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第29話実演
しおりを挟む「これは風刃を基本に、【空斬り】と呼ばれる剣技の最高峰の技を再現・強化・拡張した俺の新魔術【空裂】を発動したものだ。
込める魔力量と剣の振り方で斬撃の威力・量・軌道が変るから練習しておくことを推奨する」
風斬りを基本にした術式が汎用性の塊であったため、特定の条件で変数を変更出来るように組んであるのだ。
「では実演をしよう……」
俺は剣を構え振り抜く――――
先ほどとは違い、一本ではなく三本の風の刃が出現し拡散しながら飛んでいく。
先ほどよりは威力は下がっているものの、不意の一撃であれば十分相手の意識を刈り取れるだけの威力がある。
「このように俺が良く使う【風爪】などの風系統の魔術の様に【空裂】の本数を増やす事も出来るが、一瞬で術式を構築・変更する必要があるので馴れるまでは、実戦で使わない事をお勧めする。練習した上で詠唱を決めておくと良いだろう……例えば【空裂三連】と言ったように決めておくと良いだろう。」
「使い勝手のよさそうな汎用性の極めて高い魔術ね。いいの? 自分だけのモノにしておいた方が、勝手はよさそうなものだけど……」
「今回俺は魔剣士としてではなく、一人の鍛冶師・付与術士としてこの剣を打ったんだ。それで今の俺が脅かされようと最高の仕事をしただけに過ぎない。俗人的な技術よりも汎用的な技術を求めるのが昨今の流行だ。それに一度これだけ素晴らしいモノを作れたのだ。二度目が出来ないなんてことはない……と信じているからな……」
職人の端くれとして「これ以上のモノは二度と出来ない」とは、口が裂けても言えない。少し口篭もってしまったが一度男が宣言したのだ。
そう遠くない将来。この濶剣型の魔杖剣・紅椿を超える作品を作って見せると心に決めた。
「私も信じてあげるわ……」
これがデレと言う奴だろうか?
想定外の一言に俺の顔が朱に染まるのを感じる。
「ありがとう。では最後【天月】の説明をしておこう、天月自体はそう変わった性能にはしていない」
剣を握り込むと、体を斜に構えた。剣を水平にするように気を付けながら、腕を後ろに退く――――
その様はまるで邦画版「人斬り抜刀斎」で見た。斎藤一が得意とする片手での突き技【牙突】に似ている。
史実では「無外流」またはその元となった「山口一刀流」と言う抜刀術の使い手で、片手での突きが得意だったと言う逸話から生まれた創作であり、片刃の曲刀であっても刺突と言うのは、十分に有効打足りえると言う証明である。
――――そのまま滑らせるように剣を突き出す。すると切っ先から熱光線が放たれる。
壁は焦げるのに十分な熱量を持っている事を示している。
「これが最後の固有術式【天月】だ。効果は突きを放つ時に熱線を切っ先から放つことで、相手に揺さぶりを掛けられる事と接近される前に叩ける事だ。上手く使えば火球を連射するよりも手軽に火力を出す事もできるぞ?」
「私の苦労は何だったの?」
「道具に頼れば出来る事を人力でやった?」
すごいとは思うけど、あの時もミナ向けに調整したものを使っていれば楽に使えた事だろう。
「さて全てを合わせた奥義をみせてやる。その名を【穿千】と言う」
体を斜に構えた剣を水平にするように気を付けながら、腕を後ろに退く――――すると先ほどとは違う。赤熱化した金属や岩漿のように煌めいて、赤葡萄酒色に刀身が染まり、刀身からはまるで粉雪や蝶の鱗粉のような目に見える程濃度の高い魔力が舞い散る。
それは月夜の寒空に舞う粉雪。あるいは月明りに照らされキラキラと、輝く桜吹雪とでも言いたくなるような情景だった。
「綺麗……花弁みたい……」
「薄氷のようだ」と細工師アルタに言わしめた。細く頼りない印象を受ける両刃の刀身に、ピューピューと言う音を立てて風が集い収束していく――――
キュィィーン。
――――やがてゴウゴウと唸るようなジェット戦闘機を彷彿とさせる轟音を轟かせ、白銀の刀身が赤黒く染まる。
風同士の摩擦によりバチバチと雷光が迸り、刀身を囲むように渦巻く風の塊を言葉で表現するとすれば、小さな暴風雨だ。
「【穿千】」
俺は上空に向けて限界まで溜めた魔力を解き放つ。
ゴウゴウと言う轟音を轟かせ、指向性を持って解き放たれた風は、全てを巻き上げながら空へ空へと突き進んでいく。
やがて切っ先から熱線が発射され、先に発射された空気の塊を飲み込み断続意的に爆発していく――――
ボン! ボン! ボン!
やがて小さな暴風雨の先端まで到達すると、一際大きな爆発をしその衝撃波を持って上空の雲を押しのける。
「これが最終奥義で、最大最強の攻撃だ。これが使いこなせるようになるのけっこう大変だったんだぞ? と言う訳で風魔術を覚えれば「相乗」させることで火力を底上げできると言うデモンストレーションでした。俺は疲れたから帰るわ、あと約束通り一振り刀を置いていくからじゃぁ」
俺は疲れている事を悟られない様に、何とか練習場を後にして呼びつけておいた馬車に乗り家に帰る。
その晩は魔力の過剰消費による疲労感で泥のように寝た。
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