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第48話ゼブル・エルク
しおりを挟む俺は風の流れに神経を集中させる。野生動物は、匂いや気配に敏感で風上に立ってしまい匂いを感じ取られれば、直に逃げられてしまう恐れがあるからだ。
良かった。幸い足跡の方向に対してはまだ風下だ。このままこの足跡を追跡していけば、ゼブル・エルクの群れに辿り着くと言う寸法だ。
俺は足跡を追いつつ魔杖剣に手を掛ける。足音を出来るだけ殺しつつ、ゼブル・エルクに気取られないようにしなければならない。
追跡して20分弱でようやくゼブル・エルクの群れ14頭を発見する事が出来た。
話で聞いていたよりも4mと言う大きさの持つ迫力は凄い。角の大きさだけでも200センチは下らないだろう。
骨などを用いた装飾品などにこのゼブル・エルクの角が用いられ、ゼブル・エルクの角を買い取り加工する事がこの辺りの農家の冬の収入源との事だ。
笛とか髪飾りとかにでもするのだろうか? いや、象牙のようにボードゲームの道具にでも加工するのだろうか? うん。後で聞いてみよう。
「よし後は狩りをしていくだけだ」
先ずは魔術で雑魚共を仕留めてからだ。
いつもなら風系統か炎系統の攻撃魔術を用いるのだが、ここでなら土系魔術の方が便利が良い。
俺は土を魔術で加工し投槍の形を作る。矢系の上位魔術である槍《ランス》系の一つ、土槍だ。
それを多量に生成し、足と頭を狙い時間差を置いて一斉に発射する。
ドドドドドドドドド――――!!
ドラムロールのような轟音を轟かせ、土槍《アースランス》が放たれる。
「「「ぎゅぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」」
群れは混乱し、土槍が命中した痛みで悲鳴をあげる個体や、何が起こったのか分からず馬のように二足で立つ個体もでるほど興奮している。
今だ。
その轟音に紛れ、側面から愛刀・流櫻を鞘から払い。【瞬歩】を使い森を駆け抜けてゼブル・エルクに接近する。
群れの中の数頭が俺に気が付く――――
だがもう遅い!!
「――――はっ!」
気合を込めた声と共に、流櫻がゼブル・エルクAの首を切り裂いた。
斬り飛ばされた首が落ちる。刹那の時間さえ惜しい。確認せず、次の標的に【瞬歩】で接近する。
「やはり肉や骨を断つ感触を刃から感じる方が楽しいな……」
振り抜いた姿勢。脇構えの逆の構えと言ってもいい――――
脇構えは、右足を引き体を右斜めに向け刀を右脇に取り、剣先を後ろに下げた構え方で利点としては、大きく半身を切ることによっり相手から見て、自身の急所が集まる正中線を正面から外し、こちらの刀身の長さを正確に視認できないように構える。下段や横、後ろからの奇襲にも対応しやすい構えだ。
――――今回は利点らしい利点はないが、距離を詰める事に集中したいから用いる。
カチと音を立てて首を返し、流櫻の刃筋を立てて 左足を強く踏み込み斬り上げる。
ザン!
「龍尾!」
魔力を込めた魔杖剣は魔力の残滓を鱗粉のように、まき散らしながら切れ味や耐久性を引き上げつつ、まるで東洋の龍が空を泳ぐような美しい軌道で、ゼブル・エルクBの首を斬りとばす。
まだ俺は止まらない。
「風牙!」
俺は一刀一足《いっとういっそく》間合いの外にも関わらず。魔力を込めて愛刀を振る。
収束された魔力を、剣を振る事で生じる剣圧(風圧)で、不可視の衝撃として飛ばし攻撃する。
突然の衝撃で混乱した所へ、【瞬歩】で急接近し、再び【龍尾】でゼブル・エルクC首を斬り飛ばす。
「魔刀術・飛燕舞踏!」
放たれた斬撃は、身を翻し軽やかに飛行するツバメのように飛来し、地面スレスレから急上昇し、ゼブル・エルクB、E、の足を跳ね飛ばした。
最後まで生き残り、真っ白な処女雪を朱く染めたそのなかで、群れの中でも一際大きなゼブル・エルクが頭を低くし、槍のような鋭利さと刀身から枝のような刃の生えた七支刀のような複雑さを持った立派な双角を俺に向ける。
「いいぜかかって来いよ!」
俺は血を払い落した剣を納刀し、鯉口を切って備える。
ヘラジカの喧嘩は巨大な角をぶつけ合う。外敵に対しては角で掬い上げて投げるか角で突き殺すと言われ、ヒグマの成獣がヘラジカの成獣との戦闘で死亡した事も確認されている。
ゼブル・エルクの突進を燕のようにヒラリと躱すと、そのまま横なぎの斬撃でゼブル・エルクの首を斬り飛ばし、飛燕舞踏で足を斬り飛ばしたゼブル・エルクにとどめを刺して、氷魔術で纏めて冷凍し、信号を上げた。
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