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第10ー2話独り焼肉2
しおりを挟むどちらかと言うと、内臓系のペースト感のある舌ざわりが苦手で、なおかつ脂身が高校生当たりで辛くなった俺にとって、赤身や赤身に近い肉質の内臓である横隔膜は好きな部位だ。
赤ワインを基本にした。特製ソースを小皿に少量だけ垂らし、味見を兼ねて横隔膜を付けて、ナイフとフォークを使い一口サイズにカットして頬張る。
赤ワイン、蜂蜜、マスタード、大蒜、玉葱、酢、胡椒をベースとした香辛料の豊かな味と香りがする。クミンや唐辛子の風味によってソース深みが増している。
(あ、これアメリカのバーベキューソースに近い味だ)
以前アメリカのバーベキューソースをネットスーパーで幾つか買って、肉に付けて食べた事があったがその味によく似ている。トマトやマヨネーズの味や風味を感じないこと以外はほぼ同じだ。
(やっぱり日本人としては、醤油ベースの甘めの焼き肉のタレが欲しくなる。今度手を出して見るか……)
次に本命の脂身を食べる。
トングを使って脂の多い肋骨肉を一枚掴み。一度バーベキューソース擬きに軽く付けてから、網の上に網の中心部に肉を置く。基本に忠実に中心部の高火力で一気に焼き上げる事で、表面はパリッと中はふっくらとした仕上がりになる。肉がちじみ。表面に脂が浮かんで来たところで、肉をひっくり返し焼き色が付けば食べごろだ。
空かさずトングで肉を取り大きく口を開いて肉を頬張る。
口の中で牛の脂の旨味が爆発し、タレの焦げた香ばしさい匂いと炭の香りが鼻の奥へと突き抜ける。
「うまい……白飯がほしい」
表面がパリッとしたバゲットを食む。
しかし希望がないわけではない。一応南方や南西では、米の中でも長粒種や短粒種が食べられていると聞いたことがある。両種とも日本で主に食べられているジャポニカ米に比べ、パサパサとしており、粘りが少なく、独特の香りがあり、地球では副食材や汁料理に混ぜて食べる事が一般的だ。
元の世界ではアジア以外でも、エジプトやイタリアでも米は食べられており、イタリアでリゾットなどを作る際に用いられる米は、アルボリオ米と呼ばれており食感はやわらかく、滑らかで、コシが強くジャポニカ米に分類されるのだ。
――――という事で俺は、似たような文化を歩んでいるこの世界ならと、希望を持っている。
肋骨肉を平らげ、厚切りのサーロインステーキを焼く前にあえて残しておいた。瑞々しいサラダを頬張る。
掛けるのはシンプルに塩と胡椒それにオリーブオイルだけだ。
瑞々しいレタスやキャベツなど葉物野菜のパリっとした歯ごたえで、一度口内をリセットするとともに罪悪感の軽減と胃の調子を整える手助けをする。
「さっぱりとしててうまい!」
焼肉屋と言ったら食べる野菜と言えば、うま塩キャベツや国産のキムチだが残念ながらこの世界には存在しない。かと言って、キャベツの酢漬けを食べたいと思う程思い入れはない。
トングを握り、厚切りのサーロインステーキを焼こうとした時だった……
「君は面白い食べ方をするな……」
声を掛けて来たのは料理人の中年男性だった。
「西洋長葱のみじん切りを、肉に乗せて食う奴なんて初めて見た。檸檬と塩で食べるのもだ。良かったらその食べ方ウチのメニューに加えさせてくれないか?」
メニューに加える許可が欲しいようだ。
「えぇもちろん構いませんよ。俺も次に来るときに自分で注文するのは面倒ですから」
「そいつはありがてぇ……俺ぐらいの年になると肉が食いたくても脂で胃がもたれてしまうもんだからよ。檸檬や西洋長葱それに、炭酸水に檸檬の果汁を加えるなんて方法は初めてみたからよぉ~。他にも何かアイディアがあったら教えて欲しいんだ。当然金は直ぐに払う! と言いたい所だが……その制服……お前さん貴族だろ?」
「……」
「おっと言いふらす積りはねぇ! ここは学園からも遠いから知ってる奴は少ないから安心してくれ……十分な売り上げが出来たら上納金を支払う。高い頻度でなければ、飲み食いした金はタダでもいいその代わり貴方の舌と、庇護をくれ!」
「分かった。アイディアと庇護をやる……いいのか? 俺がどこの誰だか聞かなくても……」
この国の貴族は商売人などの庇護者と成る事で金と名誉を手に入れる。簡単に言えばヤクザのみかじめ料と同じだ。
「肉を美味しく食べようとする奴が悪い貴族な訳はねぇ! どれだけ小さい家だっていい。俺は俺が信じる道を生きて来た。これからもそうだ!」
「そうか……ではクローリー家の庇護民となれ」
「クローリー家ってあのクローリー家ですか?」
「そうだ。武の名門クローリー家だ近いうちにまた来る。庇護民の証である物も持って来る」
「ありがてぇ」
俺がステーキを焼く姿を見たがる店主のせいで二枚ステーキを焼き、店主が焼いたステーキを一枚余分に食べ比較するハメになり腹がパンパンになった。
店主に強請り林檎をむいて貰う。口内をさっぱりさせるデザートととして平らげると、「代金は要らない」という店主を押しのけ給仕にお代を押し付け店を後にした。
人に気を遣うことなく、好きなものを好きなだけ自分のペースで食べられる。これぞ食事の幸せ。食事は皆で食べた方が美味いなどと言うが、必ずしもそうだとは思わない。
「この店は当たりだったな……」
こうして俺の新しい一日は幕を閉じるのであった。
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