クソ水晶(神)に尻を守れと心配された件

ジャン

文字の大きさ
1 / 81

鬱蒼と繁る木々。
見たこともないカラフルな果物。
背にした大木から背後をチラリと見れば、異形の生物に取り囲まれている騎士らしき小隊。

見たところ腕は立つようだが幾人かの怪我人と退路を断たれているせいか異形の生物と対峙したまま隙を窺っていて身動きが取れないでいるようだ。
まだ若いのに苦労するな…と考えて今の自分の見た目が今し方観察していた人物よりも若いであろうことを思い出して苦笑する。

さて、助けなければならないな。
流石に素通りは出来ん。


「………」


ガサリ、と繁みから抜け出しつつ異形の生物ー魔物ーの背後へ回る。
魔物と対峙していた小隊は、突如現れた俺に注意を向けた。だが、取り囲む魔物にも気を払っているのは見て取れた。

……お?流石に騎士っぽい格好してるだけあるな。

俺は知らず笑みを浮かべる。その様子に警戒心をかき立てられたのか、俺が観察していた人物…団長と思しき男が口を開く。


「………何者だ」


当然の反応。俺は肩を竦めると、腰に差していた刀へと手を添える。鞘を握り親指で鍔を軽く押すとカチリ、と小気味よい音が響いた。柄を握り体勢を低く構えると自分に向かって唸りを上げる魔物へと、一気に間合いを詰めていった。




ーーーーーーーーーーーーーーー

時は少し遡る。

どうやら俺は死んだらしい。妹を守って街路樹と車のボンネットに挟まれて即死。
道場からの帰り道。偶然帰りが一緒になった妹と自宅へと帰宅途中、酔っ払いが運転する車が俺達目がけて突っ込んできた。幸い、俺は妹を突き飛ばせて避難させられた。まぁ、掠り傷くらいは負っただろうが死ぬよりマシだろう。
意識が途切れる前、傷みよりも死の恐怖よりも何よりもそんな事を思ったのを思い出す。

そして目が覚めたら真っ白い空間にいた。
目の前には水晶みたいなよく分からん物が浮いている。
訝しんでいるとその水晶みたいな物から声が聞こえた。


『はいはい、こんにちわ。こんばんは?とにかく初めまして、神様ですよー』


何とも間抜けな声に眉間に皺が寄る。
神様?…なんだ、夢か。


『失礼しちゃうー。夢じゃないんだからね!君は死んだんだよ、諏訪慎一郎くん。いやぁ、享年27って若いよね。しかもちゃんと妹さんを守って!お兄ちゃん偉い!そこで!神様であるボクが!君にすんばらしいプレゼントをしたいとおもいまぁす!!パチパチパチ~!』


あぁ、なんだ…イライラするわ…。ノリが軽いとかそんなものよりイライラするわ。叩き割るか。


『わー!待って待って!割っちゃやだー!ちゃんと説明するし、素敵なプレゼントなんだから落ち着いて!ね!ね?!』


曰く、ここは狭間だという。
現世とあの世の狭間。
…訳分からん。
曰く、俺はこのクソ水晶の間違いで死んだらしい。
…ふざけんな。
曰く、死ぬ予定じゃない死を迎えたため、輪廻転生出来ず、この世界…俺が元いた世界では消滅の道しか残されていないらしい。
…ふざけんな。
曰く、お詫びとして、別世界に転生させるという。チート?というモノを込み込みで。
…訳分からん。


『ほんっとうにごめんね?!だからお詫びとして、たっくさんプレゼントあげるからね!ちなみに、諏訪慎一郎くんが転生する世界は、剣と魔法と時々魔物のファンタジー世界だよ!あんまり女の人いないけど、でもすっごく楽しい世界だと思うの!更に今なら諏訪慎一郎くんを少し若くして転生させちゃうね!凄いでしょ~!』


