聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん

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お兄ちゃんは大変

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 時は少しさかのぼり─────。
 
 それはフェンリル兄弟の信頼を勝ち取った料理長に、リオが理不尽な憎悪を高ぶらせていたころ頃。
 当の兄弟達は人から離れたバルコニーで、料理長からもらった干し肉をつまみながら、まったりしていた。

「なあ、弟よ」

「なぁ~に?にいたま~」

 料理長手製の干し肉に夢中になりながらも、返事はちゃんと返ってくる。

「お前、どうして人間について来たんだ?」

 もう少し成長してからでもよかったのではないか。という心配症の兄に、のんびり屋の弟は、おやつに目を奪われながらも、小首をかしげている。
 
 魔獣が生まれた所から離れるのに、何時というはっきりとした時期は存在しない。

 魔獣は身体がある程度成長し、ある時期なると、ふとどこかへと行く。
 反対に生まれた所で、そのまま一生を過ごす者もいれば、偶然出会った群れに入っていってしまうものもいる。
 
  ─────そして、人に付き従う者もいる。

 大体の魔獣はそうなのだが、魔獣の中でも上位格であるフェンリルという名の生き物。 ─────彼らは決して、人には従わない。 というのが、フェンリルという名の魔獣の特徴と思われているが‥‥‥‥。

 白陽さん一家含め、フェンリルさん家の事情はいろいろと違う。

「ん~?えっとね~。ねぇねは、かあたまとずっと一緒でちょ?」

「ん?」

 弟の言う『ねぇね』は三つ子の内のひとりだ。
  そして『ずっと一緒』とは?

「んで。にぃには、オバちゃんのところにいくでちょ?」

「は?伯母?」

 え、ちょっとこの子何言い出すの?と心配になる。
 このポヤポヤとした末っ子は、妙なところで感が働く。

  確かに、二つ山脈を超えた向こうにいる伯母は、たまにふらりと森にやってくる。
 そして三つ子と会った伯母は、三つ子を見比べるや「この子はうちの子の婿ね!」と勝手に宣言し、母上と大喧嘩をしていたのはつい最近だ。
 ちなみに白陽には、「あんた、母親似なのよね~」とちょっとよく分らない評価を下されている。

「だからぼくは、にいたまみたいに、お外にいこうかな~って」

 にっこ~とご機嫌な末っ子に、外で生きていく厳しさも知らなければならないが、ついお兄ちゃんは甘くなってしまう。

「ちょれに、もうすぐ『あの人』きそうな気がちゅるから~。また、かぁたまのプリプリしゅるのに、まきこまれちゃうのもねぇ~」

 カタ─────ン‥‥‥‥

 白陽の口元から干し肉がこぼれ落ちる。
  しばし呆然とした後、猛然と末っ子を質問攻めにした。

「あ、ああ『アノ人』ってあの人か?」

 「うん!」と明るい返事と反対に、白陽は一気に顔色が悪くなった。

 思い出すのは数年前─────。まだ小さい白陽の前に、ふらりと『アノ人』が現れた。
 驚く白陽の背後から威嚇と共に母親が飛び出し、そこから取っ組み合いの大喧嘩の始まったのだ。
  二匹のケンカは激しく、煽りを喰らった白陽は、その後の記憶が無い─────。

 気が付いた時には『アノ人』の姿はなく、残ったのは荒れた森と機嫌のよろしくない母親のみ‥‥‥‥。

 ─────そしてしばらく後に『三つ子』の誕生。

 その時小っちゃい白陽は思ったのだ。─────大人ってわからない 

 三つ子の誕生した後にも二、三回『アノ人』は現れたが、毎回の大喧嘩。
 煽りを喰らわないように『三つ子』を避難させるのは、お兄ちゃんの役目だった。
 
「アンタも難儀だねぇ」

 見かねた伯母は後に、子供達用に頑丈な『避難場所』用意してくれた。

「だいじょうぶだよ!にいたま!」

 にっこにこで報告をする末っ子をみやり、白陽はため息をついて丸まったのであった。

~~~  ~~~  ~~~ ~~~ ~~~  
 

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