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第一章 初心者の躍動

第二話 学校での一幕 (前編)

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 2185年初頭に世界的大企業園崎財閥が開発した。フルダイブ型のゲーム機【マージナルギア】が発表された。
 そのゲーム機の発表は全世界を震撼させた。
 何せ従来の機種とは違い、【マージナルギア】は使用した人間の触覚・視覚・聴覚・嗅覚・味覚などの五感を仮想世界の中で完全に再現していたのだ。

 そしてこの発表をきっかけに世界中のゲーム会社は競い合うようにしてフルダイブ対応ソフトの開発と販売を始めたが、やはりそこでも園崎財閥の方が圧倒的に技術力や他の部分でも上だったようで、発売から一年後にはすでに対応ソフトを十本程発売されていた。

 そして発売から更に三十年ほど経った時、園崎財閥がまた世界へと大々的に発表したのが世界初のフルダイブ完全対応のオンラインゲーム『アンリミテッド・ワールド』だった。
 同時に公開されたPV。そこに映し出されたのは中世の町並みとその中でいきいきと話している人々や、魔物と魔法や剣などで戦っている人間やエルフなどの空想上だけだった生物たちの姿だった。
 しかも映るすべてがまるで本物のようなクオリティで、その映像を見た世界の人々は驚愕し、同時に興味を引かれていった。

 そして発表から一年経ちようやく発売予定日を迎え、発売日を待ち望んでいた人々により世界中がお祭り騒ぎ状態になっている時、日本のとある高校でも学校中がその話題で持ちきりになっていた。
 そんな中でも全く興味も示さずに空を見上げている少年が1人。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁ…うるさい…」

 (進藤 渚しんどう なぎさ)は周りでガヤガヤと騒いでいるクラスメイト達を見て不機嫌そうに眼を細める。

 (そもそもゲームごときで、なぜここまで皆が興奮しているのかがわかんない)

 渚がそんな風に考えながらつまらなそうに空を眺めていると、背後から誰かが近づいて来ていた。
 その気配に渚が気が付いたのとほぼ同時にその誰かが背中に向かって飛びついてきた。

「渚~!おっはよっっっ!」

 とりあえず飛びつかれるのが嫌だった渚は、振り返りながら叫んで飛びついてきた人物の顔面を鷲づかみにして止めた。
 そのまま宙吊りにしたまま渚は後ろから飛びついてきた人物を確認すると、呆れたように溜息を吐き出した。

「はぁ…またお前か、後ろから飛びつくなと何度言えば分かるんだ?園崎 竜悟そのざき りゅうごくん?」

 呆れたように言いながら渚は掴んでいる手に更に力を加えていった。するとギリギリと頭から無ってはいけない音が鳴り出す。
 すると顔を掴まれている竜悟は慌てて渚の手を掴み必死に謝り始めた。

「ちょっ!?たんま!たんま!!やめてください!本当に悪乗りしてすみませんでした!だから、その~手を放してもらえるとありがたいのですが…」

 最初は必死に謝っていた竜悟だが渚が一向に手の力を緩めないので、その声の勢いも徐々になくなっていった。
 その謝罪を聞いた渚は少しだけ手に込める力を緩めたが、mだ怒りが収まっていないようで掴んだまま睨みつけながら話し出した。

「まぁそんなことより。あんな勢いで来たんだから何か話があったんだろ?聞いてやるよ。ただし、もしくだらない話だっらその時は…」

 渚はそこで言葉を切ると、意味深にニコッ!と笑顔を浮かべる。
 そんな渚の顔を見た竜悟は全身に悪寒が走って顔を青褪めながら何度も頷きながら勢いよく話し出す。

「お、おう!ちゃんとおもしろい話しだから、この手を放してくれると嬉しいなぁ~?なんて思ってみたり?」

 竜悟は少し目を潤ませながらすがるように上目遣いで頼み込む。
 その竜悟のしぐさを見た渚は気持ち悪そうに顔を歪めると、つい反射的に手に入れてた力を強めてしまう。

「余計なことは話さなくていいからさ?さっさと本題に言ってくれないかな?」

 渚は心底疲れたと言ったように少し俯きながら首を左右に振ってそう言う。
 竜悟もさすがにこれ以上話さないのは本当に危険だと気が付いて、小さく息を飲んで表情を引きつらせながらも必死に答えた。

「わ、わかったよ。ほら、今皆が騒いでいる『アンリミテッド・オンライン』ってあるだろ?それを一緒にやろう!って誘おうと思って…」

 少し怯えながら焦ったように竜悟は話していたが、途中から自信をなくしたのか声が徐々に消えていってしまったのだった。
 それを聞いていた渚は少しの間キョトン?とした表情を浮かべたいたが、すぐに嫌そうに顔を歪めると更に手に力を入れた。

「ふ~ん、ギアすら持っていない俺に対して、よくそんな事を提案できたなぁ?うん??」

 意地の悪い笑みを浮かべながら、手の力を更に入れて引っ張り上げるようにして竜悟の顔を覗き込んで渚はそう言った。
 その笑みを向けられた竜悟は怯えたように顔を引きつらせ、大量の冷や汗を流しながら慌てて弁解しようと話し出す。

「い、いや!そうじゃなくてな?ギアとソフトもこっちでちゃんと用意するからさ?一緒にやろう!って言うことであってですね…別に悪気は無いんだよ」

 これ以上は本当にヤバイ!と悟った竜悟は必死な様子で提案した理由を早口に説明した。
 説明を聞いた渚は怒っていたのを忘れたように興味深そうな表情を浮かべ、その手を急に放して微笑んでいた。

「ふぅ~ん、それで?もらえるんならもらうけどさ。なんでそんなにゲームに俺を誘うんだ?俺はそんなにゲームをやるタイプじゃないのを理解した上で誘ってるんだろ?なら理由を言ってごらん?」

 まるで威圧するようにゆっくりと竜悟に近寄り、笑みを浮かべて首を傾げながら渚はそう言った。
 その笑顔を向けられている竜悟はいきなり手を離されたためにその場に座り込んでいたが、そんな渚の表情を確認すると慌てて立ち上がって姿勢を正して説明を始めた。

「は、はい!そ、その~こ、今回は俺達の家の会社が作ったソフトじゃん?だから俺達は発売前のテスター?とか言うのに参加させてもらえたんだけどさ。その時もの凄く面白くて正式稼働したらやろう!っていう話になったから、だったら渚も一緒にやった方が楽しそうだなぁ?と思って誘いましたです!」

 竜悟は何故か敬礼しながらも、これ以上渚を機嫌にさせないために必死に出来るだけ丁寧に説明した。若干空回りして口調は変になってしまっていた。
 そのため竜悟の少しふざけたような体勢を見た渚は言葉遣いと合わせて余計に不機嫌そうに眉間を寄せていた。ただ話を聞いて行くうちに納得したようで、先ほどとは違い本心から楽しそうに笑みを浮かべて頷いて話し出した。

「なるほどねぇ~、そう言う事なら納得だ。それで?俺達と言う事は他にも誰か一緒にやる奴が居るんだろ?そいつらについても教えてくれないかな?」

 渚が先ほどまでのような威圧するような話し方ではなく少し楽しそうに笑いながらそう聞くと、竜悟は少し安心したように息を吐きだして口元に小さく笑みを浮かべて答えた。

「あ、あぁ!そう言う事だったら一緒に来ていたはずだからそこに!」

 竜悟が思い出したように一緒に来たはずの奴の方を指さしながらそう言ったが、そこには誰の人影も無かった。
 それを確認した竜悟は慌てた様子で辺りを見回しだしたが、何処にも人影は見当たらなかった。

 その事を確認すると竜悟は慌てて怒っていないか渚の表情を確認しようと振り返ると、そこには少し意地の悪そうな笑みを浮かべている渚がいた。
 渚は竜悟がその表情を見て少し怯えているのを特に気に留めた様子も無く動き出し、閉まっている教室の後ろの扉の前まで来ると心底楽しそうに話し出した。

「さて、それでそこで隠れている二人?三人?どっちかは分からないけど、とりあえず誰かいるのは分かっているぞ。大人しく出てくれば怒らないでいてあげるよ?ただし、もしこのまま逃げるようだったら後でキツイお仕置きだ。さて、お前らはどっちを選ぶ?」

 渚が心底楽しそうに笑みを浮かべて少し首を傾げながら扉にそう話しかけていると、それを見ていたクラスメイト達はこいつ何やってだ?と言った様子で少し気味悪そうに見ていた。
 しかし渚はクラスメイト達のそんな視線を特に気にした様子も無く扉を見続けていたのだが、すると扉がゆっくりと開きそこには二人の人影があり、その二人は綺麗に頭を下げていた。
 その二人の姿を見た渚は面白そうに口元に笑みを浮かべてその姿を見下ろしていたのだった。

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