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第1章

第16話 リミテーションの恐怖

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探査マップ/神愛を拡大し、真っ直ぐアリシアたちがいる馬車に向かって行く。空を飛んでいるので相変わらず、高所恐怖症のクレタに双丘を顔に押しつけられている。

17歳の胸は甘い花のような心地よい香りがする。女の子って男を惑わす良い香りがするよな。
先程10発以上出したから、今回はムラムラしなくてすみそうだ。

しばらく飛ぶと慰問団の馬車がある上空に差し掛かり、地上に降下していく。オレ専属のエミリアが上空を見上げているのが見え、こちらを見てホッと安堵の胸を撫で下ろしている。優しい娘だから、オレのことをずっと心配してくれていたのだろう。

「団長! セシル様が帰ってこられました」

聖騎士団、団長ロックウェルが走ってくる。他の聖騎士と聖歌隊の人たちもみんながオレのところに集まった。ん? アリシアが来ないのはなぜだ?

ひどく緊張した顔で、聖騎士団団長ロックウェルが説明する。

「セシル様、大変なことが起こりました。ア、ア、アリシア様が誘拐されました! セシル様がこちらを離れられたあと、1時間ほど移動したこの場で休憩をするために、馬車を停車させたのです。そると待ち構えたように突然、野盗が襲いかかって来ました!」

「ええ~! アリシア誘拐されちゃったの? オイラびっくりしたよ!」

「確かに驚いたし、さっぱり意味が分からん。野盗など、この戦力だったら楽だろ。アリシアもいるしな。軍隊が襲ってきても返り討ちだろう」

「はい、そうなのですが、そこにいるガストンが捕まって人質にされたのです。首もとにナイフを突きつけて脅されました。お優しいアリシア様は助けてと叫ぶガストンをお見捨てになれなかったのです。代わりに人質になられると、連れていかれました」

「なるほど、野盗はアリシアの人柄につけこんだわけだな」

オレが冷静を装ってそう言うと、オレに断りもしないでガストンが発言する。

「はっ! 随分と冷静ですが、セシル様は聖女アリシア様が捕まったってのに、心配じゃないのですかい?」

自分が人質になったから、アリシアは身代わりになったというのに、好き勝手な事を言う男だ。ちょっとムカつくな。
なんとなくガストンのステータス詳細を見る。

●名前:ガストン・ジャラーグ
●年齢:32歳
●種族:ヒューマン
●所属:パルミラ教皇国ベネベント支部、秘密結社、剣と骸骨
●身長/体重:168/67
●状態:敵意
●ベースレベル:48
●職業:レベル:18闇騎士
●HP:269
●MP:166
●腕力:624
●体力:632
●敏捷:602
●知力:578
●魔力:588
●器用度:637
●スキル
剣術3、盾術3、戦神魔法2、ブライデンの加護
●称号
ブライデン神の信徒
●装備
鉄の兜、鉄のブレストプレート、鉄の籠手、ロングソード、歯毒

「本当にオレが心配していないと思うのか? なに!? 唐突だがロックウェル、お前の所属はどこになるのだ?」

「? はい、私の所属はパルミラ教皇国、ルステラ騎士団でございます」

「慰問のメンバーの中に、パルミラ教皇国、ルステラ騎士団以外で所属している者はいるのか?」

「それでしたらパルミラ教皇国ルステラ聖歌隊ということになります。ルステラ騎士団所属の聖歌隊です。それ以外の所属するものは、この慰問のメンバーにはおりません。
今回は国家の最重要であらせられるセシル様と聖女様がいらっしゃいます。実績よりも、古くから騎士を排出している家系の出身など、特に信用できるものばかりを厳選して選んでおります」

「やはりそうだよな。オレにはあるエキストラスキルがあってな。どうやら、神聖魔法、アプレイザル/鑑定よりも詳細な情報が分かるんだが。
……なぜ、ここに秘密結社、剣と骸骨所属の者がいるんだ。ガストン、どういうことだ?」

ガストンはその言葉を聞いた瞬間、狼狽して顔がサァッと青くなる。殺意を感じる険しい形相でオレを睨んでくる。

「セシル様、何を仰っているのか分かりませんぜ」

ロックウェルやエミリア、他の騎士たちも慌てふためき顔色が変わっている。どういうことなのだろう? この驚きかたは尋常ではない。
察するに、みんなはこの秘密結社について何か知っているのだろう。
エミリアが質問をしてくる。

