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第3話鎧狼
しおりを挟むこれから向かうは街の近くにある森で、その周辺に群生する薬草の採集と、魔物討伐を同時に進行すると言う計画だ。
ゲームをするときも俺は効率的に進めるため、全てのクエストを受注して移動時間を減して進める事が多かった。
どうせやるなら効率的に……しかも今回は金と命がかかっている。
どちらにしろ失敗するリスクがあるから、両方やる事でリスクを分散する事が出来る。現実世界の投資と一緒だ。まぁ俺の場合バイト先の受け売りだがな……
それに今回は初心者向けの依頼で出現するモンスターがどの程度の強さなのかと言う疑問がある。
太陽の光が殆ど差し込まない程暗く深い森がそこにはあった。
「げっ! こんなところで薬草を探さないといけないのか……凄い落ち葉の量だ。ドイツ南部には、黒い森と呼ばれるトウヒと言う針葉樹で出来た森があると聞いているが……この森を見る限りだと、中世ヨーロッパの原生林の方が近いかもしれないな……」
中世ヨーロッパとは、栄光の古代ギリシャ・ローマが衰退し、ゲルマン諸民族が支配する暗黒時代となり、栄光の古代ギリシャ・ローマ文明を受け継ぎ発展させた。イスラム帝国から約10回に及ぶ十字軍等を通じて文化と富を輸入し、文芸復興《ルネサンス》の時代を経て近代へ至るまでの約千年間の事だ。
ローマ時代に盛んに作られた街道は、ゆっくりと緑の森に埋まってしまう。眼前にある森と同じく広葉樹であるので落ち葉で隠れてしまうのだ。
俺は落ち葉だらけの森に入って行く……カサカサとまだ硬く乾いた落ち葉が足を動かすたびに鳴る音が聞こえる。
「受付のお姉さんの話だと、一つ見つければ近くに群生しているって話だから一つ見つければ後は楽勝だな……」
そんな事を考えながら森を彷徨う事30分。暫く彷徨っているとある違和感を感じる。リスなどの小動物は冬に向け、ドングリなどの木のみを探して動いているハズなのに、姿が見えないのだ。何かがおかしい。
生ぬるい不快な風が吹き抜ける。
刹那!
風音に紛れ草木をかき分ける音が聞こえた。
数は幾つだ?
流石に四足獣の足音を聞き分けられるほど経験がある訳でないが、その数は優に五つを超えた事だけは直観的に理解出来た。
不味いなこの場所だと刀を振るには狭すぎる! 少しでも開けた場所に移動しないと横に振り抜くことが出来ない。
俺は周囲を見回しながら通って来た山道で、一番広い場所目掛けて移動して佩刀した魔杖刀・流櫻を鞘から払い戦闘態勢を取る。
頭を動かさずに目を動かすだけで周囲を見る。周囲には頭を低くし尾を下げ臨戦態勢になった鎧狼が、五頭ほど徘徊している。
いささか数が少ない気がする。
この群れのリーダーが、俺の大好きなシートン動物記の中の狼王ロボのような知性を秘めていると考えれば、陽動に他数頭いると考えてもまだ足りない。
鎧狼はこちらの出方を伺っているのかすぐには手を出してこない。リーダーの号令を待っているのだろう……
「来いよ犬っころッ!」
鎧狼が人語を解せる訳はない。
だが俺は鎧狼を挑発し、流櫻を八相に構える。
俺は風魔術で不可視の刃を生成し、見える限りの鎧狼向けて風刃を発動させる。
ピュー
落ち葉を巻き上げ木枯しの様に吹き抜けた風刃は、目線を反らす事無くゆっくりと動き回っている鎧狼四頭を見事に切り伏せ物言わぬ骸にする。
刹那!
