トラック使って逆転移！ 人を撥ねそうになった俺は異世界でドラゴンを撥ねる

第6話 異世界だろうと変型ロボが嫌いな男の子はいない

「サツキ、目的地もくてきちまであとどれぐらいだ？」
「えーと、このペースで行くなら、もう一時間もしないうちに見えると思います」
「そうか。あーっ！　長かったーっ！」

　あの戦闘せんとうから五日後――大和たち一行はようやく目的であるグラバー領へと到着した。
　山を抜ぬけ、谷を抜け、森を抜け、広がる田園風景でんえんふうけいの先にその場所はあった。

「おー、でかい城壁じょうへきの中に街がすっぽり収おさまっているな。すごくファンタジー世界らしさを感じる」
「ヤマトさんの故郷こきょうは違ちがうんですか？」

「ああ、俺たちの国の街は壁かべがないんだ。外敵がいてきはいないわけじゃないけど、そういった奴らは人里から離はなれたところに住んでいるし、基本的に棲すみ分けが出来できている」

「城壁がない街……か。想像がつかないな」
「まあ大昔の時代はあったんだけどな。それでも大規模だいきぼにすっぽりと街を覆おおう城壁を作ったのは北条ほうじょう氏くらいかな？　あの街明らかにそれの何倍もでかいけど」

　東京23区の一つが、丸ごとすっぽり壁の中に収まっているところを想像してもらいたい。

「普通に人間の手だけでやったらどれだけの時間と費用ひようがかかるやら……魔法ってすごいな」

「私たちからしてみればヤマトさんたちの科学技術（？）でしたっけ？　そっちの方がはるかにすごく思えますけど」

「ああ、サツキの言う通りだ。魔法も使わず、こんな金属きんぞくの塊かたまりが馬より早く動くとか、どうやっているのかまるで理解ができん」

「ですね！　それに変形して空を飛んだり、ワイバーン達を一瞬いっしゅんで黒焦こげにしたり、ノアさんみたいな生命体を作り上げたり！」

　そのあたりは科学じゃなくて完全に魔法の分野ぶんやなのだが。

「内乱ないらんが落ち着き平和になったら、ぜひともその技術を教えて欲ほしいものだ」

　期待きたいを込こめた目でアレクとサツキが見てくる。
　そのせいで大和は「あ、自分一般人なんでそのような専門知識せんもんちしきはちょっと……」と言えなかった。

　乙女おとめの夢を壊こわしたくない。
　まあ、最悪ノアに聞けばなんとかなるだろう。

　曖昧あいまいに笑ってその場を流すと、部屋の天井てんじょうのスピーカーから落ち着いた感じのノアの声が

　――サツキさん、目的地まで残り30キロです。
　――そろそろお兄様に何らかのコンタクトをとった方がよろしいのではないでしょうか？
　――私は怪あやしすぎます。

「「「確かに！」」」

　ここは異世界、日本と違ってトラックなど通っていない。
　乗り物といえば基本は馬車。

　そんな中にこんな異物いぶつが紛まぎれ込んだら警戒心けいかいしんが半端はんぱないだろう。
　最悪、問答無用もんどうむようで攻撃される可能性もある。

「伝令でんれいの魔法を使います。鏡かがみ、借りますね」

　サツキはコンテナハウスを出て運転席へ移動すると、バックミラーを使って魔法を展開てんかいした。

「お兄様に連絡れんらくが取れました。領地りょうちを囲かこむ外門に着ついたら門番の指示しじに従したがってほしいとのことです」
「了解」

　とりあえず目下もっかの懸念事項けねんじこうは解消かいしょうした。
　大和は運転席に座すわりオートパイロットを切った。

　自身でハンドルを握にぎり、鼻歌交まじりに異世界の道を楽しむ。

「異世界の街か……どんなところかな？」

　……
　…………
　………………

「無事ぶじだったか！　よく帰ってきてくれたサツキ！」

　門番の案内の元、城へと続く大通りを住民の注目を浴あびつつ走ること30分。
　大和たち一行は街の中心部にある城門に到着とうちゃくした。

　城を守る堀ほりにかけられた石橋を渡わたり終え、門が開けられた直後に御領主ごりょうしゅ登場。
　まさか馬に乗って飛び出してくると思わず、大和の反応が一瞬遅おくれた。

