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しおりを挟む至るところで魔物と交戦する仲間達の姿が見える。
ある者は魔物を打ち倒し、ある者は魔物の攻撃に倒れ込む。
今すぐ駆け付けて回復魔法を施し、一緒に魔物を倒したい。
一つ一つに対応していては回復も、魔物討伐も追い付かない。
だから今は、急ぐ。
全速力で戦場から後退し、ギルが指揮する陣営へ辿り着く。
俺を下がらせた理由があるのだ、急いでギルの元へ駆け付ける。
「団長!!」
ようやく見付けたギルは、自らも魔物と交戦したのか、魔物の返り血と既に治療が施された跡が残る腕をしていた。
呼びかけに俺の存在に気付いたギルが大股で近寄ってくる。
「戻ったところすまない。負傷者は魔法部隊に任せてあるから大丈夫だ。シンにはやってもらいたい事がある」
俺は頷きを返す。俺を下がらせた理由は、俺にしか出来ない事をさせるためだと理解している。
「ヒースと一緒に崩された岩山へ戻り、そこに結界を張ってくれ。2、3日持つ程度のものでいい出来るな?」
出来るか、ではなく、出来るな、という問い掛け。やれなくてもやらなければならない。
結界魔法など、今まで一度も使った事はない。だが、アレクが使ったのを目にした事がある。あの結界魔法を参考に、より強固で魔物を封じ込める結界を張れば良い。
「ヒースレン副団長は?」
「既に準備を終えている。あいつの能力を使えば魔物に気付かれる事無く近くまで行けるだろう。シンはなるべく力を使わず温存しておけ」
魔力無限の能力があるため、温存という言い方は正しくはない。ギルが言う温存とは、体力面だろう。
俺は頷きヒースの元へ向かう。
彼は既に準備を終えているという言葉通り、装備を脱ぎ捨て身軽な格好で俺を待っていた。
「団長から聞きましたね?シンさん、何もせず私に運ばれて下さい。出来るだけ動かず、息も細く長く。私にしがみつく以外力を入れないように気を付けて」
ヒースの言葉を理解すると、俺は身に付けていた装備を脱ぎ捨てヒースと同じように身軽な格好になる。それから呼吸を整える為に何度も深呼吸を繰り返した。呼吸が落ち着くと準備が出来たと視線を向け、俺を抱き上げるヒースの首筋にしっかりと抱き付く。
「隠伏、脚力増加、遮音、跳躍」
次々とヒースの口から紡がれる言葉。
それと同時に俺達の身体を包み込む淡い光。その光が消えると俺を抱えるヒースの腕に一層力が込められ、それと同時に一声かけられる。
「気を楽にして。行きますよ」
その瞬間、瞬時にして景色が変わる。野営地近くの陣営だった景色が戦場のど真ん中に。次の瞬間には既に目の前に岩山が迫った。目の前の岩山の切れ目から魔物が溢れている。更に景色が代わり岩山の山肌を音も無く駆け上がっているのが分かった。
ふ、と身体に感じる風圧が無くなる。それからそっと下ろされた。
どうやら目的地に着いたようだ。
見回すと、岩山の山肌にある足場のように抉れている部分だった。
自然に出来たものか、人工的に作られたものか、それは今詮索する事ではない。
俺は眼下に見える崩れた岩山を見下ろす。
強固で、魔物を通さない結界を張るために。
「強固な結界…ちょっとやそっとじゃ破れない結界…何重にも重ねた透明な鉄の板…?……よし」
イメージを練り上げていく。焦らず、ゆっくりとどんなに力のある魔物にも破れない結界を。
手の平を眼下へ向けたっぷりの魔力を込めて魔法を発動する。
「……結界」
途端、手の平が熱くなる程の熱を帯びる。反射的に閉じそうになるが耐える。耐えて発動し続ける。
岩山の、崩れた断面。その地面から淡い光のベールが上へ上へと伸び上がっていく。
光のベールに遮られ、魔物は岩山から出てこれなくなっていた。
俺は更に上へ上へとベールを伸ばす。
ちょっとやそっとじゃ破れない、乗り越えられない、強固で強大な結界を張っていく。
山肌に添って緩やかなカーブを描き、高みにいる自分達よりも高く。
そうして出来上がった結界は森から溢れ出る魔物を分断し、崩れた岩山を修復するような形で張られた。
「……っはぁ、これで暫くは大丈夫かな」
集中し過ぎて自然と息を止めていたらしい。
俺は自分で創り出した結界を見上げて呟く。すると傍らにいたヒースがやんわりと髪を撫でてくれた。
「お疲れさまです。見事な結界ですね。後は森から溢れてしまった魔物と、負傷者の回復です。急ぎましょう」
そう言うと再び俺を抱き上げて元来た道を同じように発動した魔法を駆使して駆け戻ったのだった。
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