「セシル様、ガストンが剣と骸骨所属ということは、本当でしょうか?」

「剣と骸骨ってなんのことだ?」

ロックウェルは、しばらく沈黙していたが重い口を開く。

「剣と骸骨とは太古からこの国に存在するといわれている秘密結社のことになります。その起源は古く、1000年ほど前パルミラ教皇国が建国した時には、すでにあったと伝えられております。
代々の聖女と常に敵対してきており、武力が高いので、過去に数名の聖女はこの組織の陰謀により実際に殺害されています。
その規模、活動拠点、代表者の名前などの詳細情報は、一切分からず謎に包まれているという秘密の多い秘密結社です。
ただ1つだけ分かっていることは、骸骨に剣が刺さっている刺青が体のどこかにあるという事です」

「ガストン、お前はその組織の所属ということは、どういう事なのだ? 答えてみろ」

「だからあっしには何のことだか?」

「そういえばガストンは野盗に捕まっていた時、やたらと助けてくれと騒いでいたな。アリシア様が大変お優しいことは騎士団員なら誰でも知っている。野盗の身代わり要求に応えると思わなかったのか? 聖女様を守る事こそ騎士の役割だというのに」

騎士の1人がガストンを睨み、視線で威圧しながら発言する。
もう無理だと思ったのかガストンは、いきなりダッシュで逃走をはかった。しかし聖騎士団長ロックウェルの判断は早かった。

「ガストンを捕まえろ!」

この場で行動のイニシアティブを取れると思ったところが、オレも舐められたものだな。ガストンの敏捷度は602だが、オレの敏捷度は40万オーバーで、差が大きくて話にならない。

《スリープ/睡眠》

ガストンはダッシュした形のまま、レベル1暗黒魔法スリープ/睡眠のレジストに失敗し、前のめりになって地面をゴロゴロと転げ回った。
聖騎士が、手足をしっかりと縛ってガストンを連れて来る。

「しかし、ガストンが剣と骸骨所属というのは、そのようなことがあるのかと今でも信じられません。パルミラ教皇国を代表するルステラ騎士団に紛れ込んでいたということなど……」

ロックウェルは真実を告げられても、ルステラ騎士団に誇りを持っているため、受け入れることが出来ていなかった。

「ああ、本当だ。ガストンの胸を出してみろ。剣と骸骨の刺青があるかもしれないぞ」

聖騎士が服を脱がすと、ガストンの胸に小さな剣と骸骨の刺青がある。
それを見て周囲がざわつく。やはりガストンは黒だった。

「アリシア様は、そんな危険な連中に捕まってしまったのか。クソォ!」

ロックウェルは、悔しそうに地面を叩く。さすがはパルミラ教皇国1番の聖騎士だ。馬鹿力で地面がボコッと30センチほど沈んだ。

「オイラ、アリシアが心配だよ~。セシル! すぐに助けに行こうよ」

パックもアリシアが心配そうだ。オレもアリシアには借りがある。転移直後に、魂と肉体の融合が出来ず、全身麻痺のバッドステータスがあった。その状態のオレにアリシアは優しく介抱してくれた。別の嫌な奴だったら、警備兵を呼ばれ牢屋行きになったのは確実だろう。

「セシル様! どうか私に追撃隊の指揮を取らせてください!」

ロックウェルは、なかなかの忠誠心があるのだな。立派なのは結構だが、今はオレが1人で行った方が確実に助けられる。

「それは却下だ。オレがパックと2人でアリシアを迎えに行く」

《探査マップ/神愛×拡大》

「アリシアはここからだいぶ離れた場所にいる。短時間なのにも関わらず、遠くまでうまく逃げたものだ。目隠しと猿ぐつわに両手を縛られている。魔力と筋力低下のロープだな。まだ無事なようだ。ん? 山中にある地下砦みたいなものに入っていったな。そこがアジトのようだな」

「「「オオオオオオオオオオオオ」」」

探査マップ/神愛の能力の高さに、周囲がざわつく。そうか、この魔法はエロースの聖寵の中にあるものだから、他の者は持っていなく、ユニーク魔法というわけか。

「それではオレはアリシアを迎えに行くから、ロックウェルは早々に出発して予定のアンカスタード市に向かってくれ」

「セシル様、私もお連れください!」

クレタが懇願してきた。アリシアをさらわれた怒りに肩が震えている。この娘は本当に良い娘だな。

「いや、ここはオレ1人の方が潜入しやすいということ。アリシア救出後、フライ/飛行魔法で逃げるときも、アリシア1人の方が担ぎやすいしな。クレタは待っていなさい」

「……ですが、ですが私も恩人のアリシア様をお救いに行きたいです。セシル様の言うことでしたら、何でもしますからお願いします! う、うう……」

クレタはそう言って泣き出す。おじさん美少女の涙にめっぽう弱いんだよね。困ったな。まあ、敵に気がつかれないように逃げる事を前提じゃなく、叩き潰すことを前提なら大丈夫だろう。