　ノア自身がセーフティーブレーキをかけなければ、異世界初の交通事故になっていたに違いない。

「お兄様！　急に飛び出したら危あぶないですよ！」
「はっはっは！　すまんすまん。半年ぶりに可愛かわいい妹に会えると思ってつい（笑）。思わず身体からだが動いてしまった。許ゆるしてくれ」

　助手席から文句もんくを言う妹に対して朗ほがらかに笑う兄。
　どうやらグラバー家の兄妹関係は良好りょうこうのようだ。

　三人はトラックから降おりて整列せいれつする。

「してサツキ、王都おうとで何があった？　それにこの怪しさ極きわまりないものは一体……？」

「順じゅんを追って話します。皇帝陛下が没ぼっした直後、弟君であるバルボッサ公爵こうしゃくが挙兵きょへいしました」

「何！？」

「奇襲きしゅうを受けた王都は現在混乱こんらんの真まっ最中さいちゅうです。公爵の狙ねらいは次期王位継承者けいしょうしゃであるアレク様の命であることは明白めいはく……人々が逃げ惑まどうう中、私はアレク様を連つれ王都を脱出だっしゅつしました。しかし、その道中追手おってに追おい詰つめられてしまい、我が家に伝わる召喚術しょうかんじゅつを――」

「なるほど。異世界の英雄えいゆうを喚び出す神の魔法を……では、この奇妙きみょうなものは？」
「お兄様のお察さっしの通りです。異世界から来た英雄ヤマトさんと、その相棒パートナーのノアさんです」

「えーと、どうも。ご紹介しょうかいに預あずかかりましたヤマト＝ヒノです。 英雄なんて大したものではありませんけど」

「いや、そなたは立派りっぱな英雄だ。我が妹のピンチを救ってくれただけでなく、国家の命運も守ってくれたのだからな」

　否定ひていする大和の手をグラバー辺境伯へんきょうはく、ムサシ＝グラバーは力強く握にぎった。

「アレク様、事情じじょうはわかりました。グラバー家は王家の刀――我が誇ほこりと忠節ちゅうせつにかけて全力であなた様をお守りします」
「ありがとうグラバー伯爵。貴殿きでんの忠義ちゅうぎに感謝かんしゃを」

「すぐに部屋を用意させていただきます。滞在たいざい中は一部地域ちいきを除のぞき、自由に行動してくれて構かまいません……してサツキ」
「はい？」

「先ほどヤマト殿を紹介した時、もう一名の名前を聞いたと思うのだが。ノア殿だったか？　その御仁ごじんはどこに？」

　――ここです。

「うぉっ！？　な、何だ！？　どこから声が……？」

　――あなたの目の前にある『奇妙なもの』からです。グラバー伯爵。

「なっ……！？　ゴ、ゴーレムがしゃべっただと！？」

　――ふむ、ゴーレムですか。厳密げんみつに言うと違いますが似にたようなものですね。
　――私のことは異世界製せいのゴーレムと認識にんしきしてください。グラバー伯爵。

「わ、わかった……よろしくノア殿。しかし、貴殿はいったいどこから声を？　いや、そもそもどうやって声を発して……」

　――スピーカーより発した音を、風の精霊せいれいに頼たのみ運んでもらっています。
　――それよりグラバー伯爵、私はこの通り『大きい』のですが、滞在中はどこを使えばよろしいでしょうか？

「そうだな、馬舎うまや――では馬たちが驚おどろいてしまうか。申もうし訳わけないが裏庭の空あいているスペースを使っていただきたい」

　――問題ありません。異世界からの奇妙な来訪者らいほうしゃである私たちに充分じゅうぶんな恩情おんじょう、感謝します。
　――周囲しゅういの精霊とコンタクト……裏庭の場所を確認。移動します。

　ノアはオートパイロットに切り替えると、三人を置いたまま裏庭に移動した。
　人型に変型し空を飛んで。

　ノアがその場を立ち去った後、周囲にいた男性兵士たち及およびグラバー伯爵の目がやたらとキラキラしていた。

「サ、サツキよ、長旅で腹が減っていないだろうか？　今すぐ食事を用意するから、是非ぜひともこれまでの旅路たびじを聞かせてほしい。追手云々うんぬんと言っていたがどうやって切り抜けたんだ！？　教えてくれ！　でないとワクワクして夜も眠れん！」

　変形ロボが嫌きらいな男の子はいない。
　ノアが空気を読んでくれたおかげで、大和とノアは一瞬でグラバー領に受け入れてもらえた。



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　変形ロボはいいくつになっても好きなものです。
　ロマンの塊が嫌いな奴はこの世に存在しない。