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時価マイナス2000万
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「笑ないさい、君は私に約束したでしょう」
ヒュッと喉がなる。感じたのは恐怖だった。頭が一瞬真っ白になって、そこで気づく。
俯いたまま一言も発しないアオイを庇うように、ノヴァがジスランに噛み付いた。
「はあ!? あのさあ、いくら竜神様でも言っていいことが――」
「ノヴァさん」
ノヴァの言葉を遮ると、青年は不満そうに「ア?」と凄んだ。これじゃどっちの味方か分からない。アオイは苦笑いを浮かべながら、ジスランの顔を真っ直ぐ見据えた。その顔に迷いはない。
「……うん、確かに僕はジスランと約束した」
誓ったはずだ。常に完璧な空波蒼でいることを。
「そして――ジスランも僕と約束したはずだ」
ジスランが目を細める。アオイは不安そうな表情を綺麗に消し去り、代わりに不敵な笑みを浮かべた。
「違う?」
「ええ、そうです」
アオイはひらひらと手紙を振った。
「この送り主は、僕がジスランに相応しいと思ってないみたい」
「そのようですね……それに関しては、私の力不足でもあります」
ジスランは悔しそうに眉をひそめた。
「ごめんねアオイ。君が自由に歌える環境を、空の下で笑う君を見たいと言ったのは私だったのに」
「いいよ、きっとジスランだけのせいじゃない。この送り主はどういう訳か僕に対して結構な悪意を持ってるっぽいから。どうしてかは分からないけど」
「いやアンタ今までの自分の所業胸に手を当てて考えてみろ」
いつもの調子を取り戻したアオイを見て安心したのか、ノヴァもいつもの調子でつっこんだ。アオイはひょいと肩を竦めた。
「僕、悪いことはしてないので」
「あーはいはいそうだな。アンタは常識がないだけだもんな」
「なんか手紙よりノヴァさんのちくちく言葉の方が心にくるな……」
アオイがぼそりとつぶやくと、ノヴァははん、と鼻を鳴らした。アオイは仕切り直すように咳払いをすると、ジスランの顔を覗き込んだ。
「本当はファンにこういうことは頼みたくないんだけど――」
基本的に公私混同はしない主義だ。
「でも、ジスランは僕の番だよね?」
楽しませてみせると言ったことを嘘にするつもりはない。そして、ジスランだってきっとそうだ。
「僕の番のジスランは、僕のことを守ってくれる?」
「命に変えても守ってみせます」
アオイは破顔した。
「音響トラブルの原因は分からないけど、どうも魔石が関係しているみたいなんだ」
「そのようですね」
ジスランは小さく頷くと「いくつか思い当たる原因があります」と続けた。
「いくつかか……そしたら、明後日までに原因を見つけて叩くことは難しい?」
「そうですね。正直時間が足りない」
「じゃあ、事故を起こさないようにはできる?」
この際原因が分からなくてもいい。大事なのは二度と同じ事故を起こさないことだ。アオイの問いかけに、ジスランは力強く頷いた。
「もちろん」
頼もしい声に力が抜ける。緊張で強張っていた背中をほぐすためグッと一度伸びをすると頬を緩めた。
「それなら明後日の舞台も開催します」
アオイの言葉に、ノヴァが微かに目を瞠った。
「僕に悪意を持ってる人間がどれだけいるかは知らないけど、それ以上に僕たちは大勢の人に望まれてる」
ノヴァさん、貴方もです。アオイは静かな声で続けた。ノヴァはごくりと唾を飲み込んだ。
「僕たちは期待に応えないといけない。たとえ何があっても」
アイドルはファンがいて初めてアイドルと名乗れるのだ。期待に応えられないアイドルに価値はない。アオイは「それに」と口の端を持ち上げた。
「こんな真偽不明の誹謗中傷と嫌がらせくらいで公演をやめるなんて勿体なさすぎるでしょ」
「は?」
「国立劇場のリース契約一体いくらだと思ってるんですか。何があっても回収します」
「は~~~??」
ノヴァががめつすぎる、とつぶやいた。ジスランは苦笑いしている。
「竜神様の前でそんなこと言っていいわけ?」
「僕は僕にお金を使ってくれる人が1番好きです」
「まかせて」
「ほらね」
「怖……」
ノヴァはげんなりと肩を落とした。
「まあでも、ノヴァさん。心配してくれてありがとうございます」
「心配して損したわ。……あえて聞くけど、手紙のことは聞いてほしくは……ないんだよな」
「ん、そうですね」
アオイは眉を下げ小さく頷いた。ノヴァは何か考えるように視線を宙に彷徨わせると、モゴモゴと口を開いた。
「でもさ、アオイ。辛いなら……」
