56 / 71
第55話空の旅2
しおりを挟む「バレンノ。あなたは兄の警護にも付いていたハズでは? 幾度目かは分からないが俺よりは、この寒さに慣れていると思ったのだが……記憶違いだっただろうか?」
「そりゃ多少の慣れは、ありますが年々寒く感じるのです」
そう言って薄くなった髪を撫でた。
「決まって居るだろう? 年々薄くなってきたその頭と、冷えやすく温まり辛い。その樽のような腹に詰まった脂肪のせいだ」
「その通りかもしれませんなぁ」
そう言って腹を叩いてゲラゲラと笑っている。
例え立場があったとしても、自分が笑われる事で空気を明るくする事を選択できる点は非常に尊敬できる。
俺達が雑談している間に、飛竜たちは枷の一部を外され、翼脚を短く折りたたみ四足歩行の体制になり、騎士達から与えられる肉塊を丸呑みにしている。
何とも愛らしい。と言いたいところだが、顔つきはワニやトカゲや恐竜のようなで可愛らしさは正直感じない。
コウモリや翼竜を思わせる前脚……ファンタジー的に言うのであれば翼脚を持ち、後脚は猛禽類のような鋭い爪が生えており、鷹や鷲のように急降下しながら攻撃すると予想できる。黒や茶色がかった滑らかな革に近い鱗を持つ。
俺も自前の飛竜が欲しいものだ。
飛竜《ワイヴァーン》を凝視する俺を見て、中年騎士は言葉を紡ぐ。
「可愛らしいとは顔つきだけを見れば到底言えませんが、相棒として付き合ってみれば、存外表情と感情豊かで可愛らしい生き物ですよ飛竜は……」
「だろうな。どんな見てくれの生き物であろうとも、共に過ごせば互いに情が湧くと言う物だ……俺もいつか……とは思うが、先ずは学園を卒業せねばな……」
「はははは、『飛ぶ鳥の献立』と言った所でしょうか? お願いですから、留年だけは避けて頂きたいものです。この寒空の旅を増やしたくはありませんからんな」
そう言うとガハハハッと声を上げて笑う。
バレンノは仮にも飛竜に騎乗する騎士だというのに、寒空が苦手なのか……
「安心しろ。例え俺が留年したとしても妹か大叔母が入学するからどちらにせよ。学園のある町とクローリー領の往復回数は変わらん……」
「確かにその通りですな、若様はタダでさえ突飛な行動をされる……奥様の御心労を汲み取ればこその忠告ですぞ」
中年騎士は今までの巫山戯た雰囲気を、スッと潜めてそう言った。
「わかっている……」
俺はそっぽを向いて気のない返事を返す。
中年騎士バレンノが言う『突飛な行動』に心当たりがある。俺にとっては耳の痛い話だからだ。
「俺は用を足してくる。バレンノも飛竜にメシをやってきたらどうだ?」
「飛竜にとっては、間食程度ですよ。あのぐらい……まぁ飛竜はトリと違って、夜目が利かないワケじゃないので腹が空けば勝手に狩りをしますよ。人間だってマズイ保存食を好んで食いたいとは思わんでしょう?」
そう言ってバレンノは腰から麻紐で縛った大きな豚ハムを指さした。
「なるほど確かに、道理だな……だが、お前の飛竜はそうは思っていないようだぞ?」
俺はバレンノの飛竜の方を指さした。
すると、バレンノの飛竜は、翼竜の様な前脚を器用に使い。ノシノシと近づいてきた。
「確かにそのようですね……」
観念したのか豚のハムの塊をバレンノは飛竜に向かって投げてやる。
「これでお前の酒の肴は飛竜の間食に消える訳だ」
「ま、しょうがないですな……」
そう言ったバレンノの表情はどこか悲し気だった。
俺はバレンノのハムが無残にも丸呑みされる様子を見届けると、用を足すために森へ向かう。
近隣に住民が居ないこの森の雪は、殆ど踏み荒らされておらずフカフカで膝を超える高さで積もっている。
「この状態で戦闘はしたくないな。足が取られるし、距離を取る為のジャンプもしずらい」
小便をするのに、愛刀は持ち歩きたくないので腰には武器を下げていない。狙いをミスして大事な刀を小便まみれにはしたくないからな……
シャクシャクと音を立てて、少し離れた木陰まで進み辺りを踏み固めてから用を足す。ブルブルと体が震える。火と水を用いて温水を作り手を洗う。
「座っているだけとは言え俺も小腹が空いたな……飛竜車に戻ったら軽食を食べよう。暖房の余熱で湯を作り紅茶でも飲んで温まろうか? でも利尿作用があるし……」
俺は軽食を楽しみにして、元来た方向へ足跡を頼りに歩みを進めた。
54
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます
夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった!
超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。
前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる