兄上達の剣士としての無双っぷりのせいで、俺は完全に悪役扱いされている。
一体全体。俺が何をやったと言うのだろうか? まだ入学して2か月しかたっていないと言うのに……
現に今、俺は学校の通路で喧嘩を吹っ掛けられている……
「テメェ! お高く留まってんじゃねぇぞ!」
そう吠えたのは、魔法と剣術を組み合わせて戦う【魔剣士】を育成する魔剣士科の生徒だった。
「俺は俺のやる事をやっているだけだ。正直に言って周りにどう思われようとどうでもいい」
俺は衆人環視の中で我がクローリー家で、自分に求められる自分を演じながら踵を返し移動する。
心の中では名門クローリー家の人間として演技するのが面倒だから、ほっといて欲しいと思っている。
「ちょっ待てよ!」
ブン!
肩越しに見えたのは、鈍い銀色の刀身だった。
それは魔杖剣。あるいは、杖剣とよばれる。魔法の杖と武器が一体化した。近接型の魔術師である魔剣士の杖と呼ぶべきもので、現代の魔術師にとってはまさに魔法の杖と呼ぶべきものだ。
「――――ッ! 何のつもりだ?」
俺はクローリー家の面子を守るために、出来るだけ平坦でドスの効いた声で詰問した。
「俺と勝負しろ! 真面に授業に出てこないお前が学年最強? 笑わせるんじゃねぇ! クローリー家の出来損ないがぁ!!」
振り返るとそこに居たのは、「言ってやったぜ!」と言った様子ではしゃぐモブ。
ブチン! その言葉で俺の中のナニカが切れた。
「……つまり決闘という事か、場所はどこでする?」
決闘とは、この国やこの学校で揉め事が起こった際に用いられる自力救済の手段の一つであり、学内では医療設備などに優れた修練所を用いる事が多い。
もしこの衆人観衆の中で決闘を行うのであれば、遠距離魔術は使えないので少し戦い辛い。そんな事を考えていると、モブAが構えていた剣が横一文字に振り抜かれ、開戦の火蓋が切られた。
「今からだ!」
だが俺は焦らない。
風系統防御魔法の風精霊の加護を発動させ斬撃を防ぐ。
カン!
「なッ!」
モブAは驚きの形相を浮かべつつも、後方へ飛び一度距離を取り迎撃の構えを取った。
(剣の腕は並み以下だが、精神力と直感に優れているのか……しかし、今の俺の相手ではないな)
「これで分かっただろう? 単純な魔術の展開速度が俺とお前では文字通り次元が違う。貴様の児戯にも等しい剣術では、俺の防御を破る事は出来ない」
これで諦めてくれれば楽なんだけどなぁ……
「腐ってもクローリー家の血統かッ!」
モブは吼えた。
やはり素直に諦めてくれる訳にはいかないようだ。
(仕方ない。こちらも剣を抜くか……)
白塗り鞘には桜の花弁の意匠が施されており、日本を想起させる美しい意匠が施されている。
俺は鞘の上部に左手を乗せ鯉口を切り、鞘と腰を引き反りの入った曲刀を素早く抜刀する。
それは美しく、見事な波打つような波紋の入った見事な曲刀……即ち刀。
その中でも太刀と呼ばれるモノだった。
「異国の武器を使いやがってッ! 貴様には我が偉大な祖国への誇りはないのかッ!」
――――と、声を荒げ興奮して吼えた。
祖国の誇りって……周辺諸国でも使われている両刃長直剣が誇り……まぁ騎士の誇りとか貴族の誇りなら分からなくはないけど……EUとか中東とか東アジアぐらい広い範囲での話だから、「祖国の誇り」と言われてもイマイチピンと来ない。どちらかと言うと刀の方が美しいし格好いいから使いたい。
それでいいじゃないか……
「ハっ! 祖国の誇り? 俺には関係ないね! しょせん剣……いや、この場合カタナは俺の戦闘スタイルに合っているだけの事だ。貴様にとやかく言われる筋合いはない! お前が後生大事にしている誇りを抱いて死ねぇ!」
俺は脚を前後させながら、逆ハの字に開き攻撃の体制を整える。
自ら玉鋼を造り炉の前で槌を振るい。作刀し付与魔術を掛け完成させた一振り。魔杖刀・流櫻を八相……上段の構えよりも上方……簡単に言えば、野球のバッティングフォームのように構える。
そうする事で、上段からの素早い袈裟斬りに派生させる事が出来、半身しか無防備にならない事で、相手の手を読みやすいと言うメリットもある。
「さっきは魔術で格の違いを見せてやった。今度は剣技で見せてやる。その曇った眼では、どちらも理解しきれている訳ではないだろうがな……全力で防げよ?」
