クソ水晶(神)に尻を守れと心配された件

ジャン

文字の大きさ
22 / 81

22

しおりを挟む


翌る日の午後。
俺の首から漸く魔道具が外された。
どうやら捕らえた者達の中に外せる者がいたようで、そいつの魔力を魔石に込めたものをヒースが持ってきた。その魔石を首の魔道具に近付けた途端、カシャンと軽い音を立ててあっさりと外れた。
外れた魔道具を持ち上げてみれば驚くほど軽い。金属で出来たチョーカーに、楕円形の赤い魔石がはめ込まれたそれは、自分を使い物にならなくした原因の1つ。


「これ、ぶっ壊していい?」


ヒースに伺いをたててみたところ、駄目だと返ってきた。
残念。
とある黒幕さんにお返しするそうだ。とてもいい笑顔でそう言ったヒースに、手にしていた魔道具を喜んで渡した。決して、笑顔が怖かったから急いで渡した訳じゃない。決して。

魔道具から解放された俺は、早速回復魔法を自分に使った。手足を縛られていた時に擦って出来た傷は地味に痛い。それから諸々の事情で鈍痛を訴えていた下半身にも。
……おかしい…痛みは無くなったのに……まだなんか入ってる感じが…。
うん、気のせい!!


「さて。お仕事しますか」


回復魔法がきちんと効いてくれてよかった。俺は何の苦も無くベッドから立ち上がる。違和感があるが、これは気のせいだと現実逃避しつつヒースに案内を頼む。本当は今日も休めと言われていた。
が、昨日は仕方ないとしても、今日は休むつもりはなかった。回復魔法も使って身体は癒えたし、魔力無限のお陰でなんの支障もない。
それに、早く黒幕さんに魔道具をお返ししないとな。


案内されたのは、騎士団本部の地下にある牢屋だった。ここには、先日俺を攫った者達がいる。
どうやら全員金で雇われただけの集団だったようで、俺の姿を見た途端に仲間を売り始めた。
こいつが悪い。
金で雇われただけだ。
俺は止めようと言った。
許してくれ。
あいつが実行犯だ。
薬を飲ませたのはこいつだ。
魔道具を填めたのはあいつだ。
助けてくれ。


「うるせぇ…黙れ」


んん?あんだけ喚いてたのにピタリと静かになった。


「へぇ…そんな魔法も使えるのですね」


ヒースの言葉に無意識で魔法を使っていたらしい。
創造魔法すごくね?
こりゃ下手に使えんわ。とんでもねぇ魔法創りそう。

そんなやり取りをしていた間も、俺は喚き散らしていた連中の声を思い出しその中に目的の人物を見付けていた。
そう、あの言葉を言った奴。


神に殺されたのが運の尽きだったな。


1人1人の顔を殺気を込めた瞳で見つめる。じっくり、ゆっくりと。
怯えて目を逸らし震える者が続出する中、そいつは俺を睨み返してきた。
薬を飲ませたのはこいつだ、って言った奴。だって俺に薬を飲ませた事を知ってるのは2人しかいない。事前に指示されてるなら、飲ませた事実さえあれば誰が飲ませたかなんていちいち報告しないもんな。
俺はそいつを指差して心の中で魔法を解く。


「お前、助けてやってもいいぞ。名前は?」


俺の言葉に指を差された奴は目を見開いた。そして何かを考えているようで黙り込む。


「金で雇われただけの人達なんだろ?俺は暴力を振るわれたわけでもないし、傷だって自分で暴れて付けただけだ。薬だって指示されただけだろ?反省してくれるなら、助けてもいいと思ってる。けど、誘拐は事実だから恩情で1人だけ。被害者である俺がその1人を決めていいんだってさ。だからあんたにする。名前は?」


勿論、嘘だ。誰1人であろうと許す気はない。脅されていたならともかく、金で犯罪に手を出すなら他にも色々余罪はあるだろう。
思惑を悟られないように比較的普段通りに話す。ヒースもやれやれと肩を竦めていた。これも、芝居だ。
ヒースの万能さに脱帽するわ。
ちなみに、ギルとレイドはここにはいない。あの2人に演技は無理だろう。


「………カロン・ダンストン」


はい、ビンゴォ。
あいつが例の発言をした奴。俺は早速鑑定した。


「カロンね。じゃ、色々手続きあるし他の人達に恨み買わないように別な牢屋に入っててもらうから」



名前 カロン・ダンストン



備考 強盗、窃盗、詐欺、殺人等様々な悪事に手を染めている。技術者、ロレンス・グリューの腹心の部下。ロレンスの為に様々な裏工作を行うこともしばしば。



「他の人達もあんまり暴れないようにな。口添えくらいはしておくから」


会話をしつつ鑑定した内容を覚えていく。ヒースに目配せして確信した旨を伝えると、全員の魔法を解いてあたかも脳天気でお人好しな人物を装い牢屋を後にした。
ヒースは残ってカロンをすぐ隣の独房に移す。それから俺の後を追ってきた。


「後で羊皮紙に書き起こせますか?」


「余裕」


ニヤリとお互いに笑い合い、団長室へ向かった。


団長室に着くと、早速羊皮紙に鑑定結果を書き起こす。
俺の鑑定は、鑑定された本人が隠したい部分を見せる効果があるらしく、ギルとレイドを鑑定した時の備考欄の最後の文面もそうだったようだ。
おかしいと思ったんだよな…。
確認するために2人を鑑定したから間違いない。
ちなみに、ヒースも鑑定して結果を確認するために本人に見せたら………オカン属性が付いてた。やっぱりヒースは俺のお母様で決定だな。その他諸々恐ろしい結果だったが、煌めくような素敵な笑顔で内緒ですよと言われた。
死んでも話しません。鑑定してごめんなさい。

そんなこんなで物的証拠と状況証拠を集める。
俺を鑑定したロレンスは、とても忙しい身だ。1年を通して自宅に帰宅するのは片手で数える程しかない。そんなロレンスが俺を鑑定した数日後に2日ほど帰宅したらしい。物的証拠やら何やらがあるのは確実にその自宅。仮に証拠が無くても俺の証言や鑑定結果を突きつければいい。後はカロンくんにもちょっと強引にご協力いただく。
自宅への証拠集めは静かに行うそうだ。所謂不法侵入。
騎士団としてどうなの、それ。
まぁ……犯罪者なのは確定しているので大丈夫なんだろうけど…ほら、ねぇ?



しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...