「大丈夫」
アオイは計算されつくした美しい笑みを浮かべた。
「僕を誰だと思ってるんですか」
ヒュッと喉がなる。感じたのは恐怖だった。頭が一瞬真っ白になって、そこで気づく。
俯いたまま一言も発しないアオイを庇うように、ノヴァがジスランに噛み付いた。
「はあ!? あのさあ、いくら竜神様でも言っていいことが――」
「ノヴァさん」
ノヴァの言葉を遮ると、青年は不満そうに「ア?」と凄んだ。これじゃどっちの味方か分からない。アオイは苦笑いを浮かべながら、ジスランの顔を真っ直ぐ見据えた。その顔に迷いはない。
「……うん、確かに僕はジスランと約束した」
誓ったはずだ。常に完璧な空波蒼でいることを。
「そして――ジスランも僕と約束したはずだ」
ジスランが目を細める。アオイは不安そうな表情を綺麗に消し去り、代わりに不敵な笑みを浮かべた。
「違う?」
「ええ、そうです」
アオイはひらひらと手紙を振った。
「この送り主は、僕がジスランに相応しいと思ってないみたい」
「そのようですね……それに関しては、私の力不足でもあります」
ジスランは悔しそうに眉をひそめた。
「ごめんねアオイ。君が自由に歌える環境を、空の下で笑う君を見たいと言ったのは私だったのに」
「いいよ、きっとジスランだけのせいじゃない。この送り主はどういう訳か僕に対して結構な悪意を持ってるっぽいから。どうしてかは分からないけど」
「いやアンタ今までの自分の所業胸に手を当てて考えてみろ」
いつもの調子を取り戻したアオイを見て安心したのか、ノヴァもいつもの調子でつっこんだ。アオイはひょいと肩を竦めた。
「僕、悪いことはしてないので」
「あーはいはいそうだな。アンタは常識がないだけだもんな」
「なんか手紙よりノヴァさんのちくちく言葉の方が心にくるな……」
アオイがぼそりとつぶやくと、ノヴァははん、と鼻を鳴らした。アオイは仕切り直すように咳払いをすると、ジスランの顔を覗き込んだ。
「本当はファンにこういうことは頼みたくないんだけど――」
基本的に公私混同はしない主義だ。
「でも、ジスランは僕の番だよね?」
楽しませてみせると言ったことを嘘にするつもりはない。そして、ジスランだってきっとそうだ。
「僕の番のジスランは、僕のことを守ってくれる?」
「命に変えても守ってみせます」
アオイは破顔した。
「音響トラブルの原因は分からないけど、どうも魔石が関係しているみたいなんだ」
「そのようですね」
ジスランは小さく頷くと「いくつか思い当たる原因があります」と続けた。
「いくつかか……そしたら、明後日までに原因を見つけて叩くことは難しい?」
「そうですね。正直時間が足りない」
「じゃあ、事故を起こさないようにはできる?」
この際原因が分からなくてもいい。大事なのは二度と同じ事故を起こさないことだ。アオイの問いかけに、ジスランは力強く頷いた。
「もちろん」
頼もしい声に力が抜ける。緊張で強張っていた背中をほぐすためグッと一度伸びをすると頬を緩めた。
「それなら明後日の舞台も開催します」
アオイの言葉に、ノヴァが微かに目を瞠った。
「僕に悪意を持ってる人間がどれだけいるかは知らないけど、それ以上に僕たちは大勢の人に望まれてる」
ノヴァさん、貴方もです。アオイは静かな声で続けた。ノヴァはごくりと唾を飲み込んだ。
「僕たちは期待に応えないといけない。たとえ何があっても」
アイドルはファンがいて初めてアイドルと名乗れるのだ。期待に応えられないアイドルに価値はない。アオイは「それに」と口の端を持ち上げた。
「こんな真偽不明の誹謗中傷と嫌がらせくらいで公演をやめるなんて勿体なさすぎるでしょ」
「は?」
「国立劇場のリース契約一体いくらだと思ってるんですか。何があっても回収します」
「は~~~??」
ノヴァががめつすぎる、とつぶやいた。ジスランは苦笑いしている。
「竜神様の前でそんなこと言っていいわけ?」
「僕は僕にお金を使ってくれる人が1番好きです」
「まかせて」
「ほらね」
「怖……」
ノヴァはげんなりと肩を落とした。
「まあでも、ノヴァさん。心配してくれてありがとうございます」
「心配して損したわ。……あえて聞くけど、手紙のことは聞いてほしくは……ないんだよな」
「ん、そうですね」
アオイは眉を下げ小さく頷いた。ノヴァは何か考えるように視線を宙に彷徨わせると、モゴモゴと口を開いた。
「でもさ、アオイ。辛いなら……」
「大丈夫」
アオイは計算されつくした美しい笑みを浮かべた。
「僕を誰だと思ってるんですか」
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