「セシル! オイラからもクレタを救出作戦に参加させてあげてよ。女の子の希望を叶えてあげることも男の器量だよ!」

「パックもそう思うか。クレタの気持ちはよく分かった。お前だけ連れて行こう。エミリアは残って待っていてくれ」

「うううっ、ありがとうございます! セシル様、この恩は一生忘れません!」

「はい、承知いたしました。気をつけて行ってくださいませ。龍を倒したセシル様でしたら、全く問題にもならないでしょう」

エミリアは聞き分けが良くて本当に良い娘だな。オレ専属になってくれて良かった。ご褒美にあとでたっぷりと抱いてやろう、ぐふふふ♪

おっと、アリシアを救出に行く前に忘れていたことがあった。ずっと試してみたかったあの魔法。まさか仲間に行使するわけにもいかなかったので、ガストンで試すことにした。

「ガストンをここに連れてきなさい」

聖騎士が両手両足を縛られた状態のガストンを目の前に連れてくる。

《スリープ/睡眠、解呪》

『フォンッ』

スリープが解呪され、ガストンは目を覚ます。すぐにオレを見つけ、殺意の視線をぶつけてきた。

「おのれセシル! こ、殺してやるぞ!」

「ガストン、お前には飛びっきりの神の呪いをかけてやろう」

「「「え?」」」

聖騎士たちが神の呪いというところに反応したようだ。

《リミテーション/神との誓約》
質問にすべて嘘偽りなく吐くこと、逃げるな、攻撃するな、自決するな、命令を守れ

『ズギュン、ブスッ』

爪が毒々しい色に変わる。爪がはがれて飛び出すと、ガストンの額の真ん中に刺さり、脳内にズブズブと入っていく。

「ヒッ! ヒィイイイイイアアアア!」

ガストンが恐怖の悲鳴をあげる。口から泡を吹き出しながら失神した。このくらいでオレのアリシアをさらった罰が終わったと思うなよ。

酷く臆病そうな真っ青な顔つきで、ロックウェルが恐る恐る質問をしてきた。

「セ、セシル様、今のはどのような魔法なのでしょうか?」

「今の魔法リミテーション/神との誓約は神の呪いである。質問に答えない、嘘を言う、逃げるなど、そのような行為をすると脳内に、地が避けて熱い溶岩が流れ出したような恐ろしい激痛がガストンを襲うことだろう。死んだ方がマシだと思うほどの痛みでな。だが、ここからがこの呪いの凄いところだ!」

「そこから何が凄いの? セシル?」

「脳に杭が打ち込まれたような激痛なのにも関わらず、発狂することが出来ないのだ! ハッ、ハハハハッ、ハーッハッハッハッハッハッ!」

「「「ヒィイイイイイイイイイ!」」」

「セシル! その魔法はグロすぎるよ!」

「た、確かに……」

周囲の聖騎士がドン引きして青くなっている。ここにいる者たちはガチ宗教者で、神の呪いとか、1番恐れている人たちだろうからな。ロックウェルも顔面蒼白になってる。他の者を見ると、恐怖のレジストに失敗し、嘔吐している者もいた。よほど神の呪いが恐ろしかったのだろうな。

本当のことを言うと、リミテーション/神との誓約をはじめて唱えたオレ自身も毒々しい爪の色にかなりドン引きだった。だが神は怒らすと、災いが起きるという事をよく教えておかねばならない。ガストンを見て、舐められると不味いと感じたのだ。

この件が各方向に伝わることで、オレと対峙しようという者が減ると同時に、信徒を救って下さるという、優しさも伝わるだろう。

「それとガストンの歯に自決用の毒が仕込んであるから、取っておくようにすること。中に毒薬があるからな」

「承知いたしました。セシル様はそのような事まで分かるのですか?」

「当然だ。オレは神の化身であるぞ」

みんなのマーカーが濃い緑薄青に変わる。調べると畏怖心を抱いている、ということだ。
ただ毒歯について本当は、ガストンのステータスに書いてあっただけなのだがな。ふっ。

「それではオレはアリシアを迎えに行ってくるぞ。クレタとパックは来なさい」

《ホーリーシールド/聖なる盾》
《フライ/飛行魔法》

クレタを再びお姫様抱っこすると、一気に飛び上がり上昇する。



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