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73、贅沢な事
しおりを挟む俺のお願いを聞いた皆さんは様々な表情を浮かべていました。
喜んでいる様子や、何やら考え込んでいたり難しい表情を浮かべている人もいます。
実は、このお願いは自分の気持ちを確認する事だけが目的ではありません。
皆さんへ答えを出すため。つまりお断りする事も含まれています。
そして1週間ずつ、と言ったのは1日やそこらではっきり判断出来る程簡単に答えが出ないと思ったからです。
とても我が儘で、身勝手な事を頼んでいる自覚はあります。勿論、断ってくれたっていいのです。
俺は全て話すと皆さんへ向けて頭を下げました。
しばらくの間、沈黙が場を支配していました。身動ぎする音さえ聞こえず、頭を下げたままの俺は今皆さんがどんな表情を浮かべているのか全く分かりません。
そんな沈黙を破ったのは誰かの溜息でした。
「俺はパス。んな早急に結論付ける事でもねぇだろ」
そう言って近付き、俺の下げたままだった頭を上げさせたのは雅先輩でした。そのままくしゃくしゃと髪を乱して撫で回され、ふと笑みを浮かべています。
見ると、全員が同じように笑みを浮かべていて、俺のお願いは却下されるだろう事が分かりました。
「バレバレだろうから言うけど俺達みんな実の事が好きだよ。けど、今すぐ答えを出して欲しいって思ってないんだよな」
窓際にいた和馬くんも俺の近くまで歩み寄ってくれて手を握ってくれました。
「たった1週間一緒に過ごしただけで出した答えに俺達が納得すると思うかい?」
壁に寄り掛かっていた真一先輩が俺以外の皆さんを指差して可笑しそうに笑っています。
「俺達の事いっぱい考えて、じっくりゆっくり答え出してよ。その間に俺達はミノルくんに沢山アピールするからねっ」
翔先輩がもう片方の手を握りながら言い、俺の頬にちゅっとキスをしてきました。
「きちんと向き合おうとする姿勢は田中くんらしいですが、根を詰めすぎるものではありません。視野が狭くなってしまいますよ?」
俺の頬にキスをした翔先輩のおでこにデコピンを繰り出すと、理人先生は雅先輩も和馬くんも翔先輩も追い返して俺を抱き締めてきます。
途端に全員から非難の声が上がりますが、「欲望に負けてキスするお前達が悪い」と言い放ち非難の声を黙らせてしまいました。
「あの、ですが…そうすると、皆さんをとてもお待たせする事になるかもしれないですし、皆さんが嫌な思いをするかもしれないです…」
理人先生の腕の中から顔を上げて必死に言い募ると、抱き締めていた腕の力が緩み続きを促すように理人先生が頷いてくれます。
「……俺は自分の見た目に自信がありません。自信が持てるまで、と思っていた事もあります。それに、こんな平凡顔の俺が皆さんの近くにいれば皆さんが周りの方達から嫌な事を言われるかもしれません…」
段々尻窄みになる言葉を静かに聞いてくれていましたが、俺の言葉が途切れた途端。
「「「「「問題ない」」」」」
というハモった声が聞こえました。
「俺らにしてみたらミノルはこれ以上無いくらい可愛いんだよ。惚れた欲目だって言われたらそれまでだけどな。見た目なんぞ関係ねぇわ」
「周りの奴らがどう言おうと、当人達が納得していれば問題ないんじゃないかな?」
「藤堂さんは財力で黙らせるっすよね」
「先生も職権乱用しようだよね!」
「君たちも人の事は言えないでしょう?」
俺が悩んでいた事をさらっと一蹴してくれました。
後半はちょっと聞いちゃいけない部分かもしれませんでしたが…。
「あ、あの…俺、皆さんの事好きです。一緒にいると楽しいですし、誰か1人いないと寂しいです。でも、まだ誰が1番だとか特別だとか全然決められないし、凄く凄く待たせてしまうかもしれません…」
もぞもぞと理人先生の腕の中から抜け出して5人の顔を見ます。
きちんと言わなければと顔を上げ、丁寧に言葉を吐き出していきます。
「……待っていてもらえますか?」
贅沢な事だと思います。
こんなに素敵な人達から想ってもらえる事が。
自分の都合を優先してもらえる事が。
目を逸らさず、1人1人に問い掛けるように発した言葉は、優しく笑みを浮かべた皆さんに受け入れてもらえたのでした。
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