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第4話因縁の相手

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「きゃぁぁぁああああああああああああああああッ!!」

 女と言うにはいささか幼い少女の悲鳴が平地の森に木霊する。
 鎧狼アーマーウルフの討伐依頼自体は、別段珍しいモノではないようで、少しなれてきた冒険者が受ける依頼と言う認識で、恐らく俺と同じく冒険者が戦っているのだろう……

 冒険者と言うかこの世界では兎に角、社会が助けてくれる事は無い。
だが社会保障のある日本で生まれ育った俺としては、手の届く範囲ぐらいは助けてやりたい気持ちがある。

「ちっ! 少し遠いな……」

 背負っていた毛皮と薬草の束の入った袋をその場に捨て、悲鳴のする方へ駆け出した。
 鞘から太刀を払い、周囲の木々を斬り付けながら声のする方へ移動する。
 
 もし特段問題ないようなら何も言わずに立ち去ればいい。何かあるなら助ければいいのだ。全ては自己満足。俺の眠りが悪くなるからだ。

 金属と硬い何かがぶつかる音が聞こえる。
 学園の制服を着た少女は、長さ90センチ程の濶剣ブロードソード型の魔杖剣で、体高1メールはあろう超大型の鼠系モンスターに応戦しているようだ。

 ――――とは言え、良くも悪くも剣筋は基本に忠実。
 確かに素振りや型稽古などの基礎練習を良く熟したのだろう、俺のような近接型魔術師とは違い、筋が良いとはとても言えない。
 超大型鼠あいての攻撃が緩慢かんまんなお陰で、何とか防ぐ事が出来ていると言った様子で、超大型鼠あいてに意識を向け過ぎているせいか、現代魔術師にとって基礎中の基礎である、【身体強化】の魔術の使用もロクに出来ていないようだ。

(はぁ……あの剣の腕で良く学園に受かったな……助太刀をするにしても、いつもの演技をしなければいけないとは実に面倒だ)

 外に向かって放出する魔術は――体内に向け作用させるのとは異なり、常人には知覚できない大気中の魔力の流れ――大気魔力エーテルに引き起こしたい現象の術式を構築し発動させる。
その際に必要なのは集中力とイメージの力だ。
 なぜなら自身の魔力で陣を描き、属性設定→生成→サイズ設定→形状設定→射出速度設定→発動の六工程プロセスを行わなけらばならないからだ。
 それを楽にするのが詠唱と呼ばれる。
 呪文や祝詞・聖句を唱える事で、ある程度だが魔術を自動化する事が出来る。しかし体内に作用する身体能力強化などと比べると、抵抗ロスが大きい。例えるのならバケツに入った水中に、絵具を解いた水で絵を書くようなものであり、規模が大きくなればなるほど、時間も魔力も多くかかるのだ。

  だが、現状魔術以外での遠距離攻撃の手段はない。
MMORGと同じで、恐らく他人の獲物の横取りはマナー違反だと思うが、最悪謝罪すればいいか……

空気弾エアバレット

 虚空に空気の塊を生成し、超大型鼠へ向けて空気弾エアバレットを放つ。
 空気弾エアバレットによって超大型鼠は吹き飛ばされ、学園の制服を着た少女は、「ほえっ?」と腑抜けた声をだした。

(戦闘中に敵から視線を完全に外す馬鹿がどこにいる? 
 あぁもう面倒臭い!)

「前を見ろ! 戦闘中に目線を逸らすなッ! お前では荷が重いと言うなら俺が変ってやってもいいがどうする?」

 俺は出来るだけ傲慢に聞こえるような口調で提案する。
まぁ断られたり、反応がなくても俺が倒して命を救う程度はしてやるが……この調子だと返事は出来そうもないか……

「――――ッ! お願いします」

 しかし、俺の予想に反して制服の少女は即座に返事を返した。
自分の身の程度を良く理解している。
 俺は制服の少女の事を甘く見ていたようだ。

「心得た!」


 改めて超大型鼠と対峙する――カピバラとヌートリア、ジャンガリアンハムスターを掛け合わせたような外見で、威嚇している顔付きには可愛らしさの欠片もない。たわしのようなゴワゴワとした剛毛で覆われ、恐らくは半水生の肉食性の高い雑食の鼠なのだろう、指の間には水かきのような膜が発達し、しかも成人の腰ほどの体高で――――正直に言えば気持ち悪い。  

 だがもしもの事を考え魔力を温存するなら、愛刀・流櫻りゅうおうでこの鼠を斬るしかない。
 発動させるは基本魔術の身体強化・切れ味強化・硬質化。
未知のモンスター相手に手加減は出来ない。

 俺は剣を八相に構え、疾く鋭く刺すように左足を前に出し、体重の乗った鋭い袈裟斬りを放つ。

ヒュン!

(今だッ!)

 土属性に分類される加重魔術を瞬間的に発動させ、流櫻りゅうおうと自分自身の重量を増加させる。
 俺の好きな小説でも言っていたが、9mmパラベラム弾だって音速になれば、途轍もない威力になる。
 身体強化+切れ味強化+硬質化×加重魔術×2の絶大な威力を持って、飛び掛かって来る超大型鼠の首を剛剣で無理やり斬り飛ばす。
 流石の不思議生命体とは言えども、首を斬り飛ばしても死なないなんて事は流石にないようだ。とは言え、昆虫系や軟体動物などは頭が取れても動きそうなモノが多いし、何より気持ち悪いので好き好んで戦おうとは思わない。

 俺は流櫻りゅうおうを右手で振い。付着した血を払うと、左手で取り出した。使い古しの布切れで血油あぶらを軽く拭い鞘に納めてから背後に振り返る。

「大丈夫か?」

 演技を忘れ俺は声を掛けてしまった。

(あ、やべ……)

「えぇ貴方が助力してくれたお陰で何とか……」

 俺はその少女に見覚えがあった。
ミナ・フォン・メイザース――彼女こそ、先祖が首を飛ばした当代は最強の遠距離魔術師の子孫である。彼女の生家メイザース家は、我がクローリー家に負けた現在、没落の一途をたどっている――大変険悪な関係である。
 俺は自分の顔からサーッと血の気が引いていくのを感じる。


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