音もなく背後に忍び寄っていた鎧狼が、落ち葉をかき分けて飛び掛かってくる。
前に出した左足のすぐ後ろに右足を刺すように動かし、後方から飛び掛かって来る三匹の鎧狼の首から胴目掛けてバッドのように流櫻を振り抜く――――
右から襲い掛かる鎧狼は首を斬り飛ばされ即死し、時間差で襲い掛かる鎧狼には鞘による打撃によって頭蓋骨を陥没させ、最後の一体だけは風精霊の加護で鋭い爪と牙による攻撃を防ぎ、流櫻の切っ先で僅かに与えた切り傷にとどまる。
一際大きい鎧狼は、後方へ飛ぶと姿勢を低くしたままグルグルと唸り声を上げて、攻撃の姿勢を崩すことは無い。
知性が高いな。
某有名漫画からインスパイアを受けた。俺の変形型〇龍閃で斬れると思ったのだが……少しは歯ごたえのある個体のようだ。
俺は流櫻を下段に構え、地面をコンコンと切っ先で小突く……すると、ドゴッと言う音を立て、落ち葉を巻き上げながら土の杭が現れ、長と思われる鎧狼の腹を串刺しぶら下げている。
しっかりと注意が出来ていたので危なげは無かったが、これが先ほど俺に決闘を仕掛けて来たレベルの魔剣士であれば、複数人で少し苦戦しただろう……
「人間相手の剣術を磨いていると、こういうモンスター型の動きには対処が少し難しいな……平穏無事な生活を送るために良い経験が出来た」
冒険者にとって依頼の達成と換金目的で、モンスターの部位を剥ぎ取る事は一般的な事らしく。例えば鎧狼皮は鞣す事で革鎧や靴、財布と言った丈夫さが求められる革製品に用いられるらしい。
「さて剥ぎ取るとするか……前世でやったアクションゲームみたいでワクワクするな」
先ず土杭でモンスターを全て逆さ吊りにし、首を斬り落として血を抜く……こうする事で毛皮が血で汚れる事が少なくなる……と聞いた事がある。独立独行とは言ってもそれは武芸だけの話。
流石に解体の経験はない。
俺が修業時代に打った、刃渡りの短い直刀をポケットから取り出して首元から刃を立てる。直刀とは日本刀の原型である湾刀以前の日本刀の事で大陸の両刃直剣のように、反りがなく真っ直ぐな形状をしており、刃が片刃である事が特徴で、湾刀に比べ切断能力に劣る。
しかし切るだけなら反りは要らない、包丁の様に片刃あればいいのだ。
刀を打つ練習で打ったモノで、解体ナイフとして使うには何ら問題はない。
俺は魔力を流し、直刀に刻まれた風属性の魔術を発動させる。
それは風だった。
本来の魔剣士とは、こう言った小魔術を用いて敵を倒す事を目的としたハズだったのだが、家の御先祖様が当時遠距離最強だった魔術師と酒の席で喧嘩になり決闘をしたところ、見事にその首を斬り飛ばしてしまったそうだ。
そのお陰で魔術のみを極める家はめっきり少なくなり、魔術師の近接戦闘能力の低さが改めて白日の下にさらされたと言う訳で、現在も件の家とは敵対関係にある。
切っ先から僅かに発動させた風刃を用いて首から胸、腹から肛門まで、医療ドラマで見たメスで肌を切るようにスーッと切り開いて行く。
その後は筋を切りながら皮と肉に分断させていく時間はかかるが、この魔杖直刀・風餐露宿があれば問題はない。
直刀・風餐露宿に刻まれた風魔術は、魔力を流している間自身を中心とした、半径4m程度の間に円形の気流を産み出し、匂いなどの飛散を抑止する風のドームを生成し、その副次効果として気流を用いた索敵を可能とする。結界魔術【風餐露宿】の術式が刻印された。特化型の魔杖剣なのだ。
幸い鎧狼には、魔臓と呼ばれるこの世界のモンスターが持っている不思議器官は持っていない。しかしこの世界の生き物は、胆石や尿路結石と言った石とは違う結晶体を体内に持っている。
魔石と呼ばれる石のようにな器官で、ありこの世界の歪な文明レベルを担っているエネルギー資源であると同時に、生き物にとっては弱点でもある。不調を来せば魔術は使えなくなり、素人である俺から見ても明らかに物理法則に従っていない。モンスターの魔石が破壊されると重さに耐えきれなくて自壊する。
「さて八枚の鎧狼の毛皮が手に入ったが……件の薬草は見つかってない。まぁこの狼程度なら問題ないから風魔術で落ち葉を吹き飛ばしながら探すか……」
こうして俺は、鎧狼の毛皮八枚と薬草の規定量×10の戦利品を持って冒険者ギルドへと帰路に就くのであった。
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