ファンタジー世界なのは分かった。転生も、若返るのも分かった。でも女が少ないとは?頭に疑問符が浮かぶ。


『あー…あのね、ボクの前の神様がね?女の人を作るのが苦手でね?だから女の人が少ないんだよね。そもそも人間を作るのが苦手だったみたいで、諏訪慎一郎くんが行く世界には獣族とか魔族とか、人族以外の人が多いんだ。国同士の諍いとかも比較的少なめだし、脅威は突然変異の魔物くらい。ただ、その魔物の数がすんごく多くて大変なの。ボクも頑張って魔物を間引きしてるけど、あくまで間引き。あんまり干渉出来ないからね。魔物もこれから行く世界では必要不可欠な存在だからさ、難しいんだよね~。必要悪とか、魔素的な意味でね。』


魔素?良く分からんが、女が少なくて魔物が多いのは理解した。まぁ少なかろうが多かろうがどっちでもいいが。
で、プレゼントとやらを受け取ろうか。


『あ、若干面倒になってきてる?ごめんね!じゃあまずは武器!諏訪慎一郎くんはどんな武器がいい?』


武器か…魔物が多ければ武器は確かに必要だな。…刀があれば対処できるかもしれん。


『刀ね?おっけー。じゃあここをこうして…うーん?これで、ああして…こんな感じかな!』


ポンッと目の前にいきなり刀が現れる。反射的に片手で掴むとずしりとした重量感とともに手にしっくりと馴染むのを感じる。

あぁ、いい刀だ…。まさか本物を手にする日がくるとは…。


『気に入ってもらえたみたいで良かった~!それ、お手入れ不要の切れ味抜群!どんなに切っても刃こぼれもしない!万能刀にしといたからね~!後は能力的なプレゼントは何か希望あるかな?』


万能包丁みたいな説明に、一気に感動が薄くなる。はぁ…で、能力?別にいらんが…。


『じゃあボクが勝手に付けちゃうね!それからそれから!1番大事なこと!若返った諏訪慎一郎くんの見た目はどうする?このままだと割と大変かもだけど…』


見た目なんぞ変えてどうすんだ?大変とか分からん。…あぁ、強いて言うなら身体をもう少し平均サイズにしてくれ。梁に頭をぶつけるのも、デカくて邪魔だと言われるのももううんざりだ…。
どの位若返るのか分からんが、適度な大きさで頼む。


『おっけーい!じゃあ10年くらい若返ってもらおうかな?身長は…むむ…こんな感じかな?体格も平均的…平均的ってどんなサイズ?ええい!一回り小さくしちゃえ!さてと…見た目変えないと大変だと思うけど……お尻、大切にね?妊娠しちゃうから…大切にするんだよ?』


尻?何で尻なんだ?妊娠?訳分からん。
ポンッとまたしてもそんな音が響くと自分の視界が低くなった。
さっきの音と一緒に身体も変わったらしい。水晶を見上げるような形だ。多分15センチ程。
ということは…175くらいか?
胸板とかも薄くなってるな。
本当に一回り小さくなったようだ。まぁ、こんなもんだろう。


『能力はー…鑑定とか気配察知は付けて当然!のあるあるだよね。全言語理解もだしー…あ、魔力無限もつけちゃえ!攻撃力は刀があるから大丈夫そうだし、体力増強…は諏訪慎一郎くんの性格じゃ付けない方がいいかな?自分で鍛えちゃいそう。素早さも動体視力もまぁまぁな数値だから上げなくても大丈夫かな?あ、アイテムボックス付けちゃお~!あれ便利だもんね!魔法属性とか全属性付けてあげたいけど、どうしよっかな…気合で作れそう…じゃあ全属性の代わりに創造魔法にしよっと!うん、こんな感じかな!』


何か訳分からん事をブツブツ言ってるな…眠ぃ…。


『あ!寝ちゃだめだよ!能力説明する前に転生しちゃう~!』


あぁ、もう無理。寝るわ。おやすみ。


『あぁあ~…!諏訪慎一郎くん!向こうに行ったら速攻で鑑定使って自分を鑑定してね!!忘れちゃ駄目だよ~!!』


そんな言葉を聞きつつ、俺は意識を手放した。

感想 33

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!