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第54話空の旅1
しおりを挟むクローリー家では年末年始は本家のある。
ザウストブルクに集まる事になっている。この日と他数日だけは国中で仕事をしているクローリー家のメンツが勢ぞろいになる。
「はぁ……憂鬱だ……」
まるで水に塗れた鴉のような。濡れ羽色の頭髪の少年は、物憂げな表情を浮かべ車窓から外を眺める。
両親のお陰だろうか? それなりに整った顔立ちだが、物憂げで、気怠げな表情のせいか、その辺にいる年頃の男の子と言う評価まで落ちてしまう。
少年の服装はラフとは言えず、かと言って旅装束とも言えない半端なものだが、衣装の制作者の真心を感じるモノだった。
車から外出する時に羽織る。紅茶色の塹壕外套が一人にはやや広い車内の客席に、刀剣と一緒に纏めて置かれている。
少年がボーっと見つめる車窓の先……眼下に広がるのは、広大な田畑と思われる場所は一面の雪で覆われており、見ているだけで寒気がしてくる。
俺が生まれたクローリー家の領地は、南方のため比較的暖かいがそれは雪が、桜吹雪のように舞う程度の暖かさだ。
「寒いよりは暖かい方が好きだが……」
空の旅と言うのも存外悪くない。
前世では、自衛隊のヘリコプターに乗って実際に低空飛行すると言う。貴重な体験をしたことがあったが、飛行高度はそのくらいで、旅行で乗ったジェット機のように雲海の上を飛ぶことは飛竜にはできない。
飛竜は数少ない家畜化されたモンスターであり、竜種のなかでは戦闘能力は低い。
だが数少ない空の家畜であり、飛竜一頭で馬数頭分のコストがかかるものの、移動時間が短くなる事は大きなメリットとなる。
中世の様な世界だが制空権と言う概念はもうすでにある。
そのため、飛竜の保有頭数は戦術的に重要な要素なのだ。
そんな事を考えながら車窓から雪に飲まれた田畑や山、村落を眺めていると……コンコンと言うノックの音がする。
「構わん」
俺が返事をすると「失礼します」と一声して、車の前の小窓が開く。
モンスターの毛皮を織り込んだコートの袖口と、手袋が見える。
高度が高いせいなのか、雪がしんしんと降るせいなのかは分からないが、魔道具で暖められた車内に肌を刺すような冷たい風が侵入してくる。
寒っむ!
俺は寒さの余り声が出そうになるが、グッと堪える。
これだけ寒いと外套を着ても寒そうだ。
「手短に話せ」
「アーノルド様。飛竜の食事と休息のためもう少ししましたら、一度空き地に着陸します。その際に御手洗いなどを済ませて下さい」
「分かった」
俺が返事をすると、騎士は小窓を締めた。
それだけでも外気の侵入は少なくなり、幾分も温かくなる。
やっべ、急に冷えたせいでトイレ行きたくなってきた。
暫くすると飛竜達は、吊り下げられた車をゆっくりと着陸させるべく、大きく羽ばたき減速しながら着陸する。
ドサっ! と言う音を立て俺が乗っている車の重さで、雪が沈む。地面に設置した事を確認して飛竜達も着陸する。
本来なら籠と言うべき車が接地した時点で、一度強い衝撃がくるのだが、雪のクッションのお陰衝撃は少なくてすんだ。離着陸時の衝撃が、数少ないこの飛竜車の欠点だ。
他の欠点は、飛竜の食費が高い。具体的には数日で馬一頭を食べる。馬一頭は人間10人分の食事を必要とすると前世の本で読んだ記憶があるので、どれだけコスパが悪いのかは誰でも分かる事だろう。後は最低でも二頭いないと、飛竜車が出来ないことだろう。
因みに今回は四頭立てなのでコスパは最悪だ。
暫く待つとドアの下に設置された板……ステップが騎士によって取り出されドアが開く。騎士は主君の子である俺の手を取り下車を促す。
「足元は雪に覆われておりますので、お気を付けください。」
騎士に手を引かれ下車を補助される。
俺が下りると、騎士達は飛竜の鞍以外を外してやり、暫しの休息を与えてやるようだ。
そのふうけいをみていると……近づいて来る男が居た。
「クローリー家の領土とは異なり、ここは寒いですな……」
周囲を飛行しながら警戒に当たっていた。騎士団。そのなかでも隊長のバレンノが俺を気使い話しかけてくれる。
バレンノは、中年太りしたビール腹をものの見事にモコモコの毛皮のコートで偽装した男で、軽口だが他人の事を良く見ている男だと俺は知っている。
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