俺は忠告をしてからより一層刀の柄を強く握り、強化した右脚で地面を蹴り、飛び出すようにして斬りかかる。
剣での防御が間に合う前に、刀の峰による袈裟斬りによってモブAを殴り飛ばす。
「きゃぁぁぁああああああああああああああああ」
衆人観衆はどっと湧き、仲間と思われる男女数名は俺を警戒し剣を鞘か払う者と、モブAを心配し脇目も振らずに駆け寄る者とに分かれる。
俺は流櫻の切っ先の部分を数度裏返して、返り血が付いていたり芯が歪んでいないか確認する。
(良かった刀は無事だな……)
モブAに斬りかかる寸前。刃を寝かせ、金属の棒として殴りつけたのだ。
「殴った感触だと、鎖骨と肋骨が折れていると思う、回復魔術で骨をくっつけて貰うか回復薬を飲んで安静に過ごした方がいい。全力で防御すれば防げる範囲だと思ったが……俺の目も曇っているようだ。金がないなら俺が出してやってもいいぞ? 詫び金だ。詫び金」
ケガをさせるつもりはなかったので譲歩の案を示す。
まぁいくら相手から喧嘩を吹っ掛けられたとは言え、もう少し上手く事を修められる事が出来たかもしれないので、ポケットマネーから治療費ぐらいは払ってもいい。
「誰がお前の金なんかでッ!」
モブAの仲間の一人が声を荒げる。
感 情 論で 現 実 が見えていないようだ。貰えるモノは貰っておけばいいのに……貧乏性な俺ならプライドを捨てて金を貰うだろう……
「そうか……ならチーズ、ヨーグルトなどの乳製品。小魚や大豆、野野菜を食べると回復が早くなる。ソイツのためを思うなら食わせてやれ……」
折角こちらから手を差し伸べてやったのに手を叩かれ、挙句の果てに唾まで吐きかけられたのだ。これ以上こちらから何かをしてやるつもりはない。
俺はモブの集団に背を向けて立ち去ろうとするが……握り拳程の大きさの火球が飛来する。
俺が得意とする生半可な威力の風精霊の加護では、火球の威力を上昇させてしまうだけだ。
しかし染みついたクセで、即座に風精霊の加護を生成してしまった。
(はぁ……切り札って訳じゃないけど衆人観衆が多い中で、暴走《オーバーロード》は使いたくないなが、周囲への被害を考えると使うしかないか……)
「爆ぜろ」
俺は生成した風精霊の加護《プロテクション・ウインド》に、より多くの魔力を流し、魔術の機能を維持している、電池兼基盤である魔法陣に過剰な魔力を流し、暴走させ魔術を破綻させる。
そうすることで一気に貯め込んだ魔力を放出し、集めた空気を爆発させる。
昔、教育番組で見た、爆弾による消火からヒントを得た魔術だ。
ボンと言う音を立てた小規模な爆発によって、火球の炎とその中心点に存在した魔法陣は破壊・消火された。
「なッ!」
魔術を放ったと思われる男子生徒は腰が抜けたようで、情けなく股を開き口をあんぐりと開いて驚いている。
(速度重視の火矢とかならワンチャンあったかもだけど、まぁその時はもっと早く判断してただけなんだよね……)
「もう少し早ければ俺を殺《ヤ》れたかもな。
まっその時はもっと早くこのカードを切っていただけだが……」
心の声とは別の、芝居がかった口調で言葉を投げかけた。
(おっと少し口調が柔らかくなってしまった。
少し強めに言葉を付け加えよう……)
「まぁせいぜい励め。励んだところで俺ほどの高みには至れぬだろうがな。この決闘はこの俺! アーノルド・フォン・クローリーが勝利した。異論があるならまた挑んで来い。ただし俺はいつなんどきも雑事にかまける暇はない。せめて俺の無意識の防御魔術を破れるようになって出直してこい」
こうして俺の演じる。武の名門クローリー家の四男アーノルド・フォン・クローリーの一日は終わるのであった。
191
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます
夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった!
超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。
前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる