9 / 70
第1章 冒険者編
第9話 ランクアップ
しおりを挟む
「うーん♪ いい朝だ。雲ひとつない青空といい、世界が俺に微笑んでいるような気がしないでもないぜ」
そんな気分になるのも、ひとえに昨日のことが原因だな。
帰る方法がある――その事実はこの世界に放り出された俺の心を幾分か軽くしてくれていた。
懐具合もいい感じだし、テンションも上がるというもの。
「とりあえず、ギルドに行く前に銀行に寄らないと」
ギルマス曰く、オークベアの討伐報酬はかなりのものらしく、銀行に直接振り込むとのこと。
俺はこの世界の身分証はないが、それに代わるものを持っているため、銀行口座を問題なく作ることができる。
「すいませーん、口座作りたいんですけど」
申込用紙を書き、ギルドカードを提出してあっさり終了。
口座から金を引き出したい時は、ギルドカードで本人確認をするとのこと。
失くさないようにしっかり管理しないとな。
「さて、やることやったし行くとするか」
……
…………
………………
「お、来たな。未来の英雄が(笑)」
「オークベアを一人で倒したってマジかよあいつ……?」
「普通は逃げるだろ……戦闘民族かよ?」
「この前も例の二人組をボコってたし、関わらないほうがいいかも……」
……なんか注目を集めてる。
好意的なものもあるが、どちらかと言えば恐怖――例えるなら狂暴なヤンキーをチラ見する一般人のような視線だ。
「おはようございます、マールさん」
「あ、カイトさん。おはようございます」
「何ですか、あれ?」
「昨日のことを知ったんですよ。皆さんカイトさんに興味津々なんです」
「そうですか、まいったなあ……」
「何故です? 強さが話題になれば上級パーティからも声がかかると思いますけど?」
「いや、俺別に冒険者として有名になりたいわけじゃないんで」
目立ちたくないわけじゃない。
しかし、俺はあくまで料理人であって冒険者ではないのだ。
どうせ目立つなら料理人として目立ちたい。
「身分証明のために冒険者になったけど、俺の本質はあくまで料理人なんです。冒険者として有名になっちゃったら拒否不可能レベルの危険な仕事とかも誘われるでしょうし、それだとちょっと困るっていうか……」
「あー、なるほどぉ。たしかにそれは困るかも」
「でしょう?」
まあメリットがないわけではないけど、料理をする時間を削ってまでかというとちょっと微妙なラインだ。
「まあ、美味そうな魔物討伐とかなら大歓迎ですけどね」
「あはは、もしそんな話が入ってきたら真っ先にお知らせしますよ」
「いいんですか?」
「ええ、昨日みたいに私にもおすそ分けしていただけるなら」
「ははっ、ギルドの受付がワイロの要求ですか?」
「だって……今まで味わったことないくらい美味しかったですから」
そういえば彼女――マールさんは、一人でステーキを七枚ほど食べていたな。
食いすぎて腹が名前通り丸くなっていたっけ。
「ねえ、お願いしますよぉ……アレが忘れられないんですよぉ……お願いします、何でもしますから。エッチな奉仕でも何でも構いませんからぁ……」
――おい、今の聞いたか?
――あの真面目な受付さんがエッチな奉仕だと?
――マールさん、完全にメスの顔になってるぞ。
――あいつ、一体彼女に何をしたんだ? アレって何だ?
――きっとものすごいテクニシャンなんだろう。クソッ! 俺だって負けてられるか! 今夜は色街でブイブイ言わせてやるぜ!
なんか盛大に勘違いされている気がする。
俺、まだ童貞なんだけどな……。
最後の言った人、できれば行く時誘ってください。
「そんな約束しなくても、いいのが入ったらおすそ分けしますよ。魔物料理はこの国ではまだまだゲテモノみたいですしね。感想はあればあるほどいい。帰るのとは別にして、いつか店を持ちたいですから」
「その時はぜひ行かせてもらいますね。毎日でも通いますよ!」
「期待しています。それはそれとしてギルマスは?」
「奥で待っています。あのドアを開けて二階に行ってください。それっぽいドアがあるのですぐにわかります」
会話を終え、言われた通りに二階へ行くと――なるほど。
確かにそれっぽい感じのドアがあった。
こっちの世界のマナーがわからないので、とりあえずノックをしてから入室した。
「よう、待ってたぜ」
ギルマスはニカッと笑いながら、俺の来訪を歓迎してくれた。
「銀行口座は作ってきたか?」
「ええ、言われた通り」
「よし、それじゃあ早速振り込んでおく。今回のお前の報酬だが、まずクエストのゴブリン討伐の報酬な。こいつは通常の金額なので手渡しだ。確認してくれ」
ジャラッとした音が鳴る袋を渡された。
中を確認すると銀貨が10枚――銀貨一枚千円程度の価値だから一万円か。
命がけの仕事なのに報酬が安い。
この世界はゲームなんかのファンタジー世界のご多分に漏れず、命の価値が安いのだろう。
「続いてオークベアの報酬だが、まずは討伐報酬――金貨20枚」
「20枚!?」
金貨一枚で十万円くらいだから――二百万円!?
あの熊公そんなに高かったのか!?」
「それに加えて目玉や爪、骨など、武器や防具、道具なんかの素材になるものを諸々買い取らせてもらって、金貨八十枚だ」
「80枚!?」
日本円で八百万円!?
「合わせて金貨百枚ほど。こいつをお前さんの口座に振りこませてもらう……で、ここからは個人的な相談なんだけどよ」
「え? あ、はい、何でしょう?」
あまりの金額に意識が飛んでしまった。
相談とはいったい何だろう?
「昨日の肉、まだあるよな?」
「あ、はい。ありますけど? 五十キロくらい」
「半分でいいから譲ってくれねえか? あの味が忘れられないんだよ」
あんたもかい。
昨日「食うなんて言ってねえぞ」とか言ってたのはどこの誰だよ?
「味もだけど体調がすこぶるいいんだよ。現役時代に戻ったみてえな力に溢れてるっていうかよ」
「まだ断定はできないですけど、たぶん魔物料理の効果でしょうね。スライム食わせたら魔力が回復した事例もありますし」
「スライムも食えるのか!? 今度俺にも食わせてくれ! 頼む! この通りだ!」
「……とりあえず頭を上げてください。土下座なんてしなくても食べさせますから」
食えるとわかった瞬間、ギルマスの顔が笑顔になった。
おっさんが子どもみたいなリアクションするなあ。
「とりあえず話を戻しますね。肉はちょっと……個人的に試したい料理もありますし」
カレーの味をもっと追求してみたい。
ハムやソーセージに加工したり、ハンバーグなんかを作るのもアリだよなあ。
「そこを何とか! 金ならいくらでも出すから!」
「いや、金はたった今大量に入りましたし……」
「なら交換はどうだ!? 俺の冒険者時代の装備、何でも好きなものと交換でいい!」
「いや、俺冒険者になったのってあくまでも身分証明のためなんで武器や防具にそれほど興味は……」
「なら道具はどうだ!? お前の興味を引くものは絶対にある!」
例えばこれ――とギルマスが出したものは小さな袋だった。
「これは《無限袋》って言ってな、文字通り中にいくらでも物が入る超レアアイテムだ。冒険者向けの店にあるやつは重量や種類に限界があるけどこれにはそれがねえ。重量も種類も関係なく無限にアイテムを持ち運べる優れ物だ」
ほう? 確かにそれは興味を引くなあ。
物の持ち運びから解放されるのは素晴らしい。
「確かに興味を引きますね。ちょっと欲しくなってきました」
「だろう? オークベアの肉半分、これなら交換してくれるか?」
「確認なんですけど、これ中の物って保存状態はどんななんですか?」
「入れた時と同じ状態が永遠に保存される。ついでに言うと生物は入らねえ」
「万が一盗まれた場合は?」
「持ち主にしか使えねえから盗む奴はいねえよ。何重もの防御魔法を突破しない限り、本人以外に中身を取り出すのは無理だ。そんなメンドくせえことする犯罪者がいるとは思えねえ」
「なるほど……」
なら、良い買い物かもしれない。
この先いい食材に巡り合えた時に、保存状態を考慮して泣く泣く手放すようなことにならずに済む。
「わかりました。じゃあそれで」
「おっしゃーっ! また今夜もあの肉が食えるぞ!」
ガッツポーズ後、ギルマスは袋の所有権を俺に渡した。
「お、そうだ。あとお前のランクだけど、今回のことでBに上げさせてもらった」
「あ、Aじゃないんですね」
「強さだけならAでもいいんだけどな、お前さん来たばっかで字が読めねえだろ?」
「はい」
教会に教わりに行こうと思っているが、まだ行っていない。
「それだと個人依頼の際に契約書とか書く時困るんじゃないかと思ってな。お前も相手も」
細かい契約になったらなおさらだ。
契約後に揉めるのは俺としても嫌だ。
「生活習慣や文化、マナーなんかにも疎いと思って、今回はBランクとしておいた」
「わかりました。ありがとうございます」
「ちなみにミーナはDランクだ」
まあ、妥当と言えば妥当かな。
直接戦ったのは俺だけだし。
「Bランクになれば一般市民と同等以上の権限がどこの街でも与えられるぞ。気に入った場所に家だって買うことができる」
「家買えるんですか!?」
「おうよ」
家を買える――ってことは店舗を構えることができるじゃないか!
夢だった俺の店――それが早くも現実のものに!
「金貨百枚あればかなり上等な家を土地ごと買うことだってできる。検討してみてもいいんじゃねえか?」
「その家ですけど、店とかにするのは?」
「許可さえ取れれば問題なくできるぞ。何だ、お前店構えたかったのか?」
開店したら教えてくれ。毎日でも食いに行く――とギルマスも約束してくれた。
マールさんに続き、常連客二人目ゲットだな。
「それじゃあ俺の方で申請書は作ってやろう。店を開くときは言ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
この後、俺はこの街の一等地にそこそこの大きさの家を買った。
魔物料理――ゲテモノと忌避されているこの食材で、果たしてどのくらいの客が来てくれるのだろう?
不安もあるが、楽しみでもある。
俺の料理がこの世界で通用するか否か?
勝つのは俺の味か?
それとも世界の常識か?
「さあ、勝負だ異世界……!」
ここから始まる俺の料理で、この世界の常識をひっくり返してやるぜ。
-----------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
投稿開始した時点でここまで書いていました。
短編だったらここで終わりっぽい流れですけど、ここからがスタートです。
次回もよろしくお願いします。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
そんな気分になるのも、ひとえに昨日のことが原因だな。
帰る方法がある――その事実はこの世界に放り出された俺の心を幾分か軽くしてくれていた。
懐具合もいい感じだし、テンションも上がるというもの。
「とりあえず、ギルドに行く前に銀行に寄らないと」
ギルマス曰く、オークベアの討伐報酬はかなりのものらしく、銀行に直接振り込むとのこと。
俺はこの世界の身分証はないが、それに代わるものを持っているため、銀行口座を問題なく作ることができる。
「すいませーん、口座作りたいんですけど」
申込用紙を書き、ギルドカードを提出してあっさり終了。
口座から金を引き出したい時は、ギルドカードで本人確認をするとのこと。
失くさないようにしっかり管理しないとな。
「さて、やることやったし行くとするか」
……
…………
………………
「お、来たな。未来の英雄が(笑)」
「オークベアを一人で倒したってマジかよあいつ……?」
「普通は逃げるだろ……戦闘民族かよ?」
「この前も例の二人組をボコってたし、関わらないほうがいいかも……」
……なんか注目を集めてる。
好意的なものもあるが、どちらかと言えば恐怖――例えるなら狂暴なヤンキーをチラ見する一般人のような視線だ。
「おはようございます、マールさん」
「あ、カイトさん。おはようございます」
「何ですか、あれ?」
「昨日のことを知ったんですよ。皆さんカイトさんに興味津々なんです」
「そうですか、まいったなあ……」
「何故です? 強さが話題になれば上級パーティからも声がかかると思いますけど?」
「いや、俺別に冒険者として有名になりたいわけじゃないんで」
目立ちたくないわけじゃない。
しかし、俺はあくまで料理人であって冒険者ではないのだ。
どうせ目立つなら料理人として目立ちたい。
「身分証明のために冒険者になったけど、俺の本質はあくまで料理人なんです。冒険者として有名になっちゃったら拒否不可能レベルの危険な仕事とかも誘われるでしょうし、それだとちょっと困るっていうか……」
「あー、なるほどぉ。たしかにそれは困るかも」
「でしょう?」
まあメリットがないわけではないけど、料理をする時間を削ってまでかというとちょっと微妙なラインだ。
「まあ、美味そうな魔物討伐とかなら大歓迎ですけどね」
「あはは、もしそんな話が入ってきたら真っ先にお知らせしますよ」
「いいんですか?」
「ええ、昨日みたいに私にもおすそ分けしていただけるなら」
「ははっ、ギルドの受付がワイロの要求ですか?」
「だって……今まで味わったことないくらい美味しかったですから」
そういえば彼女――マールさんは、一人でステーキを七枚ほど食べていたな。
食いすぎて腹が名前通り丸くなっていたっけ。
「ねえ、お願いしますよぉ……アレが忘れられないんですよぉ……お願いします、何でもしますから。エッチな奉仕でも何でも構いませんからぁ……」
――おい、今の聞いたか?
――あの真面目な受付さんがエッチな奉仕だと?
――マールさん、完全にメスの顔になってるぞ。
――あいつ、一体彼女に何をしたんだ? アレって何だ?
――きっとものすごいテクニシャンなんだろう。クソッ! 俺だって負けてられるか! 今夜は色街でブイブイ言わせてやるぜ!
なんか盛大に勘違いされている気がする。
俺、まだ童貞なんだけどな……。
最後の言った人、できれば行く時誘ってください。
「そんな約束しなくても、いいのが入ったらおすそ分けしますよ。魔物料理はこの国ではまだまだゲテモノみたいですしね。感想はあればあるほどいい。帰るのとは別にして、いつか店を持ちたいですから」
「その時はぜひ行かせてもらいますね。毎日でも通いますよ!」
「期待しています。それはそれとしてギルマスは?」
「奥で待っています。あのドアを開けて二階に行ってください。それっぽいドアがあるのですぐにわかります」
会話を終え、言われた通りに二階へ行くと――なるほど。
確かにそれっぽい感じのドアがあった。
こっちの世界のマナーがわからないので、とりあえずノックをしてから入室した。
「よう、待ってたぜ」
ギルマスはニカッと笑いながら、俺の来訪を歓迎してくれた。
「銀行口座は作ってきたか?」
「ええ、言われた通り」
「よし、それじゃあ早速振り込んでおく。今回のお前の報酬だが、まずクエストのゴブリン討伐の報酬な。こいつは通常の金額なので手渡しだ。確認してくれ」
ジャラッとした音が鳴る袋を渡された。
中を確認すると銀貨が10枚――銀貨一枚千円程度の価値だから一万円か。
命がけの仕事なのに報酬が安い。
この世界はゲームなんかのファンタジー世界のご多分に漏れず、命の価値が安いのだろう。
「続いてオークベアの報酬だが、まずは討伐報酬――金貨20枚」
「20枚!?」
金貨一枚で十万円くらいだから――二百万円!?
あの熊公そんなに高かったのか!?」
「それに加えて目玉や爪、骨など、武器や防具、道具なんかの素材になるものを諸々買い取らせてもらって、金貨八十枚だ」
「80枚!?」
日本円で八百万円!?
「合わせて金貨百枚ほど。こいつをお前さんの口座に振りこませてもらう……で、ここからは個人的な相談なんだけどよ」
「え? あ、はい、何でしょう?」
あまりの金額に意識が飛んでしまった。
相談とはいったい何だろう?
「昨日の肉、まだあるよな?」
「あ、はい。ありますけど? 五十キロくらい」
「半分でいいから譲ってくれねえか? あの味が忘れられないんだよ」
あんたもかい。
昨日「食うなんて言ってねえぞ」とか言ってたのはどこの誰だよ?
「味もだけど体調がすこぶるいいんだよ。現役時代に戻ったみてえな力に溢れてるっていうかよ」
「まだ断定はできないですけど、たぶん魔物料理の効果でしょうね。スライム食わせたら魔力が回復した事例もありますし」
「スライムも食えるのか!? 今度俺にも食わせてくれ! 頼む! この通りだ!」
「……とりあえず頭を上げてください。土下座なんてしなくても食べさせますから」
食えるとわかった瞬間、ギルマスの顔が笑顔になった。
おっさんが子どもみたいなリアクションするなあ。
「とりあえず話を戻しますね。肉はちょっと……個人的に試したい料理もありますし」
カレーの味をもっと追求してみたい。
ハムやソーセージに加工したり、ハンバーグなんかを作るのもアリだよなあ。
「そこを何とか! 金ならいくらでも出すから!」
「いや、金はたった今大量に入りましたし……」
「なら交換はどうだ!? 俺の冒険者時代の装備、何でも好きなものと交換でいい!」
「いや、俺冒険者になったのってあくまでも身分証明のためなんで武器や防具にそれほど興味は……」
「なら道具はどうだ!? お前の興味を引くものは絶対にある!」
例えばこれ――とギルマスが出したものは小さな袋だった。
「これは《無限袋》って言ってな、文字通り中にいくらでも物が入る超レアアイテムだ。冒険者向けの店にあるやつは重量や種類に限界があるけどこれにはそれがねえ。重量も種類も関係なく無限にアイテムを持ち運べる優れ物だ」
ほう? 確かにそれは興味を引くなあ。
物の持ち運びから解放されるのは素晴らしい。
「確かに興味を引きますね。ちょっと欲しくなってきました」
「だろう? オークベアの肉半分、これなら交換してくれるか?」
「確認なんですけど、これ中の物って保存状態はどんななんですか?」
「入れた時と同じ状態が永遠に保存される。ついでに言うと生物は入らねえ」
「万が一盗まれた場合は?」
「持ち主にしか使えねえから盗む奴はいねえよ。何重もの防御魔法を突破しない限り、本人以外に中身を取り出すのは無理だ。そんなメンドくせえことする犯罪者がいるとは思えねえ」
「なるほど……」
なら、良い買い物かもしれない。
この先いい食材に巡り合えた時に、保存状態を考慮して泣く泣く手放すようなことにならずに済む。
「わかりました。じゃあそれで」
「おっしゃーっ! また今夜もあの肉が食えるぞ!」
ガッツポーズ後、ギルマスは袋の所有権を俺に渡した。
「お、そうだ。あとお前のランクだけど、今回のことでBに上げさせてもらった」
「あ、Aじゃないんですね」
「強さだけならAでもいいんだけどな、お前さん来たばっかで字が読めねえだろ?」
「はい」
教会に教わりに行こうと思っているが、まだ行っていない。
「それだと個人依頼の際に契約書とか書く時困るんじゃないかと思ってな。お前も相手も」
細かい契約になったらなおさらだ。
契約後に揉めるのは俺としても嫌だ。
「生活習慣や文化、マナーなんかにも疎いと思って、今回はBランクとしておいた」
「わかりました。ありがとうございます」
「ちなみにミーナはDランクだ」
まあ、妥当と言えば妥当かな。
直接戦ったのは俺だけだし。
「Bランクになれば一般市民と同等以上の権限がどこの街でも与えられるぞ。気に入った場所に家だって買うことができる」
「家買えるんですか!?」
「おうよ」
家を買える――ってことは店舗を構えることができるじゃないか!
夢だった俺の店――それが早くも現実のものに!
「金貨百枚あればかなり上等な家を土地ごと買うことだってできる。検討してみてもいいんじゃねえか?」
「その家ですけど、店とかにするのは?」
「許可さえ取れれば問題なくできるぞ。何だ、お前店構えたかったのか?」
開店したら教えてくれ。毎日でも食いに行く――とギルマスも約束してくれた。
マールさんに続き、常連客二人目ゲットだな。
「それじゃあ俺の方で申請書は作ってやろう。店を開くときは言ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
この後、俺はこの街の一等地にそこそこの大きさの家を買った。
魔物料理――ゲテモノと忌避されているこの食材で、果たしてどのくらいの客が来てくれるのだろう?
不安もあるが、楽しみでもある。
俺の料理がこの世界で通用するか否か?
勝つのは俺の味か?
それとも世界の常識か?
「さあ、勝負だ異世界……!」
ここから始まる俺の料理で、この世界の常識をひっくり返してやるぜ。
-----------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
投稿開始した時点でここまで書いていました。
短編だったらここで終わりっぽい流れですけど、ここからがスタートです。
次回もよろしくお願いします。
《旧Twitter》
https://twitter.com/USouhei
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫に「好きな人が出来たので離縁してくれ」と言われました。
cyaru
恋愛
1年の交際期間を経て、結婚してもうすぐ5年目。
貧乏暇なしと共働きのタチアナとランスロット。
ランスロットの母親が怪我をしてしまい、タチアナはランスロットの姉妹と共に義母の介護も手伝い、金銭的な支援もしながら公爵家で侍女の仕事と、市場で簡単にできる内職も引き受け倹しく生活をしていた。
姑である義母の辛辣な言葉や小姑の義姉、義妹と全て丸投げの介助にたまの休日に体を休める事も出来ない日々。
そんなある日。仕事は休みだったが朝からランスロットの実家に行き、義母の介助を終えて家に帰るとランスロットが仕事から帰宅をしていた。
急いで食事の支度をするタチアナにランスロットが告げた。
「離縁をして欲しい」
突然の事に驚くタチアナだったが、ランスロットは構わず「好きな人が出来た。もう君なんか愛せない」と熱く語る。
目の前で「彼女」への胸の内を切々と語るランスロットを見て「なんでこの人と結婚したんだろう」とタチアナの熱はランスロットに反比例して冷え込んでいく。
「判りました。離縁しましょう」タチアナはもうランスロットの心の中に自分はいないのだと離縁を受け入れたのだが・・・・。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。アナタのリアルな世界の常識と混同されないよう【くれぐれも!】お願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想を交えているノンフィクションを感じるフィクションで、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今さら戻ってこいと言われても、私なら幸せに暮らしてますのでお構いなく
日々埋没。
恋愛
伯爵家の令嬢であるエリシュは周囲の人間から愛されて育ってきた。
そんな幸せなエリシュの人生が一変したのは、森で倒れていたとある少女を伯爵家の養子として迎え入れたことが発端だった。
そこからエリシュの地獄の日々が始まる。
人形のように愛くるしい義妹によって家族や使用人たちがエリシュの手から離れていった。
更には見にくい嫉妬心から義妹に嫌がらせしているという根も葉もない噂を流され、孤立無援となったエリシュに残された最後の希望は婚約者との結婚だけだった。
だがその希望すら嘲笑うかのように義妹の手によってあっさりとエリシュは婚約者まで奪われて婚約破棄をされ、激怒した父親からも勘当されてしまう。
平民落ちとなったエリシュは新たな人生を歩み始める。
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
かしましくかがやいて
優蘭みこ
恋愛
紗久良と凜はいつも一緒の幼馴染。夏休み直前のある日、凜は授業中に突然倒れ救急車で病院に運び込まれた。そして検査の結果、彼は男の子ではなく実は女の子だったことが判明し、更に男の子のままでいると命に係わる事が分かる。そして彼は運命の選択をする……
婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?
江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】
ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる!
※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。
カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過!
※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪
※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる